491.イクバルトの町の周りで
レアナからテレパシーでディルクの考えている事について教えて貰ったレウス達だったが、それならばとこの機会を利用してついでにレアナから、イクバルトの町の現状についても教えて貰えないか頼んでみる。
すると意外にも、レアナは快くそのイクバルトの町の中を探ってくれると言う。
『五分程お待ち下さい。分かる範囲の事を探ったらまたご連絡致しますわ』
「はい。よろしくお願い致します、レアナ様」
そこで一旦テレパシーは終了となったが、考えてみればイレインも何かしらの情報をキャッチしているであろうとサィードが思い出した。
もしかしたら調べたその情報を持っている自分をないがしろにされて怒っているんじゃ……と考えつつも、ここは度胸一発とばかりにサィードはイレインに話を切り出した。
「なぁ、なぁ……イレインもイクバルトの町について何か調べたんじゃないのか?」
「そうですねえ、僕が調べた所によれば……ヴァーンイレス国内だけにとどまらずアイクアルの方からも馬車が良く出入りしていた、と言う事ですかねえ?」
てっきり不機嫌になっているのかと思いきや、イレインは嫌な顔を一つも見せずにサィードにそう言った。
「馬車の出入りだと?」
「はい。荷物の中身については、やはり人肉用に麻薬漬けにされてしまったヴァーンイレスの国民達。それからアイクアルでは魔晶石が多く採れるのでそれもありました。後は麻薬ですね」
「魔晶石も運んで来ていたの?」
「確かにアイクアルでは魔晶石が多く採集出来ますけど、それってもしかしてあの人肉を加工する為の設備を動かしたり、大砲を製造する過程で必要になったりするからでしょうか?」
ヒルトン姉妹の疑問にイレインは頷いた。
「その通りです。あの設備や大砲を動かすのは魔晶石が必要ですからね。大砲を壊しに行った時も、地下で敵を倒した後に大砲について書かれた書類を見つけて流し読みをしたら、魔晶石がエネルギーとして必要だと記載がありましたから」
「良く流し読み出来たな。まぁそれは置いといて、私にはお主の話に疑問があるんだが」
「何です?」
「アイクアルとヴァーンイレスの間には国境がある筈だが、そこを何度もそんな物を積んで通り抜けていたら怪しまれるんじゃないのか?」
「それはアイクアルもカシュラーゼと同盟を組んで戦争に協力していたのですから、フリーパス状態だったと調べもついております」
更に話を進めてみれば、ヴァーンイレスを占領したカシュラーゼによってアイクアルの方も魔晶石を供給していたのだとか。
しかしまさか、それが水面下で自分達に向けて砲撃をする為の大砲を造るべく使用されていたなんて、アイクアルの方も夢にも思っていないだろうとイレインは話した。
どうやらイクバルトの町の周りで色々と運び込まれていたのだと考えると、ここも早急に制圧しなければならないらしい。
だが、その前にアニータに対して説明しなければならない事もある様だ。
「ねぇ……その話よりも、さっきの声の方が私は気になるんだけど」
「えっ?」
「あ、あ……ああ、さっきの声? えーっとあれはだな……」
しかし、良いタイミングなのか悪いタイミングなのか。
この女に話すべきかどうか迷っているその時、レアナからのテレパシーがまた繋がったのだ。
『アークトゥルス様、アークトゥルス様、聞こえますか?』
「ん……ああ、レアナ様?」
『はい。イクバルトの町について調べたんですが、どうやらそこにはアイクアル王国の騎士団の方々がかなり常駐されている様ですね』
「アイクアルの騎士団が?」
『はい。同盟国であったアイクアルの騎士団が、そのイクバルトの町を守っているらしいですね』
「そうなると……アイクアルを敵に回すって事になるのか?」
『そうなりますね』
レアナからハッキリそう言われたレウスは、そのアイクアルの出身であるヒルトン姉妹に目を向ける。
しかし、姉妹のどちらとも覚悟を決めた顔をして頷いた。
「私は……こんな非道な行為に加担している騎士団の人達を許しておけませんわ」
「私も姉様と同じよ。人肉工場がある事を知っていただけでもかなりあくどいのに、魔晶石やら人肉の材料にする為の人々や、麻薬やらをこっちに持って来るなんて……到底許せないわよ」
既に、自分達の故郷であるアイクアル王国の国民を相手にする展開になる事を予想しているらしく、レアナの情報に対して覚悟を決めているらしい。
「と言う訳です、レアナ女王陛下。俺達はこれからイクバルトの町に乗り込みます」
『分かりました』
「ですが……やはり正面突破しかありませんか?」
『はい。あそこは石の壁しかありませんし壁の高さも低いですが、魔術防壁を隙間無くしっかりと張られていますのでそれしか無いかと』
「そうですか……それでは今から突入しますよ」
『ご武運をお祈り致します』
今度こそレアナとのテレパシーは完全に終了し、いざ乗り込もうと思っていたその矢先。
「ねえ、勇者アークトゥルスの生まれ変わりの方々とか、さっきのレアナ様……どうやらカシュラーゼの女王様の名前だと思うけど、この話って私も聞いちゃったのよね」
「……あ」
アニータのセリフに、レウス達の顔が一気に真っ青になった。




