45.怪しいセバクター
セバクターが、爆発が起こった所の近くで見かけられている。
自分達騎士見習いにとって世界中で活躍する彼はカリスマ的存在なのだが、まさかその人物が今回の爆発事件に関わっているのではないか?
「まさかそんな、あの人に限って……」
怪しい、かなり怪しい。
でも心の中では彼を信じたい気持ちで一杯のアレットが、何の気無しに野次馬の中を見渡した瞬間、この人混みの中で見つけたくない人物を見つけてしまった。
「……!」
その人物を見かけた瞬間、アレットは考えるよりも身体が先に動いて移動を始めていた。
◇
自分の後ろからは、自分をターゲットにして追いかけて来る輩が数人居る。
もしこの状況で捕まってしまえば、間違い無く色々と尋問を受けてしまう可能性が高いと判断したセバクターは、久し振りにやって来たカルヴィスの街を紫のブーツで駆け抜ける。
最悪の場合は処刑と言うパターンも否定出来ないのが怖いからこそ、今はとにかく逃げるのに専念する。
(まだ俺はここで捕まる訳にはいかない……今までの苦労が全て水の泡になってしまう!)
そう思うセバクターの前には、何時の間にかメインストリートの市場が見えて来ていた。
何時の間にかメインストリートに出ていたらしく、道幅が広い為に走るのには困らなさそうである。
昼間は買い物客や仕入れの行商人でガヤガヤと賑わっているが、今は学院の爆破事件のせいで賑わうその市場を見て、セバクターは後ろの状況を一旦確認。
(大分引き離したな)
誰が追って来ているのかは分かる。
追っ手は動きを制限する黒いコートを着込んでいるせいか、軽めの機動力を重視した肩当てや胸当てをつけている姿のセバクターとはスピードが違うらしく、距離が大きく離れている。
それにこのまま市場の人込みの中に紛れ込んでしまえば、「人を隠すのであれば人の中」で都合が良いので姿を隠せるかも知れない。
走りながら頭でそう考え、セバクターは市場の中にスピードダウンして飛び込む。
先に頭で考えてから行動する頭脳派タイプのセバクターは、こう言う時にもまずは頭で考えてから行動に移す。
だが、そのチャンスを活かして人込みに紛れ込んでも、物事はそうそう上手く行ってくれそうに無かった。
「居たぞー!!」
「くっ!?」
爆破事件の避難誘導の為に駆り出されていた王国騎士団の騎士団員が、セバクターの姿を見て大声で他の騎士団員達を呼び集める。
恐らくさっきの黒いコートの追っ手が、既にこの街中に自分の包囲網を敷いたのだろう。
だとすれば、このカルヴィスの街全体がセバクターの敵と言う事になる。
斜めに走って、近くに出ている屋台のテーブルを踏み台にして、正面から向かって来た騎士を飛び越え前方回転して着地。
だが、その動きで後ろから追い掛けて来ている騎士達に少し距離を詰められてしまった。
ならば……と目の前に道を半分塞ぐ様に並べられている木のテーブルをジャンプで飛び越え、そのテーブルを後ろからやって来る騎士達目がけて蹴り飛ばす。
その蹴っ飛ばされたテーブルに対して追っ手の先頭の騎士が慌ててブレーキをかけた為、その後ろからやって来た騎士も巻き添えになったのを、振り返りつつ肩越しに見ながらセバクターは走る。
(まだ終わっちゃいない……)
そもそも、このストリートチェイスに終わりは見えそうに無い。
目立つメインストリートを走っている事、それから自分1人に対して追っ手の数が多過ぎる事、後はゴール地点が実質見えない事。
そうだとしたら、まずはメインストリートから逸れる事から始めようとセバクターは裏路地へと飛び込んだ。
まず、セバクターは野良犬が漁っている大きめのゴミ箱に足をかけて飛び乗る。
そこから近くの窓の落下防止の柵に向かって壁を蹴って飛びつき、柵を使って屋根の上に飛び乗った。
騎士団員達が重い鎧を付けている以上、屋根の「下」で待ち構える事は出来ても屋根の「上」にはそうそう来る事が出来ないだろう……と言うセバクターの予想である。
セバクターは三階建ての建物の屋根から、隣の家の屋根に向かってジャンプで移動する。
路地を移動するのとは違い、セバクターは直線的にショートカットする事も場所によっては可能なので、今まで以上に下の騎士達に対して差をつける事が出来る。
そのショートカットを繰り返して騎士団員達を振り切ったセバクターは、火の手が上がってオレンジ色の光が見えている方を一旦見据えてから考える。
(良し、ここまで来ればもう大丈夫か。何処か身を隠せる場所は……いや、身を隠すよりもこのままカルヴィスの街から出てしまった方が良いだろう)
下手にこの街の中に隠れ続けてしまえば、それだけで見つかって捕まる可能性が高くなる。
どんどん追っ手が増えているのだし、だったら街の外へ出て姿を消す方がかなり安全だと考えたセバクターは、あの学院が爆破された事で警備が手薄になっている街の出入り口からさっさと抜け出して、夜の闇の中へ姿を消して行った。
街の出入り口を通り抜ける瞬間に一言、何かを小声で呟きながら。




