504.過去と現代からのメッセージ
「き、気持ち悪い?」
「ええ。やれやれ……仕方が無いなとか言っていたのを見て、私はそう思った」
「え……え?」
予想もしていなかったアニータからの指摘に対し、唖然とした顔で絶句するレウス。
それはレウスのみならず、他のパーティーメンバーも同じ様な顔をしていた。
「ど、ど、ど、ど、ど、どう言う事?」
「だからそのままの意味。貴方は格好つけていたの。そしてそれが鼻につく」
「いや、俺は別に格好つけていたって訳じゃないが……」
実際にそんな事をしていたつもりが無いので、何でアニータが突然こんな事を言い出したのか理解に苦しむレウス。
しかし、まさかの所からアニータの意見に同調する声が出てきたのはその時だった。
「あ、あの……僕も実はさっきから少しそう思っていたんですよ……」
「おい、イレインまで何を言っているんだよ!?」
「そ……そうよ。いきなり何を言い出しているのよ!?」
イレインからの衝撃発言に、アニータを含めた他のメンバーの視線が一気に彼の方に集中する。
何故そんな事を言うんだ? とレウスが目で問い掛けるのを見て、イレインは一つ頷いて答え始めた。
「レウスさんと一緒に行動していた時から、貴方のセリフには少し恰好つけたいって思ってしまう様なイントネーションがありました」
「例えば?」
「例えばそうですねえ……」
記憶の中からレウスの、ちょっと格好つけたい様なそんなセリフを思い出しながらイレインは続ける。
それは数こそ少なかったものの、言われてみれば確かに「ああそうか」と思ってしまう様なものだった。
『ああそうさ。そうじゃなかったら後はどうやっても入れそうに無いし。だから手っ取り早く入るのさ。この囲っている城壁を人一人分だけ入れる様に、上手くぶっ壊してな!』
『まあな。ガラハッドの場合は夜だったけど、あいつはもっと大きなエネルギーボールを使って敵にバレてまったから結局無駄に終わったんだが……あいつの考えもこうして役に立つ事があるんだなってつくづく思ったよ』
イレインによれば、レウスの場合は格好つけているのもあるし何だか上から目線と言うのも相まって、気取っている様に見えてしまうらしい。
アニータも今までに無い位に大きく頷いて、イレインの話にこう続ける。
「つまり、前世で貴方が殺されてしまったのはその気取っている性格もあるからでは?」
「待て待て、俺は本当にそんなつもりは……」
「無いと言いたいんでしょ。でも、端から見るとそう思っている人も居る。現にここでだって私とその人も思っているんだし、そう言うのが昔のパーティーメンバー達に伝わって、うっぷんが蓄積されたんじゃないかしら?」
相変わらず抑揚の無い声色でそう言われて、ついにレウスの我慢も限界に達した。
「お前に……お前に何が分かるんだ! 五百年前の人間でも無いのに、お前に俺のパーティーの一体何が分かる!?」
「五百年前のことはわからないけど、貴方とこうして一緒にドラゴンを討伐してここに来るまでの間に感じた事を言っているだけ。そしてそこから推測しただけ」
「だったら、この木箱の中に入っていた手紙を読んでから言えよ! 俺がどんな人間だったのかが書いてあるかも知れないからな!」
エヴィル・ワンの身体の欠片、それから水晶と一緒に入っていた一枚の手紙。
それを読めば何か自分に対してのメッセージが書かれているかも知れないと考えたレウスは、やや乱暴な手つきでその手紙を広げて読み始めた。
それが、もっと自分を追い込んで行くと言うのも知らないままに。
『この手紙を読んでいる人が居ると言う事は、私が……エレインがここに来たと言うのを知ったのでしょう。私はガラハッドの度重なる暴力に耐えかねて逃げて来ました。ガラハッドが調子に乗り過ぎるのが嫌になった私は、本当の事を秘密の日記に書き留めて逃亡する決断をしました』
「秘密の日記?」
「えっ、それって前にチラッと聞いた覚えのある日記の事かしら?」
「おいちょっと待て、最後まで読ませてくれ」
ソランジュとサイカの会話を遮り、レウスは手紙の内容を再び読み上げ始めた。
『ガラハッドが、自分の日記にも自分の都合の良い様に書いていたのを知っていました。私との生活の事、国の政策に関しての事、その他諸々……それが後世になって発見される様な事になれば、きっと世界はそれがエスヴァリークの真の歴史だと誤解してしまう。だから私は自分が密かに自分専用の日記を作り、それに真実を書き留める事にしたんです。アークトゥルスとの確執や、暴力に始まるガラハッドの横暴等を後世に伝える為に』
「あれ? これってアークトゥルスとの確執じゃなくてガラハッドとの確執じゃねえのか?」
「いや……先を読んでみるとそうでもないみたいですよ、王子」
イレインの言う通り、エレインの手紙はアークトゥルス……五百年前のレウスとの確執について書かれていた。
『私達エヴィル・ワン討伐パーティーのリーダーであるアークトゥルスは、旅を続けるにつれそのキザさが目立つ様になりました。それが私達の中にストレスとして蓄積され続けた結果、段々とアークトゥルスを毛嫌いする様になったのです。その筆頭格がガラハッドで、度々アークトゥルスと衝突していたのが何よりの証拠です』




