46.一夜明けて
一夜明けて、マウデル騎士学院の爆破騒ぎでカルヴィスの街全体にやっと落ち着きが戻って来た中、レウス達は騎士学院の後片付けに追われていた。
「おーい、これどっち運べば良いんだ?」
「それはそっちに頼む」
「これは何処に置けば良いのかしら?」
「それは向こうで集めてる奴が居るから持ってってくれ!」
レウスだけでは当然人手が足りないので、アレットやエルザを始めとする騎士見習いの人間や獣人達は勿論、アンリを筆頭に王国騎士団員達とその傘下組織の王国警備隊員達がせっせと働いている。
騎士学院の学院長であるエドガーは、直々に現場検証にやって来た騎士団長ギルベルトと一緒に出火元の特定や原因を調べていた。
しかし騎士学院の見習い騎士達からの証言からも分かる通り、学院の至る所で爆発が起こっている為に特定には時間が掛かりそうだった。
しかも、それ以上に気になるのは肝心の防火装置が全く作動していなかった事だ。
「こうなると、学院の構造を知っていた人物が犯人の可能性が高いんじゃないですかね?」
「そうなるな……」
エドガーの推理にギルベルトも頷く。
普段、騎士見習いの生徒を始めとする多数の人物の出入りがある時なら、その中の誰が爆発を起こしたかというのがかなり特定しづらくなる。
だが今回爆発が起こったのは、何故かそうした混雑が全く無かった休日だった。
何故こんな人目に付きやすい日に、ここまでの大規模な爆発を起こせるのだろうかとエドガーもギルベルトも首を傾げていた。
「もし仮に俺が犯人だったとしたら、平日の人の往来に紛れて爆発が起こる様にしますけどね」
「俺だってお前と全く同じ考えだよ。ってか、そうした方が爆発を起こしてより多くの人間や獣人を巻き込む事が出来る。……でも……」
今回は人間も獣人も犠牲者はゼロであった。
これは奇跡と言っても良い被害の少なさであり、被害が出たと言えば約四割が燃えてしまった学院の建物位のものだからだ。
となれば、今回この学院の爆発が起きた原因が分からない以上にその目的すらも一切不明である。
学院長と騎士団長の議論が交わされる一方で、現場にはこの二人もやって来ていた。
「大変な事になったわね……レウス」
「あ、母さん!? それに父さんも……どうして?」
「せっかく王都まで来たんだし、何泊かしてから帰ろうと思っていたら母さんが王都に居る友達に会いに来たらしいんだ。それで街中でバッタリ出会ってな」
何と、偶然とも言うべきかレウスの両親であるゴーシュとファラリアが揃って登場したのだ。
ゴーシュは自分の元に荷物を届けに来てくれたばかりなのでこの街に居てもおかしくは無いのだが、まさか母のファラリアまでこの街に来ていたとは思ってもいなかったレウス。
その両親は、口を揃えて今回の騎士学院の爆破事件に対して憤りを見せていた。
「全く……誰がやったのかは知らないが、まさか学院がこんな事になってしまうなんてな」
「本当ね。貴方が巻き込まれなかっただけでも良かったけど、一体誰が何の目的でこんな事を仕出かしたのか理解に苦しむわね」
「それは今、向こうでほら……エドガーさんと騎士団長のギルベルト様が推理をしているよ。だけどここから見えるだけでも首を傾げてばかりだから、全然話は進んでいないみたいだ」
「そうよねえ……」
ゴーシュもファラリアも完全に部外者なのだが、まさか自分の息子を通わせ始めた途端に学院が爆破されるなんて何か呪われでもしているのでは? と疑ってしまうレベルの事件である。
そして、この街に滞在しているゴーシュはあの事件の話も耳にしていた。
「そうそう、この爆破事件とは別の話でちょっと聞いたんだけど、学院にドラゴンが現れたんだって?」
「ああ……。黒いのがバサバサと翼を動かして学院に向かって来たんだよ。それも火事が起こる少し前にな」
「え、ドラゴン?」
「そうなんだよ。それがさ……」
ファラリアはあの生物兵器襲来の話を聞くのが初めてらしいので、ゴーシュへの詳しい説明も兼ねて何が襲来したのかを話しておく。
そして話を聞いたゴーシュはますます眉間に深くしわを刻み、ファラリアは深く溜め息を吐いた。
「ドラゴンの形をした生物兵器がカシュラーゼから逃げ出したってのは行商人の情報網から噂で聞いていたけど、まさかその内の一匹がこんな所にピンポイントで現れるなんて、お前はよっぽどついていないんじゃないのか、レウス?」
「悪いけど私もそう思うわ。この騎士学院に関わる様になってから色々とバタバタしているもの。一刻も早くこの騎士学院から退学するべきだと思うんだけど」
「おいおいおいちょっと待ってくれ。入学したばかりでそれはまずいだろう」
「じゃあ貴方はレウスがどうなっても良いって言うの!?」
「いや、そんな風には思ってないけどさ……」
(弱ったなあ……喧嘩始めちゃったよ)
何処もかしこも混沌とした状況になって、自分の頭の中がパニック状態のレウス。
だが、パニック状態のまま作業に後片付けの作業に従事しているのは、彼以外にもまだ複数人居たのである。




