478.悪臭の元凶
登場人物紹介にイレイン・ヴェフラムを追加。
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「おいユフリー、俺達が本当にここに居る人間達だけだと思うのか?」
「は?」
「だから、俺達だけでここに乗り込んで来たのかって本気で思っているんだったら、それはかなり愚かな事なんだぜ?」
後ずさりをするのを真っ先に止めたレウスが、ユフリーに意味ありげに問い掛ける。
それについて、本気で理解不能と言いたげな表情をしながらユフリーは一向にハンドガンを向け続ける。
「何が言いたいのよ?」
「分かんない女だな。とりあえず俺達はこの四人だけじゃないって事さ。ほら、お前の後ろに居るだろ?」
「え?」
自分の背中の向こう側をレウスに指差され、思わずその方向を振り向いてしまうユフリー。
しかし、その振り向いた先にあったのは誰も居ない廊下だけだった。
「な、貴方……」
「そらっ!」
「うっ!?」
ユフリーが騙されたと気付いてレウス達の方に向き直るのとほぼ同時。
先に踏み出したエルザの鋭い蹴り上げが一閃して、次の瞬間にはユフリーの身体が宙を舞った。
「ぐふぇっ……う、うぐ……!」
そのまま廊下の固い壁に激突したユフリーは、情けないうめき声を上げて荒い息を吐きながら崩れ落ちた。
彼女にまたハンドガンを使われると厄介なので、即座にエルザとアレットで下の階で見つけたロープを使ってユフリーを後ろ手に拘束する。
「こんなに簡単な手に引っ掛かるなんて……油断は大敵だぞ、ユフリー?」
「え、偉そうに……貴方は一体何なのよ!?」
「俺はレウスだよ。それよりもお前がソルイールからの使者としてこうしてやって来たみたいだし、あの部屋の中に何があるのかを一緒に行って確かめてみないとな」
レウスはユフリーを引っ張って奥の部屋へと向かう。そしてその奥の部屋の出入り口のドアを、ここは意を決して思いっ切り力強く開けた。
先ほど探査魔術で探知した沢山の気配がある、最上階のメインの部屋のドアの向こう側に待っていたのは……。
「うぐっ!?」
「ひっ!?」
「ぬう……こ、これは物凄い臭いだな。こんな場所で作業してんのか、お前等は!?」
「わ、私だってここに来るのは初めてよ!!」
部屋の中に漂う悪臭。
とても言葉では言い表せないレベルの臭いが、ユフリーを含めた一行の鼻を突く。それもその筈で、所々で横になっている人体の中に魔晶石が埋め込まれる作業の途中で放置され、レウス達を苦しめる悪臭を生み出しているからだ。
そして埋め込まれて自我が無くなっている集団が、手に武器を持って確実に迫り来る。
目測で見る限りでも部屋の中に大体三十人程なのだが、かなりノロノロとしたスピードで来ているのだけが救いだった。
作業をしていた「生きている」人間や獣人達は既に下の方でレウス達が迎え撃ってしまったらしく、残るはこの中に居るこの「人型爆弾」だけだろう。
「おいっ、こいつ等はどうやったら止まる!?」
「し、知らないわよそんなの! 私はソルイールからの使者としてここに向かう様にって、バスティアン陛下とディルク様から言われただけなんだから!」
そこからのユフリーの動きは素早かった。
頭を思いっ切り振って後ろに居るエルザに頭突きをかまし、アレットを力任せに振りほどいてからその廃棄品の敵の集団の中に逃げ込む。
当然レウス達も彼女を捕まえようとするが、上手い具合にその集団に立ち塞がれて思う様に進めない。
そのレウス達がもたついている隙に、身体を目一杯折り曲げて腕を後ろから前に持って来たユフリーは、ロープを口で外して自由の身になった。
「さっきはよくもやってくれたわね! でも、もうここで貴方達も終わりよ!」
そう言いながらユフリーは懐からハンドガンを出そうとするが、何故か見つからない。
何故なら先程、エルザに蹴られた時に手からそのハンドガンが吹っ飛んでしまったからである。
しかもそのハンドガンがあるのは……。
「探し物はこれか?」
「あっ、返しなさいよ!」
レウスの手の中だった。
彼はユフリーにそう言われても返す気は全く無く、自分の着ている黒いコートの内側にゴソゴソとしまい込んで拒否の意思表示をする。
だが……。
「ふん、甘いわね、そう来ると思って予備としてもう一丁小さいのがあるのよ!」
「なっ!?」
ユフリーの懐からもう一丁、レウスがコートの下にしまい込んだハンドガンよりも更に小さなハンドガンが出て来た。
それを五人に向けつつ威嚇するユフリーだが、レウス達はこの人型爆弾が密集しているこの状況で撃てる筈が無いと思っていた。
「撃てるもんなら撃ってみやがれ。こいつ等に当たったら即座にお前まで吹っ飛ぶんだぜ。爆発してよぉ!!」
「ディルク様に色々と話を聞いたからこの爆弾の危険性は分かっているわ。それに下手に銃撃して吹っ飛びたくないからね。それにそれはこっちのセリフよ。貴方達も私がここでこのハンドガンでこの爆弾を撃てば、それだけでみんな終わりよ!!」
勝ち誇った様にそう言うユフリーの姿を見て、それもそうかとハッとした表情になるレウス達。
しかしその中で、アニータだけは表情を変えないままこの状況を脱する方法を思いついたので、レウスのコートの裾をクイクイと引っ張って伝え始めた。




