459.nail the bandits boss!!
メイベルがワイバーンで飛び立って行ったのをその目で目撃したレウス達三人だが、当然諦める訳には行かない。
何せ、今回は彼女を追い掛ける為の手段が自分達の目の前にあるからだ。
「おい、このワイバーンを使ってあいつを追い掛けるぞ!」
「勿論ですわ!」
三人はそれぞれ、ロープで繋がれたままのあのメイベルの部下達が使っていたらしきワイバーンを拝借し、それを使ってメイベルと同じく大空へと舞い上がる。
既に周囲が暗くなって来ているので視界は悪いのだが、だからと言ってここで諦めるなんて事は出来ない。全ては自分達の油断が原因で、あの盗賊団のリーダーをこうやって逃がしてしまっているのだから。
それに、レウスは前世のアークトゥルスだった時代にワイバーンの搭乗経験が何回もあるので操縦も可能だし、ヒルトン姉妹は実家がワイバーンの飼育をしているので当然ワイバーンに乗って大空を飛び回った経験は数え切れない。
時間帯も早朝から深夜まで、あらゆる時間帯や天気の中をワイバーンで移動している経験があるので、夜の闇で視界が悪くなろうが雨が降ろうが雪が降ろうが、メイベルを追い掛けられるだけのテクニックと度胸はあると自負している三人。
「あ……あの三人、まだ追い掛けて来るのぉ!?」
何だってあんなにしつこいんだ。そもそもあいつ等はワイバーンに乗った経験があるのか?
心の中で色々な感情が入り乱れるメイベルだが、今はとにかくあの三人から逃げ切るしかないと言う事でリスキーな飛行ルートを選んだ。
それは今の夕暮れ時から夜になり、人通りが少なくなるこの時間帯だからこそ出来る危険なルートである。
「わっ、ワイバーンだわ!?」
「突っ込んで来るぞ、逃げろおっ!!」
「きゃあああっ!!」
イレイデンの城下町の中を、かなりの低空飛行な上にギリギリのラインで駆け抜けるメイベル。
勿論、ワイバーンによって吹っ飛ばされるのは運悪く避け切れなかった人間や獣人だけではなく、通りに出ていた屋台や荷物を降ろしている最中だった馬車等も含まれる。
次々にあらゆる物や人を薙ぎ倒しながらイレイデンの城下町を飛び回るメイベルに対し、一歩引いた位置から必死になって追い掛けるレウス達三人のワイバーン。
「あの女、何て飛び方をしているのよ!?」
「くっ、このままじゃあ一般人や街中に多大な被害が出ますわ!!」
「分かっている。……分かっているが、あいつもかなりの乗り手らしいからなかなか追い付けないぞ!!」
右に左に、図体の大きなワイバーンを振り回しながらもそこまで大きな被害が出ていないのは彼女のテクニックが良いからだろう。
そう感じるレウス達三人の目の前で、街中を飛び回っていたメイベルのワイバーンが急上昇してイレイデンから出て行ってしまった。
「ああっ、あの女……何処か遠くに逃げるつもりだ!」
「上等じゃないか。俺達も勿論追い掛けるんだよ!!」
やけに気合いが入っている三人は、メイベルのワイバーンを追い掛けてイレイデンの城下町を下に見ながら高度を上げる。
方角が分からないので、彼女のワイバーンが何処に向かおうとしているのかは、その彼女のワイバーンにしか知り得ない事だ。
そして三人のワイバーンから必死に逃げる彼女はと言えば、とりあえずディルク達の元に戻るべくカシュラーゼを目指して北に向かって飛び始めていた。
(とにかく逃げ切るしかないわ……ん?)
その顔に次第に焦りの色が見え始めたメイベルの耳に、ふと先程のレウスの声と同じく救世主の音が聞こえて来たのはその時だった。
バッサバッサと、自分のものでも後ろの三人のワイバーンのものでも無い翼がはためく音が斜め前から聞こえて来たのだ
「姉御-っ!!」
「姉御ぉ、無事ですかぁ!?」
「エドワルド!! クロヴィス!!」
事前に連絡を入れていたクロヴィスとエドワルドが操る、二匹のワイバーンがやっとの事で合流した。
だが、今の所はまだギリギリ無事なのでさっさと後ろのワイバーン達の邪魔をする様に大声で指示を出すメイベル。
「後ろの連中を何とかして! そして何とか出来たらカシュラーゼで落ち合うわよ!!」
「分かりました!」
ダウランド盗賊団副団長の獣人の二人は、団長のメイベルが逃げるのを援護するべくレウス達の方に向かって方向転換する。
当然、レウス達三人はその新たに増えたワイバーンの邪魔を潜り抜けつつメイベルを追い掛けなければならない。
「おらああああっ!!」
「うわあっ!?」
猛スピードで突進を仕掛けて来る、クロヴィスの乗っているワイバーンに危うく当たりそうになったドリス。
そしてレウスが飛んでいる左横では、ティーナが執拗にエドワルドのワイバーンからサイドプッシュを受けて飛行を妨害されている。
「ちょっと、何をするんですか!?」
「見て分かるだろう。姉御の邪魔はさせないぞ!!」
このままでは三人とも邪魔をされている間に、あの女に逃げられてしまう。
それだけは何としても避けたいティーナは、レウスに向かって力の限り叫んだ。
「レウスさん、あの女は任せます!!」
「えっ?」
「私達がこの二人を食い止めますから、早く先に行って下さい!!」
「……分かった、済まない!!」
「逃がしちゃ駄目よーっ!!」
また生きて会える事を願いながら、レウスはワイバーンのスピードを上げて先に逃げて行ったメイベルを再び追い掛け始めた。