516.謎の筒
「襲撃したのはたった二人だって?」
「ええ。この近くを通り掛かった行商人のキャラバンが、この城門を破壊する所を目撃したらしいです。しかもその破壊方法がかなり派手だったらしいですよ」
「派手……って、魔術を使ったらそりゃあ派手になるだろうな」
しかし、そう言うレウスに対してティーナが手に入れた情報はどうやら違うらしいのだ。
ここに来ているその行商人のキャラバンの内の一人が目撃した光景によると、魔術を詠唱する際にその人物の身体の周りに出る筈の魔力のオーラが全く見えない状態でいきなり大爆発が起こり、あっと言う間に城門が破壊されたらしい。
「と言う事は俺が考えるに、魔術を使わずにこの城門を派手にぶっ壊したって事になるんだよな?」
「そうね。でもこんな大層なものを魔術も何も無しで壊して通り抜けられるとは到底思えないわ。物理攻撃には限界があるし」
「だよな。無詠唱の魔術の場合も、同じ様に魔力のオーラが身体の外側に見えるよな?」
「そうらしいわね。私は実際に使った事が無いから分からないんだけど……って、それは五百年前の勇者である貴方の方が分かるんじゃないの?」
「ああ、かもな」
何だその答え方は……とレウスに対して若干ムッとするアレットだが、今はそんな事を考えている場合では無い。
重要なのはこの国境の役割をしている城門を、こうも簡単に壊して通ってしまう人物の事についてもっと知らなければならないのだ。
詰め所に居た国境の担当者達は全員が魔術で殺されてしまっている以上、魔術師の類が居たのは間違い無いと見て良いのだろうが……とレウスが考えていたその矢先、別のキャラバンのメンバーから話を聞きに行っていたドリスが追加情報を持って一行の元に戻って来た。
「何かね、そのキャラバンの人が見たって言うのは大きくて長くて太い筒だったらしいのよ」
「つ、筒……?」
予想もしていなかった物体の登場に戸惑うレウスだが、それに構わずドリスは頷いて続ける。
「そうそう。その筒の後ろ側がまず小さく爆発して、バシューッと何かが城門に向かって飛んで行って、それで城門がその後に大爆発を起こしたらしいのよ。それで詰め所からワラワラと騎士団の人たちが出て来たんだけど、竜巻で全員呆気無くやられちゃったんだって」
「何だか突拍子も無い話だな。それでお主が手に入れた情報はそれだけか?」
「ううん、まだあるわ。その様子を一緒に見ていたキャラバンの狐獣人の人によると、その爆発を起こした道具であろう筒の方から魔力のエネルギーの気配と、火薬の臭いがしたんだって」
「火薬?」
爆発が起こったのなら確かに火薬は使われたのだろうが、そこから推理をしてみた一行の中で真っ先に真実に辿り着くのが早かったのがティーナだった。
「あの……もしかしたらなんですけど、それってエスヴァリークでドリスと一緒に私が立ち向かったあのユフリーって言う女が持っていた、ハンドガンって言う新開発兵器の仲間ではないでしょうか?」
「ハンドガンの仲間?」
「はい。あのハンドガンは魔力で動く兵器ですが、その魔力のエネルギーで弾を打ち出すと言う仕組みですよね。で、今回のその筒の法からも魔力のエネルギーの気配がした。そして爆発も起こった。もしかしたら魔力のエネルギーと火薬を一緒に使って、強力なエネルギーボールを撃ち出す仕組みなのではないかと思ったんです」
「す、すごーい!! 姉様凄いわ!! それなら確かに辻褄が合うもん!!」
ティーナの推理にドリスが目を輝かせる一方で、レウスもそれなら確かに……と頷いて納得する。
そしてその推理に説得力を持たせる情報が、またそのキャラバンの別のメンバーに話を聞きに行っていたアニータからもたらされる。
「目撃情報があるわ。筒を持っていたのは黒を基調とした装備と服の赤い髪の男、その傍らには同じく黒を基調とした装備と服に短髪の赤い髪の女。最後に竜巻を巻き起こしたのは赤い髪の女だったらしいわ」
「ってなると……考えられるのはあの二人しか居ないだろうな」
「ええ、ヴェラルとヨハンナね」
アニータが手に入れた目撃情報を聞き、エルザとアレットが最初にピンと来た。
あの二人であればハンドガンを開発したカシュラーゼとも繋がりがあるし、その関係でその謎の筒を手に入れても何ら不思議では無いので、どうやらその二人が謎の筒と魔術を使ってここを突破したと見て良いだろう。
レウスがその考えをパーティーメンバー全員に話し、国境をそのまま通り抜ける。城門は野次馬で色々とざわついている上に、国境の担当者が誰も居ないのですり抜けるのは容易だった。
通り抜ける時に野次馬の一人から呼び止められた時には流石にレウス達もドキッとしたが、そこはティーナとドリスの二人が「ワイバーンの配達で急がなければならない」と上手く言いくるめた。
こうして結果的にサィードから貰った通行証も使わず、不法入国と言う形でレウス達とワイバーンはアイクアル王国への入国を果たしたのだが、シルヴェン王国の国境ではこれと同じ手は通用しなかった。




