44.爆破された学院
「火を消せっ!! そっちもだ!!」
「おい、魔術師達の応援はまだか!?」
「お前達はそっちで逃げ遅れている人は居ないか見て来い! 俺達はこっちに行く!!」
阿鼻叫喚の地獄絵図になっているマウデル騎士学院の惨状を見て、学院の前に駆け付けたエドガーが呆然とした表情で呟いた。
「うわあ、こりゃひでえ……」
「ってそんな事言っている場合じゃないだろう、叔父さん!!」
「あっ、そうだった! おいレウス、何かこの事態を一気に解決出来る魔術は無いのか!? 水のでっかい魔術とかよぉ!」
「え、エネルギーボール位だったら水属性ので出せますけど……ってか、そう言うエドガーさんは魔術は使えないんですか?」
「俺は魔術は苦手なんだ。とにかく俺は学院の責任者として爆発現場に行く! それから学院中の防火装置が作動しているか大元の場所に確認しに行くぞ!! アレット、水属性の魔術を使いながら野次馬を遠ざけてくれ。エルザとレウスはアレットと一緒に避難した人間を出来る限りここから遠ざけて、王国騎士団が駆け付けたらこの学院の中から救助された者の救護活動を手伝ってやってくれねえか!?」
「わ、分かりました!」
レウスの魔術がこんな時に限って殆ど役に立たない事を知ったエドガーは、今の自分達のそれぞれの役割を判断して指示を飛ばす。
学院が恐ろしい勢いの炎に包まれており、敷地内から脱出した騎士見習い達や職員が炎の及ばない場所でザワザワと野次馬になっている。
ギルベルトやアンリが王国騎士団の魔術師部隊に応援の連絡を取ってくれているので、もうじきでその応援がここに辿り着くだろう。
「はいはい、もっと下がって下さい!」
「そっちももっと下がって! 火の粉が飛んで来ているから!」
どの様な経緯で爆発が起こったのかは不明だが、今はとにかくこれ以上の被害を出さない様にするべく少しでも二次被害の可能性を小さくする事だ。
学院長として責任がある、と燃え盛っている火の中に飛び込んで行ったエドガーの無事も気になる所だが、それでも自分達でやれる事をやるしか無い。
その感情だけで動いていたレウス達のもとに、バタバタと複数の足音が聞こえて来たのはエドガーが炎の中に飛び込んで行ってから約五分が経過した時だった。
「はい君達、下がれ下がれ!!」
「後は私達に任せて下さい!」
背中一面にリーフォセリア王国の紋章が描かれた、薄紫色の派手なローブを一様に身に纏っている四十人位の集団と、胸当てに王国の紋章が刻まれている甲冑を身に纏っている二十人位の集団が到着した。
そう、リーフォセリア王国騎士団に所属している魔術師部隊員達と王都の警備兵達である。
警備兵達が野次馬達を大声で誘導して学院から遠ざける一方で、レウス、アレット、エルザはその野次馬達に何がどうしてこうなったのかを聞いてみる。
「こんな酷い火事になるなんて、一体何があったんだ?」
「俺達も何が何だか……寮で普通に夜の時間を過ごしていたら、いきなり学院の方で爆発が起こったんだよ。こうドッカーンって物凄い爆発で、みんなで一斉に窓の外を見たら学院の至る所が燃えててさ。これはもしかしたら寮の方でも爆発が起こるんじゃないかって怖くなって、それで外に全員逃げたんだよ」
「そうだったのね。それで、爆発の原因とかはこれから解明されると思うけど、今の時点で何か心当たりってある?」
「そんなのは全然無いわ。今日はお休みだからあたし達はこうして学院の寮に居る訳だけど、自主的に訓練をしに行った人とかだったら爆発を起こすチャンスはあるかも……。それから学院の職員の人とかね」
「ん~、となると学院の警備兵の人とかにも聞いてみると良いかもな」
そう考えたエルザは、周りをキョロキョロと見渡して顔見知りの学院の警備兵を見つけた。
王国警備兵と同じ格好をしているのだが、違うのはその胸当てに学院の紋章が刻み込まれている事である。
「おいあんた、今日学院の警備を担当していた人間か?」
「あっ……ああ」
「何があった? どうしてこんな事になった?」
「いや、僕もさっぱり分からないんだ。普通に警備をしていたら突然爆発音が聞こえて、何があったんだと様子を見に行こうとしたらまた爆発が起こって……しかもその時、学院中の防火装置が作動しなかったんだよ!」
「えっ、防火装置が?」
そうなると火の手がどんどん回るだけじゃないか、とエルザは唖然とした顔になる。
「何で作動しなかったんだよ?」
「僕も分からないよ! 本当に作動しなくて、次々爆発が起こってどうしようもなくて、事務仕事やってる人達を外に逃がすので精一杯だったんだ!」
「そうか……何時もと何か変わった事は無かったか?」
「変わった事? うーん……あ、そうだ! あのほら……何て言ったっけ? この学院の卒業生で今は傭兵として世界中を回っているって言う、ピンクの髪の毛の男が学院の中に入って言ったよ。何でも、この学院の中に忘れ物をしたから取りに来たんだって」
「え、それって……」
エルザ達には、その人物が誰なのか一瞬で把握出来た。




