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461.分かれ道の攻防

(あれは……渓谷ね!)


 そこそこの高さの渓谷が右の方向に見えて来た。

 どうやらその渓谷は一本道になっているらしく、右へ行って渓谷を抜けてもこのまま前に向かって進んでも最終的に同じルートに合流出来るらしい。

 なので、ティーナはギリギリまでエドワルドのワイバーンを引き付けてから素早くワイバーンを旋回させて、自分だけ渓谷の中へと入り込んだ。


「小賢しい真似を……」


 それを見てもエドワルドは冷静である。

 彼もまたこの先で道が合流する事は知っているので、渓谷の方へと向かったティーナが何かをしようとしているのに感づいた。

 だったら自分は彼女の誘いに乗らず、無難に安全な何も無い空のルートを駆け抜けて合流地点まで飛んで待ち伏せるか、彼女が渓谷から出て来るタイミングを狙ってサイドプッシュを仕掛けるかを考える。


(だが……後者は無しだ。あの女が出て来るタイミングを計るのはなかなか難しい。私の乗っているワイバーンの翼の音もあるから音で判断するのは厳しいし、空は風が強いからあの女の匂いも流されてしまうし、ここは無難に待ち伏せる作戦で行くか……)


 せめて風が無い所であれば、自分のこの自慢の嗅覚を使ってあの女が出て来るタイミングを計る事が出来るのに……と舌打ちをしながらワイバーンを進ませるエドワルド。

 その一方で、渓谷の中に飛び込んで行ったティーナは後ろからあのエドワルドが着いて来ていない事を確認していた。


(もしかしたら着いて来るかも知れないと思っていたけど、さっきのワイバーンの乗り方を見る限りはなかなか冷静そうなタイプだったから、やっぱりリスキーなルートは選ばないらしいわね)


 それならそれでこっちにも考えがあるので、ティーナはとりあえずワイバーンの動きをコントロールしながら、この視界が悪い中でも渓谷に沿って丁寧に進む。

 恐らくあの男は先回りして待ち伏せて来る筈。だったらそれを逆手に取ってやると考えて、一気にワイバーンのスピードを上げた。


(馬だったら小回りが利くんだけど、ワイバーンはこんなに大きな体躯だからこそなかなか移動させるのも難しいし、意のままに操るのは腕が要るのよね。小回りも利かないし……そこを突くのよ!)


 やがて渓谷を抜けそうになった所で、ティーナはワイバーンの上からエドワルドが飛んで行ったルートの方を見る。

 しかし彼のワイバーンの姿は確認出来ないので、だったらもっと確認しやすい様にと高度を上げてみると……居た。


(渓谷の出口に到達するのは向こうが早いみたいだけど、それだったら思いっきり減速しなければならない。だったらチャンスは一度きりよ!)


 渓谷の出口は直線になっているので、一旦スピードを緩めて体勢を整えたティーナはその出口へと向かって一気にスピードを上げた。

 その瞬間、目の前にバッサバッサと翼の音を立ててさっき別れたエドワルドのワイバーンが回り込んで来た。


「ふんっ!」

「なっ……ぬおっ!?」


 相打ちを覚悟で、ティーナは一切スピードを緩めずにエドワルドのワイバーンに自分のワイバーンで体当たり。

 リスクの高い正面衝突をなるべく避け、先に回り込んであの女のワイバーンに上から覆い被さって地面に叩き付けようと考えていたエドワルドの目論見はここで外れる。

 逆に相手の方がリスクの高い攻撃を、この視界が悪い中でして来るなんて思ってもいなかったエドワルドはワイバーンを方向転換させる事も出来ず、まともにその体当たりを受けてしまい一気にバランスを崩してしまった。


「う……うわあああああああああーーーーーっ!!」

(終わった……)


 ワイバーンの背中から投げ出されたエドワルドは、絶叫とともに地上の闇の中へと落ちて行ってしまった。

 この高さから落ちて行ったのであればまず生きてはいないだろうと思いながら、ティーナは戦いが終わった事に安堵する。

 しかし、すぐにホッと一息ついている場合では無いと思い出した。


(そう言えばドリスはどうなったのかしら!? それにレウスさんも……)


 そう、妹のドリスはもう一匹のワイバーンに乗っている白ライオンの獣人に激しくぶつけられながら何処かに飛んで行ってしまった。

 それから先に飛んで行ってしまったレウスも、あの女を無事に捕まえられたのかどうかが気掛かりだ。

 更に言えば、王都のイレイデンに残して来てしまった他のメンバーの安否も気に掛かる。

 一体どれから先に確認すれば良いのかと悩み始めるティーナだったが、そんな彼女の耳にバサバサと別のワイバーンの翼がはためく音が後ろから聞こえて来たのはその時であった。


「姉様ーっ!!」

「え……あ、ドリス!?」


 何と、後ろからやって来たそのワイバーンに乗っていたのは妹のドリスだったのだ。

 と言う事は、どうやらあの追い掛け回されていた白ライオンの獣人の男を何とか退けたらしいと分かってティーナも一安心である。


「無事だったのね、ドリス!」

「ええ、さっきの奴はやっつけたわ! それで急いで追い掛けてきたら、さっき大声が聞こえてワイバーンと一緒に人影が落ちて行くのが見えたの。だからもしかしたら……って。姉様も無事で良かったわ!!」


 とにもかくにも、これで姉妹揃って空のドッグファイトを制した事になる。

 残るはあの女リーダーを追い掛けて行ったレウスの安否が気になるので、ヒルトン姉妹はとりあえずまっすぐ前を目指してワイバーンを進ませ始めた。

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