477.えっ、まさかのあいつ!?
「良し、残りは三階だけだな」
「ああ。下の設備は壊して来たしこの二階のフロアも制圧したが……三階は貴様が言っていた通り人型爆弾の製造工場になっているんだろう? だったらここから武器は封印だな」
「厳しいなー、そりゃー……」
むやみに武器を振り回して大爆発でも起こしてしまったら、自分のみならずこの屋敷ごと全員が吹っ飛んでしまうだろう。
そもそも三階まで制圧した後に、この屋敷を丸ごと燃やしてしまうべく一階にも二階にもこの屋敷の中で見つけた油を撒いておいてあるのだから。
「しかしまあ……あれだな、そんな人型爆弾だの麻薬だの人肉だのって、カシュラーゼの連中はビジネスの幅を広げすぎなんじゃないのか?」
「確かにそうは思うが、でもそれは貴様のアーヴィン商会も同じだろう、レウス?」
「それはそうかも知れないな。事業内容は割と手広くやっているけど、シェアとしては半分がマウデル騎士学院を始めとした騎士団の関係者や、国内の戦士達に向けた武具の取り引きだもん」
しかしまさか、エスヴァリークで聞いていた魔晶石の取り引きもやり始めたり、このヴァーンイレスとの関係至っては人肉の取り引きまで始めるなんて流石に見過ごせないと考えるレウス。
魔晶石の取り引きは良いにしても、人肉は人の道に反していると思ってしまうからだ。
そんなレウスの様子を見て、エルザも自分が思っている事を吐き出し始めた。
「私は叔父さんが人肉の取り引きを持ち掛けられた事がショックだ。結局は断ったみたいだが、断るとか断らない以前の問題で精神的に何かこう……来てしまうんだよな」
「分かる分かる、その気持ち。私達の学院長の口からそんな人肉云々の話が出て来るってだけでもショックだったし」
複雑な感情を抱きながら三階への階段を上がって行くレウス達だったが、先導していたアニータがピタリと足を止める。
「……」
「どうした、アニータ?」
「話し声が聞こえる」
「え?」
アニータの指し示す方へとマウデル騎士学院の四人が向かってみると、そこには作業場になっている大きな部屋があった。
大小の違いはあれど、今までのどの部屋もその殆んどが作業場になっており、残りの数部屋が事務室となっていた。そしてその部屋の中から敵が飛び出して襲い掛かって来ていたのだが、話し声が聞こえて来るだけで一向に襲って来る気配が無い今回のパターンは初めてである。
廊下の壁や床に黄色い液体が幾つもこびり付いているのが分かる上に、その黄色い液体による汚染具合がこの部屋に近付くにつれて酷くなっている事からも、ここがこの工場のメインの場所だと言うのは分かった。
「……ドアの先に進む?」
「進まないと話も進まないだろう。だが、まずは俺が様子を窺ってからだ」
レウスは探査魔術を発動し、内部の状況を外から確認する。
しかしその瞬間、彼の顔が一気にこわばった。
「……!?」
「どうした?」
「この部屋の中に大勢の生体反応がある。それも明らかにこっちに向かって敵意が向いている!」
「そ、それって待ち伏せって事?」
「そうだ……このまま飛び込んだら多勢に無勢。切り抜けるには武器を使うしか無いが、爆発するって可能性がある以上は俺達がボッコボコにされて負けるか、武器を使って奴等と一緒に爆死するしか無いぞ!」
「ええっ!? それじゃ八方塞がりじゃないのよ!」
「そーなんだよなぁ……」
ガリガリと頭を掻いて悩むレウス。
こうなったら下のフロアに戻って、火をつけて一気に屋敷を燃やしてしまえば良いだろうと判断して戻り始めた……のだが、そんな一行の目の前に新たな敵が立ち塞がった。
「そうはさせないわよ」
「は?」
「えっ……あ、あああっ!? お前は!?」
一行の退路を塞ぐ敵。
それは新たな敵とは言え、アニータ以外の四人には見覚えのある人間の女だった。
栗色に近い金色の髪の毛を伸ばし、フードを首の後ろに垂らしながらハンドガンを構えているその女……。
「何でお前がこんな所に居るんだよ、ユフリー!?」
「あら、私がここに居ると変なのかしら?」
「変って言うか驚いているんだよ! 随分と久し振りに出会ったからなぁ。勿論てめぇにその奇っ怪なハンドガンとやらで撃たれたのも忘れてねえぜ、俺は!」
そう言いながらハルバードを構えてユフリーに向かおうとするとサィードだが、その前にユフリーからハンドガンの銃撃を受ける方が早かった。
パンッと乾いた音が廊下に響き渡り、サィードの足元にチュイーンと銃弾が弾けた。
「うっ!?」
「ふふふ、変な事は考えない方が良いわよ。こっちの射程距離は長いんだから、この距離なら私が断然有利。さぁ、そのままゆっくりと後ろに下がってそこの部屋に入るのよ。私がソルイールからの使者として頼まれた人型爆弾の一体を使って、貴方達で爆破実験をして威力を確かめる為の準備をしなくちゃね」
「くっそ、このイカレ女めっ!!」
「何とでも言うが良いわ。魔術も近距離用の武器も不要。これからはハンドガンの時代だからね!」
サィードが舌打ちをしても状況は変わらない。
とんでもない場所でとんでもないイカレ女に再会してしまった一行は、大人しく後ろの部屋へと後ずさりを始めた……が。




