490.またまたテレパシー
「え? イクバルトの町に向かった?」
『はい。アークトゥルスの生まれ変わりの方が率いているパーティーの波動を追い続けていた所、どうやらワイバーンで次の人肉工場へと向かった様ですね』
レウス達がワイバーンに乗って再び出発したその頃、カシュラーゼの中にある塔の中でレアナがテレパシーを使って、エスヴァリークの帝都ユディソスで店の開店準備をしていたエンヴィルークに経過報告をしていた。
『イレイデンの人肉工場、それからリリヴィスの町にある人肉工場は潰し終わったらしいので、残るはイクバルトの町にある人肉工場だけとなりますね』
「それは分かったが……お前が何でそんな事を知ってんだよ? 人肉工場がその三か所にあるって良く知っているって、俺様は疑問に思うんだがな?」
『それは知っていますよ。あのディルクって魔術師の方が、私に対して自慢げにペラペラと喋るんですから』
心底うんざりしているのがテレパシー越しでも分かる声色のレアナに、エンヴィルークは苦笑いを浮かべながら話を続ける。
「あいつが自分からそう言ったのかよ。ならしゃあねえな。で……そっちのカシュラーゼについて気になる話を他に何か手に入れてねえのか?」
『ああ、それでしたら気になるお話が二つ程ございますが』
「えっ、あんのかよ?」
『はい。まず、カシュラーゼの方に何か所か人肉工場がを製造してそこでも人肉を製造しているらしいです。それからカシュラーゼ以外の国にも何か所か目立たない場所に工場を造って、それでビジネスの幅を広げるらしいって話もありました』
「おいおい……そりゃあふざけてやがるなぁ」
しかし、人肉工場以外にもふざけた話がもう一つあるらしい。
『それから人肉工場の他にも、各国に向けて大きなエネルギーボールを発射出来る程の射程距離を確保している、超大型の大砲が各地にあるらしいですね』
「大砲だと?」
『はい。その大砲の内、ヴァーンイレスのリリヴィスの町の地下に建造されていた大砲については、どうやらあのアークトゥルスの生まれ変わりの方が率いている一行が破壊したらしいです』
「……でも、その口振りだとまだまだ他にもありそうだな?」
『残念ですが、そうなのです……』
エンヴィルークの嫌な予感は当たってしまった。
もっと良く話を聞いてみれば、カシュラーゼの計画ではエヴィル・ワンの復活とともに世界中に対して宣戦布告をし、世界を手中に収めるらしい。
その為に大砲を世界の至る所の地下で極秘に建造し、世界の国々の首都から砲撃してそれぞれの中枢機能を破壊し、復活させたエヴィル・ワンで一気に破壊し尽くして制圧するのだとディルクが自分に向かって話していた、とレアナがエンヴィルークに伝える。
それを聞き、エンヴィルークは再び苦笑いを浮かべた。
「しかし、まさかその話した奴がこうやってテレパシーを使って俺様に連絡出来るとは、そのディルクって魔術師も夢にも思っていねえんじゃねえのか?」
『そうでしょうね。あの方は私がテレパシーを使えると言う事を知りませんから』
「そうか。だったら俺はその情報を纏めておくから、そのアークトゥルスの生まれ変わりのパーティーにも伝えてくれよ」
『かしこまりました、それでは』
テレパシーを終わらせたエンヴィルークは、グラスをタオルで拭きながらポツリと呟いた。
「エヴィル・ワン……俺様とアンフェレイアの間に生まれた、失敗作のドラゴンか……」
◇
「あそこがイクバルトの町?」
「そうよ。あそこにどうやって入るのかってのは、普段だったらあの門を普通に通れば良いんだろうけど……」
「明らかに門番が要るし、物々しい雰囲気が伝わって来るな」
イクバルトの町の出入り口となっている木製の大きな門が見える場所にワイバーンを着陸させ、レウス達は正面突破するか夜になるまで待ってこっそり忍び込むかで悩んでいた。
早めに工場を潰したいのは山々なのだが、安全に忍び込むなら夜まで待った方が良いだろうと考えるレウス。
しかし、そのレウスを始めとする一行の脳内に懐かしい声が聞こえて来たのはその時だった。
『……勇者アークトゥルスの生まれ変わりの方々、聞こえますか?』
「っ!?」
「えっ、あれ……この声ってまさか!?」
突然、パーティーメンバー全員に対して聞こえて来る声。それも何処か遠くから聞こえて来るのではなく、自分達の頭の中に直接誰かの声が響いて来る不思議な感覚の声。
それは以前、エスヴァリーク帝国のアークトゥルスの墓に居た時に聞こえて来た声に間違いなかった。
「レアナ……女王陛下?」
『そうです、カシュラーゼのレアナです。皆様お久し振りです。貴方達は今、ヴァーンイレスの西にあるイクバルトの町の近くに居るのですね』
「は、はい! あの、今回は何のご用で……?」
『今回は皆様に、カシュラーゼが主導して製造している超大型の大砲についての情報をお伝えする為にテレパシーを使っております』
「大砲ですか? それってもしかして博物館の地下で破壊した、あの大砲の話ですか?」
『はい、それについて追加情報がございます』
そこまで言って一旦言葉を切り、レアナはレウス達に対して多数の大砲がカシュラーゼによって配備されている現状を伝え始めた。




