508.castles ablaze!
しかし、それについてアレットはレウスに異議を申し立てる。
「でも、アンリさんは違うと思うわよ」
「どうしてそう思う?」
「だってほら、確かあの人って茶髪だった筈よ? あの魔術師のドミンゴってのは緑色の髪をしていたから違うって言えるし、レウスもそう思っているんでしょ?」
「ああ、あのドミンゴは俺も違うと思うぞ」
「そうよねえ。けど、アンリさんがどうして候補に挙がっているの?」
そう疑問に思うアレットに対して、レウスは歩き続けながら自分の推測を話し始めた。
「光の加減で、あの男の茶髪が黒い髪の毛に見えてしまったとしたら?」
「え?」
「ほら、良く居るだろう。茶色っぽい黒髪の人間が。それが黒髪に見えたって不思議じゃない。ましてや、ここの地下通路は魔力のランプが設置されているとは言え薄暗いのに変わりは無いし、あの部屋だってそれは同じだっただろう。しかも、アンリはリーフォセリア王国騎士団の人間だから何処かでエドガーと繋がりがあったっておかしくない。色々と情報を流してくれていたのもあいつだったから、余計に俺はそう思う」
「そう……かなぁ……」
他に黒髪の男は誰が居る? と問われれば、思い付くのは自分達をあのイクバルトの人肉工場で待ち伏せて襲い掛かって来たホルガーだけだ。
だが、彼は地上のベリザッコ城の中でエルザとティーナに見張られているのだからそれは無いだろうと考えるレウス。
いずれにしても、その黒髪の人間が誰なのかはこれから先の旅路で分かる時が来るだろうと思っているのだが、かなり早くその時がやって来たのである。
……ベリザッコ城の中が散々荒らし回られていると言う、最悪の状況を目の当たりにするのと同時に。
◇
「おいっ、これは一体どう言う状況なんだ!?」
「う……ああ、すまないレウス、私達ではあの男に歯が立たなかった……」
「しっかりしろエルザ、ティーナ!!」
イレインとサィードによる道案内で無事に地上へと戻る事が出来た一行だったが、地下通路から城の中に続くドアを開けた一行が最初に目にしたものは、至る所で火の手が上がっているベリザッコ城の惨状だった。
「な、何これ……!?」
「一体何が起こったんだ!? くそっ、火の手もそこかしこから!!」
「落ち着いて下さい王子! とにかく火を消しながら城の中に行ってみましょう。あの残して来た三人の安否も気掛かりですからね!!」
とにかく城の中に残して来た三人が気掛かりなので、アレットとレウスが中心になって水系統の魔術を使って火を消しつつ進んで行く。
エスヴァリーク帝国の帝都ユディソスの城下町で、あの大規模な爆発が起こっているのを思い出してしまうレウスだが、それは彼に限った話では無い。イレインとアニータ以外のパーティーメンバー全員が、そのユディソスで起こった爆発を知っているのでかなりのデジャヴである。
「くっそ、かなり火の回りが早いんじゃないのかこれ!?」
「くんくん……油の臭いがするわ。恐らく油を撒いて火をつけたのね。でも誰が一体こんな事を……?」
「分析するのは後回しだアニータ! 今はとにかくあの三人の安否を確認すんだよっ!!」
レウスとアレットによって開かれる道を進みながら、一行は三人の元へと急ぐ。
途中、至る所で爆発が起こったり崩れている瓦礫が道を塞いだりしているのが、パーティーメンバー一行が三人の元へ辿り着くのを遅らせる原因になってしまう。
それから城の中では、イレインが集めた元騎士団員や傭兵仲間達が既に消火活動にやって来たらしく懸命に水属性の魔術や火を叩いて消している。
だが油を撒かれてしまっているせいもあってか、水を飛び散らせる魔術だとかえって火を大きくしてしまうのもムカつく話だ。
「くっそぉ、何処だエルザ、ティーナ!!」
「次を左です!!」
レウスとアレットが火を消し、地下通路から引き続きイレインとサィードに道案内をして貰う事で城の中を駆け回る一行。
その中で気が付いたのは城の外側よりも、城の中に進むにつれて火の手が大きくなっていると言う事である。とすると、この火災は最初このベリザッコ城の内部で始まったらしいとレウスは心の中で分析しながら、水属性の魔術で消火活動を続ける。
「なぁ、上に向かうにつれて火が大きいんじゃないのか?」
「そうだな。くそっ、これじゃあ俺の執務室もどうなっているのか考えただけでも恐ろしいぜ!!」
「諦めるな! 無駄口叩いている暇があったらとにかく早く道案内をして、俺達を導いてくれ!!」
国王の執務室がゴール地点。
城の最上階に位置している底に近付くにつれて、通路を塞ぐ瓦礫の数が多くなってそれを撤去して時間を食ったり、爆発が起こったりして足止めを食らってしまったりと火災が激しくなる。
レウスはパーティーメンバー全員に魔術防壁を掛けているのだが、それでもこれは灼熱地獄だ。
「おーいエルザ! ティーナ! 何処だぁ!?」
「聞こえているなら返事をしてーっ!!」
しかし、そのソランジュやドリスの呼び掛けにも応答する声は無い。
これは最悪の展開も覚悟しながら、炎と熱風が占拠している城の中に道を作りながら進んで行った。




