502.壁画の謎の答え
2000ポイント達成しました。感謝感謝です。
これからもよろしくお願いします。
「文様がある」
「え?」
「壁画の端にずらーっと入っているヒビ、これって魔術の文様じゃないかしら?」
「ん~……あ、そう言えばそうね!!」
パーティーメンバーの中で一番魔術に詳しいアレットが、良く見るとそのヒビが文様になっている事に気が付いた。
いや、魔力で動くランプが設置されているとは言えなかなかヒビと文様を見分けるのは難しい。そもそもこのヒビに見える文様は黒く描かれているので、三百年も前の地下通路の中から発見された壁画をパッと見たら文様をヒビだと思ってもおかしくない。
「でも、どうして俺達が見ても分からなかったのに、このアニータには分かったんだよ?」
「さぁ? それは本人の口から聞けば良いんじゃないかしら。ねえアニータ、どうして文様だって見抜けたの?」
サィードからの質問を横で聞いたサイカが、彼の代わりみたいにアニータに質問する。
それに対して、やはり口数の少ない赤毛の弓使いの女は壁画に向かって指を差しながら答える。
「距離」
「距離?」
「そう。ここからだとヒビに見えるけど、こうやって後ろに下がって全体を見てみると……」
「え……?」
「もうちょっと視点を下げてみたら?」
「こ、こう……あ、あああああっ!?」
サイカが驚きの表情になるのを見て、他のメンバーも彼女と同じく中腰になり、アニータの目線と同じ高さになる様にしながら壁画を見つめてみる。
「お、おおおおおっ!?」
「あー、確かにこれは文様だな……」
「そう、そうよ! こうやって壁画の全体が視界の中に入る様にして、そして見つめてみると分かるわ! これが文様なんだって!!」
そのアレットが興奮する様子を横で見ていたレウスが、ふと頭に引っ掛かる事があった。
「ん? ちょっと待て。そうなるともしかしてこの壁画って、元々魔法陣だって事になるのか?」
「そう、そうよ!! だから多分これに魔力を注ぎ込んでみると、何かが分かるかも知れないわ!!」
「じゃあレウス、お主の魔力で頼んだぞ」
「お、俺ぇ?」
「当たり前だ。お主の魔力は常人の十倍もあるのだからな。これに注ぎ込めるだけ注ぎ込んでくれ!!」
既に魔力の供給元はレウスだと決まっているらしく、魔力の貯蔵庫扱いされている彼は仕方が無いとばかりに首を横に振りながら、壁画に向かって右手をかざす。
右手の手のひらから青白い光が現われ、壁画の中心に向かってゆっくりとその一本の線になった魔力の帯が当てられ続ける。
すると、その魔力を当てられた壁画が発光し始めた。ここまでは魔法陣が起動する現象と同じなのだが、普通の魔法陣と違うのはここからだった。
レウス達の踏みしめている地面に向かって、その光り輝く壁画から一本の線が地面に当たり始めたのだ。
「え……お、おい……これって?」
「何かの形を成し始めたわ。レウス、壁画の前からずれて光の邪魔をしない様にしながら、魔力をそのまま壁画に当て続けるのよ!」
「あ、ああ」
アレットの指示に従って、レウスは壁画の傍らに立ったまま魔力を当て続ける。
壁画から出ている光の帯は、そのまま地面に複雑な形の線を描きながら右に左に動き続け、最終的に光が止まった場所を最後に壁画から出て来る光も薄くなって、最後には消えてしまった。
壁画自体の光はうっすらとだが光っているので、地面の光っているこの複雑な線の方が本体らしい。
それはアレット曰く……。
「これ、魔法の転送陣よね……」
「そうらしい。この転送陣に乗った先に、何かがあるって事になるよな?」
「ああ。お主達は全員この先に行くつもりなのか?」
ソランジュの疑問に対して、当然だと言わんばかりの顔でパーティーメンバー全員が頷く。
そう問い掛けたソランジュ自身もまた、他のメンバー達と同様に転送陣の先へと向かうつもりだった。
「それじゃ、行くしか無いわよね」
「ええ。何が起こっても構わない様に戦闘準備ね。武器を構えて臨戦態勢を取り、私達は全員魔術防壁を掛けて貰ってから向かうのよ」
「掛けて貰うって……貴方は魔術師でしょう? 僕達に貴方が掛けてくれるんじゃないんですか?」
イレインが心底不思議そうにアレットに聞くが、彼女はレウスに目を向けてにっこり笑う。
「私の魔術防壁よりも、レウスの魔術防壁の方が効果の持続時間が長いし、防御力も桁違いなんだもん」
「分かるのですか?」
「それは分かるわよ。私も何時か、レウスみたいに物凄いレベルの魔術防壁が使えればって思うんだけどね。でも私はまだまだだから、ここはまたレウスに頼みたいわ」
「やれやれ……仕方が無いな」
また首を横に振って、更に溜め息まで吐きながらもレウスはここに居るパーティーメンバー全員に魔術防壁を展開させ、準備を整える。
そのレウスを見ていたアニータは、無表情ながらも彼に対して心の中でこう呟いた。
(何だかこの男……妙に格好つけていると言うか、自分に酔っていると言うか……気持ち悪いわね)
パーティーメンバーの中で最年少、そして身体の小ささもメンバーの中でナンバーワンの彼女に心の中で辛辣な評価を下されているとも知らず、レウスは全員に魔術防壁を掛け終えて頷いた。
「これで良し。さぁ、魔法陣の先に向かうぞ」
「ええ、行きましょう」
レウスに対してアレットが呼応し、一同は魔法陣の上に乗って壁画の部屋から何処かへ転送されて行く。
その一行の動きを見ていた、とある人物の影がある事にも気付かないままに……。




