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510.消火活動

「ダメだ、執務室の中に入れねえぞ!?」

「ええっ、嘘でしょおっ!?」


 やっとの思いで辿り着いた、ベリザッコ城の中にある国王の執務室。

 そこで確かにエルザとティーナの二人にホルガーの見張りを任せた筈なのに、この燃え盛る炎が一番大きい執務室は完全にその炎に食われてしまっている。

 これではもう二人の命は絶望的だ……と諦めかけるパーティーメンバーだが、リーダーのレウスは違った。


「さっきも諦めるなと言っただろう! とにかくここも消火だ! この火の出方からすると恐らくここが一番最初に燃え始めたんだよ!!」

「くっ……特大のウォーターボールをお見舞いするわ!!」


 そう言いながら燃え盛る炎に向かってウォーターボールを放とうとするが、レウスにそれは止められてしまった。


「ダメだ、それじゃあこの炎に対しての攻撃は弱すぎる!!」

「だったらどうすれば良いのよ!?」

「ウォーターウェーブだ!! 波で一気に押し流せ! 詠唱している間、俺がこの炎を少しでも弱めてみる!」

「う、うん……分かったわ!」


 レウスに指示を出されたアレットが、今の自分が使える最大級の水属性の魔術であるウォーターウェーブを詠唱している間に、レウスも自分が使える水属性の魔術で火を少しずつ消して行く。

 勿論、執務室の中に向かって声を掛ける事も忘れない。


「エルザ、ティーナ、後もうちょっとだからな!! 耐えろよー!!」


 絶望的だと分かっていても、諦めてはいけない時がある。

 それがまさに今の状況であるとレウスが痛感していたその右斜め後ろから、アレットの準備完了の声が掛かった。


「レウス、ウォーターウェーブを発動するからどいてっ!!」

「良し、頼むぞっ!!」

「任せて! ウォーターウェーブっ!!」


 そう言いながら、何かを思いっ切り投げ付ける様なフォームでアレットが右手を振りかぶれば、その手の中に大きな水のうねりが現われる。

 そして炎に向かって勢い良く手のひらをかざせば、その刹那アレットから発動された大きな水の波が執務室の中に流れ込んだ。


「ぶほっ!!」

「うおあああああっ!!」


 意外と威力が強すぎたのか、アレットのウォーターウェーブは一瞬で執務室の中を鎮火しただけに留まらず、執務室の外にまで水の波となって流れて行く。

 パーティーメンバー達はその波に流されない様に必死に踏ん張りながら、一瞬で鎮火させてしまったアレットのそのウォーターウェーブの威力に驚く他のメンバー。


「うおおおおっ、すげぇぞアレット!!」

「凄いわ……やったじゃない!!」

「良し、これで中に入れるぞ」


 レウスも安堵の表情を浮かべるが、その一方でアニータがポツリと不吉な事を呟いた。


「……居ない」

「え?」

「この部屋の中に人の気配が感じられない。あの二人はここには居ない」

「な、何を言っているんだ? あの二人はここに居ただろう。お主もそれは見ていただろう?」

「それを踏まえた上で断言出来る。ここにあの二人は居ない」


 非常に冷静に呟くアニータの横で、それならば……とレウスが探査魔術を起動して人の気配を調べてみる。

 ここまで激しく燃えてしまった部屋だろうが、暗く深い海の底だろうが、探査魔術は生物の魔力に反応してその居場所を知らせてくれる魔術なのだ。

 最初からこれを使って中の様子を探れば良かったんだと今更になってレウスは悔しがるが、この大火事によって何時に無くパニック状態に陥ってしまい、そこまで気が回らなかったのもまた事実。

 なので今、初めてこうして探査魔術で居場所を探る展開になったのだが、確かにアニータの言う通りの結果になった。


「……本当だ、この部屋の中に生体反応が無い」

「そうなの!?」

「そうだよサイカ。だから恐らくこの執務室の中に居ないってなれば、別の場所に逃げた可能性が高い。考えられるのは城の外に逃げ延びたか、別の部屋に行ったか、もうこの中で死んでしまったか……のどれかだ」

「ちょっと、縁起でも無い事を言わないで下さいよレウスさん!」


 イレインがレウスの発言をたしなめるが、レウスは「事実だ」と言って譲らない。


「この世界の生物は、生きている間は魔力を体内に有している。だけどその生命活動が停止した時、魔力も身体の中から消えるんだ。勿論すぐに消える訳じゃなくて時間が経つにつれて徐々に薄くなり、最後には魔力が完全に抜ける」


 そこで一旦言葉を切って、レウスは燃えカスとなり果てた質の良い絨毯を踏みしめながら続ける。


「だから俺の探査魔術に反応しないのも頷けるんだが、かと言ってまだ望みを捨てた訳じゃない。あくまで可能性の一つとして俺は言っているだけだ」

「まあ、それは確かに……」

「とにかく今はまだ燃えている個所を鎮火しつつ、あの二人を探してみよう。この変に割れている窓ガラスは少し気になるが、恐らく熱で割れたんだろうな」


 そうレウスが提案した時、不意に聞き慣れた声が執務室の外から聞こえて来た。


「その必要は無いぞ、レウス」

「っ!?」

「そうですわ。私達は外に逃げ延びて無事です。そこの窓ガラスを割ったのは私達なんですから」


 突然聞こえて来たその声のする方向に、パーティーメンバー全員が目を向ける。

 そこには身体中に傷を負って服も所々焦げているものの、無事に二本の足で立っているエルザとティーナの姿があったのだ。

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