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512.着いて行けない理由

「えっ、どうして着いて来られないんだ?」

「どうしてって……この惨状を見ればこっちの立て直しが最優先だって分かるだろーよ」


 城の大火事がやっと鎮火して、さぁこれからようやくあの黒髪の人間を追い掛ける為の手掛かりを探すべくシルヴェン王国に向かおうぜとなった時に、まさかのストップである。

 しかし、サィードとイレインの言い分も良く分かる。

 こんなにも城が炎に飲まれて後始末が大変そうな状況なのに、その立て直しもしないで一緒にこの先の旅路に着いて来て欲しいとは言えそうに無いからである。

 イレインは元々このヴァーンイレス王国の騎士団員だったのもあるし、サィードに至ってはこの国の王子、いやこの先のヴァーンイレスを引っ張って行く国王となる存在だからこそ、この二人の重要性がかなり増す。


「今の状況から考えてみると、これはエスヴァリーク帝国で私達がセバクターと別れた時のシチュエーションにかなり似ていないか?」

「そうだな。ソランジュの言う通り、カシュラーゼによって甚大な被害がもたらされた。エスヴァリークの場合は城下町が主にやられ、このヴァーンイレスではベリザッコ城がやられたからな」


 ソランジュのセリフに、うんうんと首を縦に振って同意するエルザ。

 被害の規模は違えど、カシュラーゼの連中によって重要な場所がこうしてやられてしまったのは同じだ。

 しかもエスヴァリークと違うのは、このヴァーンイレスが十年もの間カシュラーゼを筆頭とする連合軍によって占拠されていた王国だと言う事である。

 だからこそ、この王都イレイデンを始めとして北にあるリリヴィスの町や西にあるイクバルトの町に人肉工場が建造されていたり、麻薬がはびこっていたりして元々のヴァーンイレスの国民達がメチャクチャにされていたのだから。

 それをやっとこうして取り戻し、地下に配備されていたあの透明なドラゴンも倒してエヴィル・ワンの身体の欠片も見つけてさぁこれからだ、と意気込んだ矢先にこの襲撃である。

 たった一人の人間を取り戻す為なのと、身体の欠片を奪い取る為だけにここまでのレベルの被害を生み出されてしまったので、未来の国王であるサィードが国を立て直さない訳にはいかないのだ。


「……でも、それだったら確かに仕方ありませんわ」

「そんな顔するなよティーナの。もう一度言うが、俺はこの先の旅にも着いて行く気は満々だったんだ。俺だってカシュラーゼの連中にはムカついているからな。それも十年って言う長い年月だ。だから俺も一緒に行きたいが、これを見て国の立て直しが先なんだって実感したからよ」


 それに、とサィードは自分の代わりのメンバーを手で指し示す。


「俺の代わりに、どうやらアニータが一緒に着いて行ってくれるみたいだからよ」

「えっ?」


 そんな事、アニータは一言も言っていなかった気がするが……とレウスはハナッから疑う目つきで、赤い髪の毛の小柄な弓使いの女を見る。

 それに対して相変わらず無表情で黙ったままのアニータだが、肯定も否定もしないのが何よりも不気味なので、ここは元々のパーティーメンバーを代表してアレットがアニータに問い掛ける。


「ねえアニータ、私達の旅に同行したいって思っているの?」

「……うん」

「おいおい、こうもあっさりと貴様は認めるか……」


 アレットの質問に、若干の間がありつつも肯定したアニータを見てエルザが驚きの声を上げた。

 その理由は彼女の口から直接聞きたいので、アレットは更に質問を続ける。


「じゃあどうして、私達の旅に同行したいの?」

「行く場所が無いから。冒険者だけど、今回の一件でカシュラーゼを敵に回したから依頼も受けにくくなると思って。カシュラーゼにとっての私は裏切り者だし、カシュラーゼは世界中のギルドにもそれなりの影響力があるから、なかなかカシュラーゼ絡みの仕事を受ける訳にもいかないでしょ。それで辺にトラブルになったら嫌だし」


 だったらいっその事、カシュラーゼを裏切って協力したこのレウスのパーティーに着いて行くのが一番の正解の選択肢だ、と思っているのがアニータの言い分だった。

 しかしそれはそれとしても、レウスにとっては何だか余りこのアニータを同行させたくない気持ちの方が強い。


「俺、この女に面と向かって気持ち悪いって言われたんだが……」

「それは分かるわ。確かに貴方が嫌な気分になるのも理解出来る。でも私は、レウスが気持ち悪いだなんて思った事は無いわよ?」

「そうなのか?」


 今度はアレットに面と向かってそう言われ、レウスの顔に驚きの色が浮かぶ。

 それを見たアレットが、大きく頷いて続けた。


「そうよ。確かに格好つけていたのかも知れないけど、私は別に何とも思っていなかったし。そもそもこのパーティーの中で、レウスを気持ち悪いって思っているメンバーの方が少数じゃないの?」


 そう言われてみれば、面と向かって自分に対して気持ち悪いだの、格好つけていると言っていたのはアニータとイレインの二人だけである。


「エレインって女も、相当自分に酔っている気がするんだよなってサィードも言っていたし、私もそう思うわってその時に思ったし……だから私は気にする事は無いと思う。後、個人的な意見としては彼女は弓使いだから、遠距離攻撃が出来るメンバーが居た方がきっと役に立ってくれると思うわ」

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