483.博物館の地下にて
銅像の下から見つかった地下への階段を下りてみると、その先に一つのドアが姿を見せた。
どうやらこの先に大砲があるらしい。それは今まで階段を下りて来た時間が長い事からも分かる通り、それなりの部屋の高さが無ければ大砲を組み立てても動かせないからだ。
五人は早速踏み込みたかったのだが、ここは用心してドアの向こうの様子を窺う事にする。
「……どう?」
「うーん……ここから探査魔術で中の様子を探る限りでは、かなり大勢の人数が居るみたいですね。それも、明らかにこちらを待ち構えているみたいですよ」
「となると、上で私達が暴れていたのは分かっているって事?」
「そりゃあ、あれだけお主も私も暴れれば嫌でもバレてしまうだろうな。でも、ここまで来てしまったら中に入るしか無いだろう。どうせ出入り口に鍵を掛けられてしまって戻れないんだったら尚更だし、この中で大砲を製造しているって言うんだったらどのみち中に入らなければならないだろう」
そう言いながらソランジュが地下室の出入り口のドアに手を掛け、一気に向こう側へと押し込む。
その先に待ち構えていたのは、イレインが探査魔術で探りを入れた通りの大人数の敵達だった。
「豪華なお出迎えだな」
「本当ね。でもこうなる事は分かっていたんだし……それにほら、あれが例の大砲でしょ?」
「そうですね、あれがまさしく……」
武器を構えながらそう言うソランジュとサイカに対して、イレインは地下の高い天井の部屋の奥を見て頷いた。
その視線の先には、現在も建造途中ではあるものの天に向かって大きく斜めに傾いている、大きな砲台が鎮座していたのだから。
それが今までの情報と調査から仕入れていた大砲の正体なのだと言う事も、イレインはすぐにピンと来た。
「あれが噂の……」
「そうね。でも完成なんてさせたら戦争の道具に使われてしまうわ。カシュラーゼの連中が同盟国を敵に回す戦争の道具にね!」
「そうだ。だからお前達にこの大砲を破壊される訳には行かないんだよ、サイカ!」
呆然とするティーナの横でドリスがそう言えば、大砲の陰から一人の男が姿を現わした。
しかし、それはソランジュとサイカの二人に大きなショックを与える人物でもあった。
「え……!?」
「あ、貴方は……え、ちょっと……嘘でしょ!? どうしてここに居るのよ!?」
「私がここに居るのがそんなに変か? 君達も冒険者として行動しているのなら分かるだろう。それに私は前に君達に話した筈だぞ。私達傭兵は、必要とあればすぐに雇い主を変えるなんて日常茶飯事だとな」
姿を現わした人物。
それはかつて、カシュラーゼの裏の世界でサイカが戦ってそのまま行方知れずになっていた筈の……。
「ええ、確かにそう言っていたわね。二枚舌のコラード……」
「まさかお主、あの後ディルクに首になったからここに来たのか?」
まさかの再登場したコラードに対して、この二人はそれぞれ思った事をそのまま口に出した。
一つ目のサイカのセリフについてはスルーしたコラードだったが、二つ目のソランジュのセリフはスルー出来なかった。
「まだ首になっていない。まだ、な」
「まだ? となると……首になる可能性があると言う話か?」
「そうだ。私はこの大砲の製造の責任者としてここに派遣されたんだよ。でもまさかそれが原因でこうしてまた君達に出会うとは……私達はよっぽど因縁がある様だな」
「かも知れないわね。でも、この大砲を完成させる訳には行かないのよ!」
大砲製造の責任者であるコラードと、そんな懐かしい(?)思い出のやり取りをしているソランジュとサイカの二人に対して、真っ先に問い掛けたのがイレインだった。
「あ、あの……あの方はお知り合いなんですか?」
「そうよ。あの人は私達と因縁があってね。貴方も傭兵として行動していたんなら知らないかしら、二枚舌のコラードって」
「いいえ、少なくとも僕は聞いた事はありませんね」
「そうなの? でも、これであの人が責任者だって分かったでしょ。貴方がさっき私達に教えてくれたさ!」
「ああ……」
確かに自分はそう言っていた。
最近、その大砲を製造するに当たってちゃんとした指示を出せる人をカシュラーゼが派遣したらしくて、その人のおかげで製造のスピードが上がっているって話、だと。
それを思い出して、その男をここで倒さなければ大砲も完成してしまうと判断する。そしてその判断は、傍らで今の会話を聞いていたヒルトン姉妹も同じだった。
「因縁がどうのこうのって言っていたけど、それを抜きにしてもあの男を始めとするこの全員を倒して、あの大砲も壊さなければならないわね!」
「そうですわ。そのディルクと言う人がどんな人かは知りませんが、こんな場所にこんな物を作らせるって言う事はただの軍備拡張の為では無さそうですし、この他にも二つ目……そして三つ目の大砲が他の場所で製造されないとも限りませんから、一気に壊してしまいましょう」
「そうですね。僕もそう思っていましたよ!」
まさか、こんな場所で因縁の相手に出会うとは思ってもみなかったソランジュとサイカを始めとする冒険者パーティーと、大砲を守りたいコラード率いるカシュラーゼ側の一行がぶつかり合い始めた。