514.幼馴染みの居所
こうして、ようやくシルヴェン王国へと向かう準備が整ったレウス達一行。
だが、最後にイレインに対してソランジュがこの質問をぶつける。
「イレイン、お主はサィードの幼馴染みの居所を知っているか?」
「えっ……王子の幼馴染みと申しますと?」
「コルネールとアーシアと言う、男女のコンビだ。お主は何か聞いていないのか?」
「ちょっと、失礼よ貴女」
ズカズカと入り込んだ質問をして、それを見ていたドリスにたしなめられるソランジュ。
だが、イレインは別に構わないらしい。
「いいえ、別に構いませんよ。コルネール様もアーシア様も、僕が知っている限りではおぼろげにしか居場所が掴めていないのが現状です」
「えっ、知っているのか?」
まさかの回答に対してソランジュのみならず、サィードやドリスと言った他のメンバーも驚く。
その一行の反応を見て、イレインは一度頷いてから話を続ける。
「ええ。噂ではカシュラーゼでの目撃情報があったりとか、それこそリーフォセリアに居たとか、目撃されている場所が本当に安定しないんです。恐らくは世界中を転々としているのではないかと思いますよ」
「 なら、その二人の容姿を教えて貰えないだろうか?」
「容姿ですか……十年前のものですけど、それでもよろしいですか?」
「ああ、頼むぞ」
ソランジュに促されたイレインは、その時のおぼろげな記憶を思い出しながら二人の容姿を伝え始める。
「コルネール様は白い髪の毛を短髪に切り揃えていました。瞳の色は赤で、背は高い方です。噂によると、最近何処かの戦場で顔に傷を負ったらしいですので、もしかすると顔に傷があるかも知れないですね」
「分かった。それではアーシアの方は?」
「アーシア様は黄色に近い金髪をかなり長めに伸ばしていました。今も変わっていなければその金髪が目印です」
「……それだけか?」
「そうですね。後の情報は良く分からないのです。でもコルネール様とアーシア様は何時も一緒に行動されておりましたので、もしかすると今もまだ一緒に行動されているかも知れません」
「良い仲だったと言うのであれば、その可能性は大いにあり得るだろうな」
サィードの幼馴染みの情報も手に入れ、やっとシルヴェン王国へと向かう事が出来る一行。
アイクアル王国に入る時に一度国境を通らなければならないのだが、そこはサィードが通行証を発行してくれるらしい。
乗って来たワイバーンは無事だったのだが、流石にサィードが乗っていた三匹目のワイバーンまで貰う訳にはいかないので、何処かで調達しようと考えるレウス。
しかし、そこはサィードからの餞別としてワイバーンも貰えるらしい。
「どのみちベリザッコ城がこの状況だからな。しばらくはイレイデンにイレインとこもって復興作業だ」
「何か私達にも手伝わせて欲しいわね」
「その気持ちだけ受け取っておくさ、サイカ。お前等はあのカシュラーゼの連中を追うのが何よりも大切だからよ。それからカシュラーゼに寝返りやがった、マウデル騎士学院の学院長も一緒にぶっ飛ばして来いよ」
「分かったわ。それじゃみんな、行きましょう」
「皆さん、どうかお気をつけて」
イレインも多数の仲間達と一緒に、これから各方面の復興をして行くらしいので、後はサィード達の仕事だろう。
自分達は自分達に課せられた使命をこなすだけなので、まずはアイクアル王国へと入るべく国境へと向かってワイバーンを飛行させた。
◇
「最初に聞いた時はびっくりしたよ。まさか君がこっちに寝返ってくれるなんてね」
カシュラーゼの地下世界で、人肉のステーキを食べ終わったディルクの元にやって来た一人の男。
それは既に、カシュラーゼに魂を売り渡したエドガー・グルーバーだった。
「俺だけじゃねえよ。レウスの……いや、アークトゥルスの育ての両親も一緒にカシュラーゼに寝返ったんだ。まさに怖いもの無しって奴だな」
「やっぱりビックリしたかな、あの金髪の男がアークトゥルスの生まれ変わりだって聞いた時はさ?」
「驚くよりも、そんな馬鹿な事があるもんかって思っちまったよ。でもゴーシュが捨て子を拾って来たって聞いた時から何か感じるもんがあったからな。まさかそれがアークトゥルスの生まれ変わりだとは思わなかったけど……考えてみりゃあの黒髪の両親から金髪のガキが産まれる訳がねえもんな」
そのエドガーの感想にディルクも頷くが、それよりもディルクが気になっているのは、エドガーが何故カシュラーゼに寝返って情報を横流ししたりしてくれるのかだった。
まだその理由を聞いていなかったディルクは、エドガーの言い分が楽しみで仕方が無いのである。
「それはそうとして、君がこっちに寝返った理由をまだ聞いていなかったからこの機会に聞かせてくれないかな。かなりワクワクしちゃうよ」
「俺がこっちに寝返った理由? そんなの簡単さ。俺は昔の復讐がしてえんだよ」
「復讐だって?」
「そうさ。ドラゴン絡みでちょっと色々あってな。エヴィル・ワンもその復讐の為に復活させてえんだよ。この世界中をあいつの業火で焼き尽くしてやりてえのさ!!」
「ふふ、面白いじゃないか。だったら僕はその復讐とやらに最大限の協力をさせて貰うよ」




