500.ドラゴンとの決着
だが、ドラゴンの絶叫はそれでは終わらなかった。
目を矢で刺されて大暴れするドラゴンだが、その前脚にそれぞれ槍の高速連続突きとショートソード二本の斬撃が入る。
レウスは自分の腕に魔力を溜め、魔力のエネルギーによって一時的に身体能力を上げて連続突きを繰り出したのだ。そしてイレインのショートソードによる連続の斬撃は、彼が元々得意とする得意技。
この三人の連続攻撃によって片目の視界を奪われ、前脚二つの踏ん張る力も刺突と斬撃によって奪われてしまったドラゴンは、力が抜けて前屈みに首を伸ばした状態で崩れ落ちた。
『グヒャアアアッ!!』
「うわっ……あ、また透けちゃった!」
だが何とこのタイミングで、またもやドラゴンの身体が透明になった。
このままだと攻撃が出来ないので、アレットがその伸ばされた首の先端にある口の中に三本目の瓶を投げ込んで再び実体化させる。
その瞬間、後ろからサィードの大声がアレットに向かって聞こえて来た。
「アレット、伏せろおおおおおっ!!」
「え、あ、はっ!?」
後ろを振り向くと同時に、その声が余りにも大きかったので反射的に身を伏せるアレットの頭上を、一つの影が駆け抜けた。
いや、飛び越えたと言った方が正しい表現であろう。
何故ならそれは、愛用のハルバードを構えてドラゴンの顔面に向かって跳躍したサィードだったからである。
「くおらああああっ!!」
『グガアアアアアアアッ!!』
「さ、サィード!!」
彼はハルバードの柄を両手で持ち、刃先が地面の方を向く様にしたままで跳躍し、地面の方に落ちるスピードで増された威力も使ってドラゴンの眉間にハルバードの槍の部分を突き立てたのだ。
しかしその突き立て方が狙いとは少しずれてしまい、斜めに突き刺さって浅くなってしまった。
「くっ、浅いか!!」
『ギャウウウウウウアアアアアアッ!!』
「うおあああーーっ!?」
サィードが全体重を掛けて更に槍の部分を突き刺そうとしても、しょせんは人間一人の力でありドラゴンを抑えられる訳が無い。
つまり首を振って暴れるドラゴンの動きに耐えられず、サィードはハルバードの柄から手が離れて吹っ飛んでしまった。
(くそっ、こいつがこの地下に居る限りイレイデンの治安は……!!)
もはやここまでか、と思って地面に叩き付けられる衝撃に備えたその瞬間、硬い地面の衝撃には似つかわしくないふんわりとした感触の場所に背中からぶつかった。
そのまま後ろにゴロゴロと転がり、何とか受け身を取る形で着地に成功したサィードは、その感触を生み出した場所の正体に気が付いた。
「だ、大丈夫!?」
「あ、ああ……助かったぜ!」
「安心するのはまだ早いぞ。もう一度お主はあのハルバードでこの化け物ドラゴンを突き刺すんだ!!」
「私達がまた援護するし、さっき貴方が振り払われる前に再び薬も投げ込んだから……さぁ、早く!!」
自分を三人がかりで受け止めてくれたのはサイカ、ソランジュ、アレットだった。
身体を張ってクッションになってくれたその三人の気持ちを無駄にしない為にも、サィードは再び立ち上がって暴れるドラゴンに向かう。
その一方で暴れるドラゴンのもう片方の目に一本の矢が突き刺さり、またもや大きな悲鳴を上げる。
『ギャウウウウウッ、グアアアアアッ!!』
「あ、アニータ?」
「今よ!」
アニータによって完全に視界を奪われてしまったドラゴンが、首を下げた所に向かってタイミング良く再び跳躍したサィードが、突き出ている自分のハルバードの柄に飛び付いた。
そしてバランスを取りながら一度そのハルバードを引き抜き、もう一度……今度は確実にまっすぐ垂直に突き刺す事に成功した。
その刹那、今までのどれよりも大きなドラゴンの絶叫が広場中に響き渡った。
『グギャアアアアアアアアアアアアッ!!』
「ぬおああああああっ!!」
鼓膜を破られそうになるものの、そんなのに構っていられないサィードは全身全霊を込めてハルバードを突き刺す両腕に力を入れ続ける。
ドラゴンも激しく首を振って抵抗するものの、もう一人の援護でレウスによるエネルギーボールの一撃がドラゴンの首に当てられる。
それによって首から力が抜けた所で更に深く突き刺されたハルバードが、完全にドラゴンの息の根を止めるまで数秒しか要さなかったのだ。
「はぁ……はぁ、はぁ……あー……」
「うおっとっとっと!!」
「王子、危ない!」
絶命して横倒しになるドラゴンと、ハルバードを握ったままでその動きに引っ張られるサィードは再びドラゴンの首の上から投げ出される形になったが、今度ばかりは絶叫による耳の疲れと力を込め過ぎた事による両腕の疲れで、既に受け身を取れるだけの気力が残っていなかった。
だが、そこはレウスとイレインの二人の男がクッションとして受け止める事によって、何とか九死に一生を得る形になったサィード。
その彼が身体を起こして見たものは、完全に絶命してピクリとも動かなくなってしまった、再び身体が透けているドラゴンの亡骸だったのである。
この瞬間、イレイデンの地下通路を我が物顔で闊歩していたカシュラーゼの生物兵器は息絶えた事が分かり、生物兵器の脅威は去ったのだった。




