498.再び地下へ
レウスの采配により、ここはエルザとティーナがホルガーの見張りとして残って、残りのメンバーで地下へと向かう事になった。
イレインとサィードはこの地下通路の案内役として駆り出され、アニータは遠距離攻撃のメンバーとして駆り出された。ここで話題になったのは弓使いのアニータの素性である。
「気になってたんだけど、私達の誰よりも年下だと思うのよね。アニータって何歳なの?」
「……十三」
「じゅ、十三!?」
「えっ、もうちょっと上なのかと思ってたんですけど……」
「ちょっとお主、その反応は女性に対して失礼だろう」
質問したサイカを始め、アレットやイレインも一様に驚く。しかし当の本人はそんなリアクションには慣れているらしく、一行に対して無表情のまま歩き続ける。
まさかこんなに若い人間だったなんて、とアニータの事実に対して驚きを隠せないメンバー達だが、その中で更にドリスが衝撃の事実を追加で思い出した。
「でも……あれ? ちょっと待ってよ」
「どうした?」
「いや、その……冒険者として活動している中で、私と姉様が聞いた事のある話なんだけどね。このエンヴィルーク・アンフェレイアの世界中で活動している私達みたいな冒険者は、ギルドに入って仕事を請け負うのが当たり前でしょ?」
「まぁ、それはお主の言う通りだな」
そのドリスのセリフにソランジュが頷くが、何故急に彼女がそんな事を言い出すのかと言うのは次のセリフで判明した。
「上から三番目のBランク。そこに辿り着く為には余程の腕が無ければ無理よ。でも……そのBランクに位置している、かなり若い女の冒険者が居るって話をちょくちょく姉様と一緒に聞いていたのよ」
「え? それってまさか……」
「ええ、色々な地域を回りつつ旅をして成績を上げている、ロングボウ使いの赤毛の女って話だったわ。それが恐らく……」
「あのアニータだって事かよ!?」
サイカもサィードも、アニータを見て自分のランクと比べてしまう。
アニータがBランクであり、サイカはCランク。それからサィードは彼女と同じくBランクなのだが、彼がこの地位まで上り詰めるまでには幾多もの経験を積み、そして実績をギルドに提示してでの話である。
それはサイカも分かっている事で、顎に手を当てながら考え込んだ。
「そうそう。基本的に十歳から入れるって事になっているけど、本格的な魔物討伐等の依頼を受けられるのは十二歳から。それまでは届け物とかの、身の危険が及ばない様な依頼しか受けられないのがルールの筈なのに……その年齢でBランクですってぇ!?」
サイカの絶叫に近い驚きのセリフにも、アニータはさも当たり前だと言わんばかりに表情を変える事はしない。
その態度が気に食わないサイカだが、ドリスは彼女について更なる情報を提供する……ちょっとばかり嫌みったらしくではあるが。
「でもねえ、そのギルドランクについてなんだけど……なーんか怪しいのよねえ。十歳になった時から冒険者として活動を始めたとして、たった三年でそんなBランクまで上がれるとは到底思えないんだけど」
「おい、それはちょっと失礼じゃないか?」
「じゃあ聞くけど、客観的に見てレウスはこの女のギルドランクについてどう思うのよ? 最初は魔物の討伐もさせて貰えなくて、最下位のランクのEからギルドランクが上がってもせいぜい一個上のDまで。十二歳からすぐにCに上がって、それから今十三歳になるまでには明らかに早過ぎる気がするのよねえ。で、同じ事をもう一度聞くけど……客観的に見て貴方はどう思うのよ、レウス?」
「そりゃまあ、客観的に見たらドリスの言う通り早過ぎる気はするがな」
確かにそれはそうだ、とドリスとレウス以外のメンバーも歩きながら思っていた。
しかし、その彼女の不可解なギルドランクについてもう一人情報を耳に入れている者が居た。
「あ、あの……僕が聞いた話なんですけど、アニータさんは確か弓の名手で、その狙撃の精度にはベテランの弓使いの方も舌を巻く程のセンスがあったそうです」
「そうなの?」
「はい。例えば空中を飛ぶワイバーンの目を目掛けて正確に矢を当てるとか、風の強い場所で矢がぶれるのを予測して遠くに居るターゲットに一発で矢を命中させるとか、ギルドで噂になっているんですよ。しかもまだ十二歳になりたての女の冒険者だって言うからギルドで噂が回るのも早くて、僕や僕の仲間達の耳に話が入るのも早かったんです。その活躍が次々に認められて、異例のランクアップを果たしたとも聞いていますし」
だが、それについて異議を申し立てたのはアレットだ。
「でもちょっと待ってよ。それだったらどうしてこのアニータと最初に出会った時に何のリアクションも示さなかったの?」
「名前は知っていたんですが……アニータと言う女性の方は沢山この世界の中にいらっしゃいますし、弓使いの冒険者も沢山いらっしゃいますから断定は出来なかったんです。似顔絵も何も無かったので顔も知りませんでしたし」
「そうか……それなら納得出来るわね」
「じゃあ、ドリスはどう思っていたのよ? まさか……お金でも積んで不正にランクアップしたとでも思っていたの?」
「……」
ドリスは黙りこくったままなので、恐らく図星だろう。
それについて一言謝ってほしいと考えるアレットやレウスだが、当のアニータは前を見据えてボソッと一言呟いた。
「そんな事より、今は目の前のあれを何とかするべきじゃないかしら?」
彼女の見据える先には、透明のドラゴンが唸り声を上げながら鎮座する広場があった。




