460.空中のドッグファイト
レウスを先に行かせたヒルトン姉妹は、それぞれが副団長を相手にしてワイバーンで空中のドッグファイトを繰り広げる。
まず、妹のドリスが相手にしているクロヴィスはとにかく激しく飛び回り、荒々しくワイバーンをドリスのワイバーンにぶつけて来ようとする。
それをギリギリで回避しながら避け続けるドリスだが、余りにも激しいアタックを繰り返して来るクロヴィスに対してこのままではワイバーンが持ち堪えられそうに無いと判断。
(このままじゃ私がこのワイバーンと一緒に地面に墜落してしまうわ!! どうにかしなきゃ……!!)
日が沈み掛けて辺りも暗くなりかけているこの状況だが、まだ完全に闇に包まれていない今だからこそどうにか出来るチャンスがある筈だ。
そう考えるドリスはクロヴィスからのアタックをかわしたり耐えたりしながらも、何か打開出来る場所や物が無いかを辺りを見回して探してみる。
すると、左の方に生い茂った林があるのに気が付いた。
(そうだわ、あそこなら……!!)
迷っている時間は無い。
ドリスはワイバーンを素早く左に向けて旋回させ、林の方に向かって飛行させる。当然その彼女の後ろから、ティーナとエドワルドの小競り合いを無視してクロヴィスが追い掛けて来た。
「逃がすかよ、糞アマぁっ!!」
(良いわよ、そのまま着いて来なさい!!)
あの白いライオンの激しいアタックの仕方と、後ろから聞こえて来る叫び声の荒々しさ、そしてイレイデンのあの噴水広場で爆発とともに派手に飛び出して来た光景を全てひっくるめると、どうやら彼はすぐに熱くなる傾向があるらしい……とドリスは判断する。
自分もその傾向があるので、ティーナから良く窘められている以上は余り人の事は言えないのだが、その窘められていた過去の経験を思い出してこの作戦を実行に移す。
そんなドリスのコントロールするワイバーンは林に向かって少し減速し、木々の間をすり抜ける形で上手くコントロールされながら飛んで行く。
後ろから追い掛けて来るクロヴィスのワイバーンは、彼の荒っぽい操り方もあってか必要以上のスピードダウンを強いられてしまっている。
「くっそぉ、何だってこんなに飛び辛えんだよっ!?」
(そりゃそうでしょ……この狭い林の中でそんなでっかいワイバーンだもの。普通だったらぶつけない様に林の手前で降りちゃうわよね)
そこに突っ込んだ事もあって思う様にワイバーンを動かせないクロヴィスだが、それでも何とかドリスの操るワイバーンに追い付いてアタックを仕掛けようとタイミングを計る。
しかし、今回先にアタックを仕掛けたのはドリスの方だった。
彼女は林の木々を上手くすり抜けて横に並んで来たクロヴィスのワイバーンがフラついているのを見て、先にサイドアタックで横からドカンと自分のワイバーンをぶつける。
そうすると当然、クロヴィスのワイバーンは体勢を大きく崩して……。
「う……うわああああっ!?」
生い茂った木々に激しく激突し、バキバキとその木々を薙ぎ倒しながらワイバーンごと地面へと墜落したクロヴィス。
ドリスは事実上ここでやり返した事になるのだが、クロヴィスの自業自得と言う面もあるかも知れないと彼女は悟った。
「さて……これで何とかあいつを倒して危機は切り抜けたわ。後は姉様の方に急がないと!!」
林を抜けたドリスは素早く方向転換して、空の道を元来た方向へと戻り始める。
ティーナがまだあの狼獣人の男が操っているワイバーンに狙われている筈なので、自分が援護しに行かなければと言う焦りが生まれるドリスの心配はまさに的中してしまっていた。
「くう……っ!!」
「死にたくなければさっさと地面に降りるんだな」
「嫌、です!! 絶対に降りません!!」
「そうか。だったら力尽くで降ろしてやるまでだ!」
狼獣人のエドワルドは相棒のクロヴィスと同じくワイバーンで追い掛け回しているのだが、どうやら彼のそのテクニックはクロヴィスよりも数段上であるらしい。
出来る限り最小限の動きでワイバーンに負担を掛けない様にしながらも、アタックするチャンスを見極めて的確にティーナのワイバーンに向かってぶつけて来るので、ティーナにとってはかなり厄介な相手だ。
ティーナもティーナで、妹のドリスよりもワイバーンに乗っている年月は長かったので妹よりもテクニックはあると思っているのだが、自分を追い掛け回しているこの狼獣人の方が妹よりも確実にテクニックがあると分析していた。
(スピードを上げて振り切るのも無理そうですし、かと言って体当たりし返しても打ち負けそうですわ。こちらのワイバーンの方が向こうのワイバーンよりも疲れて来ているのが分かりますから!)
事実、先程からアタックを受け続けているだけあって翼の動きも旋回スピードも何だか鈍くなって来ている。
子供の頃からワイバーンの飼育に関わって来ているからこそティーナは分かるのだが、だからと言って逃げ切れそうにも無いので、どうにかしてこの狼獣人のワイバーンを退けなければならない。
(しかし、それをするにしてもどうすれば良いのかしら? ドリスはドリスで何処かへ行ってしまうし……)
そう考えていたティーナの視界に、ふとあるものが飛び込んで来たのはその時だった。