517.シルヴェン王国の国境にて
いや……通用しなかったと言うよりはシルヴェン王国の国境もまた、フリーパス状態で通り抜けられる状態になっていたと言うのが正しいだろう。
何故ならその国境は同じ様に壊滅してしまっており、小国だからなのか城門を通る人々も居ないらしく、レウス達はそのまま通り抜ける事が出来てしまったのだ。
「ここもまた同じ様に穴が開けられ、全員が殺されている……そうなるとこれは強行突破されたって事よね」
「そうだな。貴様の言う通りの予想で正しいだろう。あのキャラバンのメンバー達は白昼堂々とその城門に穴を開けたらしいからそうやってハッキリ見られた様だが、こっちはこの分だと目撃者は居ないみたいだな」
レウス達はワイバーンを使って一気にアイクアルの国境からこのシルヴェンの国境まで飛んで来たのだが、相手もワイバーンを使って移動している可能性もある。
そうなると追い付いた分だけまた引き離されてしまうかも知れないが、とりあえずこのシルヴェン王国の領土に入ったと言うのが分かっただけでも大きな収穫だ。
「ええと、こっちって確かシルヴェンの西の方の国境で間違い無いのよね?」
「そうね。地図はイレインの仲間に返しちゃったけど、こっちは西の国境になるわね」
記憶力には割と自信のあるドリスがサイカにそう言っているのを聞き、エルザがハッとした顔になった。
「待て、それは妙だぞ」
「妙って?」
「だって、このシルヴェンの国境は東の方……つまり私達が通り抜けて来たアイクアルとヴァーンイレスの国境側にもあるんだってイレインから聞いている。しかしそちらの国境を強行突破するならまだしも、わざわざこっちの国境を強行突破したとなると、ヴェラル達には何か目的があったんじゃないのか?」
その目的、と言う単語に真っ先に反応したのはアニータだった。
「多分その赤毛の二人の目的は、シルヴェンの王都シロッコかも」
「シロッコ?」
「そう。何か目的があるなら首都を狙うのが手っ取り早いし、良くある方法。今までの話を聞いていて、赤毛の二人組はドラゴンの身体の欠片を狙っている。だから今回もきっとそれかも」
口数が少ないアニータにしては、かなり喋った方であるその予想に対して、レウスも賛同する。
「そうだな。でも……このシルヴェン王国の中にエヴィル・ワンの身体の欠片があるんだったら、俺達もそれを回収しに向かうだけだな。誰かこの中でシルヴェン王国に行った事がある人は?」
もしかしたらシルヴェンの地に詳しいメンバーが居るかも知れないので、エヴィル・ワンの身体の欠片についても何か分かる可能性がある。
レウスはそう考えたのだが、身体の欠片について知っているメンバーは居ないらしい。
「私、この国で働いていた事がある」
「私と姉様もワイバーンの納入で何回か出入りしていたけど、身体の欠片については聞いた事は無いわね」
「そうか、知らないか……。しかし少しでも地理を知っているメンバーが居るだけでも心強いから、アニータとヒルトン姉妹には道案内を頼みたい」
「まあ……別に私は構わないから良いけど、道案内って言っても出来る場所は私や姉様が行った場所に限られるわよ。何処に向かうつもりなの?」
「決まっているだろう、王都のシロッコだよ。そんな物騒な筒を持ったあの赤毛の二人が向かうとしたら、そこの可能性が高いからな」
そうなるとあのヴェラルとヨハンナの事だから、王都シロッコに危機が迫っていると考えて良いだろう。
もしかするとエヴィル・ワンの身体の欠片はシロッコには無いのかも知れないが、それでも情報収集の為に立ち寄る可能性は高いので、やはりまずはシロッコに向かうべきだと判断したレウスはワイバーンを飛ばし始める。
「リーフォセリアやエスヴァリークと比べたら全然小さな国だが、それでも国として成り立っている以上は色々取り引きとかあるんだよな、やっぱ」
「そうですわ。ワイバーンだって騎乗用に沢山納入していますし、このシルヴェン王国の騎士団には専門のワイバーン部隊もあるんですのよ」
そのワイバーン部隊は王国騎士団の主部隊としても活躍しており、空を縦横無尽に駆け回って敵をかく乱させ、攻撃されれば空中に逃げて安全に回避出来るし撤退だって楽である。
しかし、元々そのワイバーンの部隊はシルヴェン王国が発祥の地と言う訳では無く、王国の領土をスッポリと囲んでいるアイクアル王国が世界に先駆けてワイバーン部隊を設立した歴史がある。
レウスも五百年前のアークトゥルス時代のアイクアル王国に行った時に、そのワイバーン部隊の存在を実際に目にして協力して貰った事があった。
「今のこの世界の各国の騎士団では、ワイバーン部隊は当たり前なのか?」
「ううん、それは無いわ。ワイバーンは馬よりも飼育場所が限られるし、餌だって馬よりもかなりお金が掛かるし、乗りこなすのも馬みたいに簡単じゃないからね。だからワイバーン部隊が無い国の騎士団も多いわ。アイクアルは広い国土があって育てる場所があって、農耕に秀でているから餌代も自国栽培の物を使ってコストが抑えられるし、ワイバーンを育てるのには絶好の環境よね」




