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499.実体化

「出たわ……」

「ええ、ついに出ましたね。まさかこんな場所に居るとは思いもしませんでしたけど」

「でも戦うには絶好の場所よね」


 ヴァーンイレスの王都イレイデンの地下に広がる通路の一角にあるのが、作業員達が休息をとる為の場所として使われていたと言う言い伝えのある、このドラゴンが居る広場。

 事実、そこかしこに椅子代わりの大きな石が纏まって置かれている事からも分かる通り、かなりの人数の作業員達がこの地下通路を掘っていたらしい。

 そして長い月日が経った今、その休憩所の広場がドラゴンとの戦いの場所になろうとしていた。


『ガアアアッ、グゥアアアアアッ!!』

「威勢が良いねえ……」

「明らかにこっちに対しての敵意しか感じられないわ。それならこっちも遠慮する必要は無いわね」


 サィードがハルバードを構える横で、アレットが持ち物の中からイクバルトの町の中にある人肉工場から持ち出した、人肉の瓶詰めをガサゴソと取り出してその蓋を開ける。

 勿論、実際にこうして人肉をこのドラゴンに使うのはこれが初めてなので、どうなるかは誰にも分からない。その第一投目がアレットの手によって、ドラゴンの目前に投げ付けられた。

 それは不格好な弧を描きながらドラゴンの口元に向かって投入され、ガリ……ベシャッと瓶が噛み砕かれる音がする。

 物理攻撃も魔術攻撃もすり抜けてしまうので、アレットの投げた瓶がどうして投入出来たのか原理は分からないものの、どうやらエサの類はしっかりと飲み込んでくれるらしい。

 後はこの透明なドラゴンが一体どうなるかと、固唾を飲んで見守る一同の目の前で……。


「お、お、おおおおおおっ!?」

「えっ、こ……これがこのドラゴンの正体!?」

「透けていたから分からなかったが、こんなまだら模様なんて見た事が無いぞ!!」


 瓶を飲み込んで実体化したドラゴンが、まだら模様の紫色のボディを現わした。

 そのドラゴンは低く構えて唸り声を上げ始めたので、危険を察知したサィードが咄嗟に叫ぶ。


「やべぇ、全員避けろっ!!」

「ひいっ!」

「きゃあああああっ!!」


 瓶を投げたアレットを始めとして、そのドラゴンが突進攻撃を繰り出した延長線上に居たメンバー全員が緊急回避でその突進を何とか回避。

 そのまま受け身を取って立ち上がったメンバーだったが、その瞬間全員が信じられない光景を見る。

 それは壁に頭からぶつかり、痛みに呻いているドラゴンの姿であった。


「あ、あれ……すり抜けてない……?」

「そう、そうだ! やっぱりあの瓶の人肉が効いているんだ!!」

「それはそうだろうな。あの瓶の情報が本当なら、具現化したあのドラゴンがああやって壁をすり抜けられないって言うのも分かるからな」


 キョトンとするアレットの横でソランジュが興奮気味にそう叫ぶのを見て、レウスが冷静に分析する。

 しかしあの人肉の効果が何時まで続くか分からないので、効果が切れる前に早めにこのドラゴンを討伐しなければならない。

 パーティーメンバーは全員武器を構え、方向転換をして再び自分達をターゲットに定めた実体化状態のドラゴンを迎え撃つ。

 まだら模様なのがなんとも不気味なそのドラゴンだが、実際にこうして戦ってみると特に普通のドラゴンと戦い方は変わらない。


「ドリス、そっちに回れ!」

「ソランジュはそっちから切り込んでくれ!!」


 この広場はかなり広いので、パーティーメンバーが分散して攻撃出来るのがメリットである。

 地下通路は天井や壁の至る所に魔力を使用するランプが取り付けられているので、ドラゴンが再び透けてしまっても居場所が分かるのも助かっていた。

 しかし、人肉の効果はそんなに長く続かないらしいのがすぐに分かった。


「え……う、嘘っ!?」

「くそっ、また身体が透けて来やがった!! おいアレット、人肉だ人肉!」

「あ、うん!!」


 ゴソゴソとまた瓶を取り出し、ドラゴンの注意をアニータの狙撃で自分の方に向けて貰ってから、再び口の中目掛けて瓶を放り込む。

 大体一分位でこうやって効果が切れてしまうと、いずれそのストックも尽きてしまう。

 瓶の数には限りがあるので、その尽きる前に倒さなければならないのだ。

 確実にダメージは与えられているのだが、このままチマチマと攻撃していても埒が明かないので一気に攻撃しなければならない。

 そう確信したサィードは、アニータに対して叫ぶ。


「おいアニータ、あいつの目を狙え!!」

「目を?」

「そうだ! それからイレインとレウスはあいつの前脚を重点的に狙って、前屈みにさせるんだ!!」

「え……あ、はい!!」

「それなら……右脚は俺がやる!!」


 二人の男がそれぞれの前脚の方に向かったのを見て、アニータはドラゴンの目に向かってキリキリと矢の狙いを定める。


(風が無いだけ狙いやすいけど、なるべく動かれる前に……)

『グアガアアアッ!!』

(そこっ!!)


 引き絞られた弓から放たれた矢が、空気を切り裂いた一本の線になってカッとドラゴンの左目に突き刺さる。

 その瞬間、広場の中にドラゴンの大絶叫が響き渡った。


『ギャアアアアアアアアッ!!』

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