43.アークトゥルスの見解と魔道具
「正直に言わせて貰えば、俺は今回の事件……何か不穏なものを感じるよ」
「それは?」
「何て言うかなあ……まだハッキリと具体的に「これだ!」とは言えないんだけど、そのドラゴン十匹がカシュラーゼから逃げ出したって話だったよな? そして今回その内の一匹を俺が仕留めた。そこまでは良いんだが、カシュラーゼからドラゴンが逃げ出したってのをずーっと何時までも隠しておける訳が無いだろう」
「それはそうだ」
「だろ? 一匹ならまだしも全部でこれだけ逃げ出していて、それが世界中で今まで全然目撃情報が無かった。さっき隠蔽だって言ってたけど……これは隠蔽は隠蔽でもただの隠蔽じゃない気がする。俺が仕留めた五百年前のドラゴンの復活を企んでいるってなら一応それで筋は通るけど、それ以上にもっと何か、大きな陰謀が隠されている様な……嫌な感じなんだよな」
アークトゥルスの見解を聞いて、ギルベルトがうんうんと納得した表情で頷いた。
「五百年前のドラゴンは、それこそ世界中で暴れ回った凶暴なものだと聞いている。それを文字通り命がけで仕留めて……それから今まで世界は幾らかの小競り合いを経験して来たとは言え、平和だった。その平和をぶっ壊す為に、誰かが動いてるって思ってるんだ、俺は」
「あんたもやっぱりそう思うか?」
「ああ。俺とあんたは気が合いそうだ。だったらこれを持って行け」
そう言いながら、ギルベルトは机の引き出しから真っ赤な腕輪を取り出した。
それはまるで、血の海に投げ込まれて真っ赤に染まった金属の様な色をしている。
「これは?」
「俺が前に使っていた魔道具だ。もっと性能が上の物を作って貰ったからこれはもう要らなかったんだが、もし良ければ使わないか?」
「お、お下がりか……?」
「まあ、そうなるな。お前は魔道具は持っていたっけか?」
「いや、俺は持っていない」
と言うかそもそも、自分のお下がりをそんな簡単に他人に渡してんじゃねえよとか、五百年前の勇者に対して良くそんなに平然と使い古した物を渡せるもんだとか、この少しのやり取りだけでも色々と突っ込みたいアークトゥルス。
と思ったら無意識の内に声に出していたらしく、それを聞いたギルベルトが苦笑いをする。
「すまねえな。確かにお下がりだが、無いよりはマシだろう? 現にあんたが活動していた五百年前にはまだこんなの無かったんだろ?」
「そりゃあ、まあ……俺がこの時代に転生するまでの五百年の間に新しく生まれた技術だって聞いているから、俺にとっちゃあ未知の道具だよ。親父は何だかんだ理由をつけて魔道具を作ってくれなかったから、まさかこんな形で魔道具が手に入るとは思っていなかった」
「なら良いじゃねえか」
「ああ、うん……。で、この腕輪型の魔道具はどんな効果があるんだ? 魔道具って使用者にそれぞれ目的があって、その目的に合わせて作られるって聞いた事があるから、単なるお下がりって訳じゃないんだろう?」
魔道具を譲り受けるのは良いとしても、実際にどんな効果があるのかを先に教えて貰わなければ怖くて身に着けられないと言う、アークトゥルスの本音が現れた。
自分の知らない道具を初めて使うと言うのなら、実際に使った経験のある者から教えて貰うのが一番不安が少なくなる。
それはギルベルトも分かっていた様で、一つ頷いてから腕輪の効果を説明し始めた。
「それは元々俺に合わせて作った物だから、防御力を高める効果があるんだ」
「防御力?」
「そうだ。俺は見ての通り虎の獣人だから、パワーと素早さに関しては普通の人間相手なら負ける気がしねえ。だけど攻撃ばっかりじゃ生き残れねえと思って、防御力を高める魔道具を作って貰ったんだよ」
「へえーっ、そうなのか。それなら頼もしいな」
防御力を高める魔道具なら、敵から攻撃を受けた時に生き残れる可能性が高くなる。
その効果だったらお下がりでも満足だと嬉しくなりつつ、実際に腕輪を取り付けてみたアークトゥルスの全身にその時、ジーンと内側から熱さが襲い掛かって来た。
「ぐあっ……何だこりゃあ!?」
「ああ、熱いか?」
「うぐ……ど、どうなってるんだこれ!?」
「心配ねえ。すぐに収まるよ。その腕輪の魔力が全身に回ってるだけだからよぉ」
ギルベルトの言う通り、十秒もすると次第に熱さが引き始めた。
「あ……もう、大丈夫だ。これで良いのか?」
「そうだ。それでもう身体にフィットするようになった筈だから、後は実際に戦う事になったら防御力が上がったのを感じてみてくれ」
「分かった。どうもありがとう。それじゃ俺も学院に帰るよ」
そう言って魔道具を装備したアークトゥルスはレウスとして、待たせているメンバーと一緒に学院に戻る事になった。
しかしその時、レウスが退出するよりも先に一人の騎士団員がギルベルトの執務室にノックもせずに飛び込んで来た。
それは以前、自分に対して街中のベンチで情報提供をしてくれたアンリだと気が付いたレウス。
「あれっ? アンリ……どうしたんだ?」
何をそんなに慌てているのだろうか、と疑問に思うレウスとこの部屋の主であるギルベルト向かって、彼は息を切らしつつその答えを述べた。
「はぁっ、はぁっ……た、大変です!! マウデル騎士学院が……爆破されました!!」
「……は?」




