484.今度の相手は……
地下の乱闘が幕を開けるが、ここでも上階での戦いと同じく五人の冒険者達がなかなかの連係プレイを見せて敵を一人、また一人と倒して行く。
しかもここには自分達が使う武器以外にも、大砲を製造する為に少しずつ運び込まれた大砲の材料となる金属棒や石と言った、数々の物品が置かれている。
その物品を投げ付けたり振り回したりして有効に活用しながら、コラードに対して少しずつ近付いて行く五人。
だが流石に五人全員でコラードを相手にする訳にも行かないので、ここは役割分担をして三人が大勢の敵の排除に回り、コラードと面識があり戦い方も知っているソランジュとサイカが再び彼に立ち向かう。
「またこうして戦えるとはねっ!」
「その言葉、私から君達にそっくり返すよ」
「だが、お主に大砲を造らせる訳には行かないんだ。大人しく身を引けっ!!」
「それは出来ないな」
的確に、そして素早いロングバトルアックスさばきを見せるコラード。
前回より確実にスピードもテクニックも上がっているらしいので油断は出来ないが、それと同時に他の敵にも気を配らなければならないので、この二人の中でも役割分担をする。
以前コラードと戦ったサイカに彼の相手をメインでして貰い、ソランジュは群がって来る敵を倒しながらサイカとともにコラードに立ち向かう変則的な戦い方を繰り広げる。
「すっ、ふっ、はっ!!」
(やはり素早いこの動きだが……私と君には埋められない大きな差があるのだよ!!)
サイカに対して頭の中でそう告げるコラードに向け、素早い斬撃のコンビネーションから回し蹴りを繰り出し、空振った勢いで更に飛び上がって回し蹴りを繰り出すサイカ。
その回し蹴りを屈んで回避しながらサイカの下に潜り込み、両腕でサイカを持ち上げる。
「えっ!?」
「埋められないものは君と私の体重差なのだよ! 幾ら魔術で身体能力を強化していても、元々の体重差まではどうしようも無いからな!!」
「きゃ、きゃあああぐへえ!!」
コラードによって力任せに投げられたサイカは、そのまま後ろにある大砲の材料の入っている木箱の山の上に派手に着地した。
だが、その粉砕した木箱がクッションになった為にサイカもまだまだ戦闘続行可能なので、気を取り直してコラードに立ち向かう。
その一方で雑魚をあらかた片付けた他の四人は、大砲をどうやって壊すかを考えてその大砲を見上げる。
「見ての通り武器では壊せそうに無いですし、かと言って魔術で壊すにも骨が折れそうですわね」
「うん……姉様も私も魔術は全般的に初級のしか使えないですから、後はソランジュかイレインかだけど……魔術はどの程度出来るの?」
「私もあんまり出来ないな」
「僕はそれなりに使えますが、強力なものは無理ですね」
「となると物理攻撃でちまちまとやって行くしか……あれ?」
大砲をジロジロと見つめていたドリスが、下の方を覗き込んである事に気が付いた。
「ねえ、これ……下の台座の支柱を壊せば崩せるんじゃない?」
「えっ?」
「ほら……あれ。下の六つの支柱を壊してこの大砲も崩して壊しましょうよ!」
「そ、そうですね!」
しかしその時、コラードとサイカが戦っている方から悲鳴が聞こえて来た。
四人が一斉にそちらを振り向いてみれば、そこにはソランジュが戻って来ないので一人で戦っていたもののコラードの攻撃によって追い詰められ、地面に倒れているサイカの姿があった。
支柱を壊すのは二人も居れば十分だろう、と言う事でイレインとソランジュがサイカの応援に向かい、残りの二人が支柱を壊しに掛かった。
「はぁ、はっ、はぁ……」
気力も体力も使い果たしたサイカは立ち上がろうとするものの身体に力が入らず、コラードが迫って来るのに身体が言う事を利いてくれない。
「くっ……!」
「かなり手こずらせてくれたみたいだが、それももうここで終わりだぁぁっ!!」
そう叫びながら自分のロングバトルアックスを振り上げるコラード。
しかしその両方の腕の下から別の誰かに両腕を差し込まれて、動きが突然ガッチリとロックされてしまった。
「なっ!?」
「大人しくしておけっ!!」
コラードの右腕を掴み、右足の裏で腹を押さえる体勢でソランジュが全力でコラードを壁際に押し付ける。
それでも、上手く左手に持ち替えたロングバトルアックスをソランジュに向かって振り下ろそうとするコラードだが、肝心のロングバトルアックスはいきなり何者かのハイキックで蹴り飛ばされる。
「は!?」
「そこまでだっ!!」
「ぐへ!!」
イレインがハイキックを出すとほぼ同時に、コラードから離れたソランジュが飛び上がって彼の顔面に蹴りを入れる。
それでもコラードが尚も抵抗するのを見て、サイカは最後の力を振り絞って起き上がりコラードに走り出す。
「往生際が悪いのよおおおおおっ!!」
助走をつけたサイカはそのまま飛び上がり、強烈な飛び膝蹴りをコラードの胸目掛けて叩き込む。
「ぐへっ……!!」
「はっ……はっああっ……あー……」
壁とサンドイッチにされる形で膝を叩き付けられたコラードは、三人の冒険者達の連係プレイに成す術無く敗北。
コラードが崩れ落ちるのを見たサイカは地面に膝を着き、戦いが終わった事に安堵した。
だが、それはまだ早いと一瞬で判断して素早く立ち上がる。何故なら自分達の方に向かって、大きな音とともに大砲が倒れて来るのが目に入ったからだ……。