455.かちこみ
他の二つのグループに比べれば、レウスと言う強大な存在があったからこそかなり楽にその目的の工場まで進む事が出来たし、工場の出入り口になっている大きな両開きの扉もエネルギーボールで鍵を壊して開ける事が可能だった。
「良し……行くぞ!!」
前にサィードが探していた隠し通路がある倉庫のドアを蹴り破ろうとしたものの、それは先にサィードが隠し通路を見つけた事で叶わなかった。
しかし今回は違うので、その時のエネルギーも纏めてぶつける形でレウスは倉庫の扉を全力で蹴り開けた。
「来やがったぜ。お前等、やっちまうぞ!!」
工場の中では、十数人の武装した人間や獣人がレウス達三人を待ち構えていた。
恐らく監視カメラによってディルクから事前に連絡が行っていた様なのだが、こうして戦いになる事は最初から予想済みの三人にとってはどうでも良かった。
工場の扉の近くにある大量の木箱の中には、これまた大量に白い粉が入っていた。……恐らくは、サィードやイレインから耳にしていた取り引き用に精製された麻薬だろう。
「……今から、ここの工場の事を調べさせて貰うぞ」
「勝手に入って来てそのセリフは頂けねえな。だったらぶっ殺してやらあっ!!」
出入り口の一番近くに居るヒョウ獣人の男が重そうなロングハンマーでレウスに殴り掛かって来たが、レウスはその攻撃をあっさりと回避してカウンターで男の顔面に右ストレートを食らわせ、一発でノックアウト。
「邪魔をする様だったらお前達も全員こうなるんだぞ。それが嫌だったら大人しく壁に手をついて、全員協力するんだな」
「くっ……ふざけるんじゃないわよっ!!」
「待て!!」
敵の人間の女の一人が掛かって来ようとした時、レウス達に聞き覚えのある女の声が工場の広いフロアに響き渡った。
その声がする方に三人が目を向けてみると、工場の奥の方から三人全員が見覚えのある女が、工場の出入り口で対峙する全員の前に現われたのだった。
「あ、貴女は……メイベルっ!?」
「あーら、また私にやられに来たのかしら?」
「そんな大きな口を叩いていられるのも今の内よ!! 私と姉様のコンビは最強なんだから!!」
工場の奥から現われた、ダウランド盗賊団のリーダーであるメイベルに向かって怒りと憎しみと悔しさをミックスさせた声で言い返すドリス。
しかし、それを聞いてもこのヒルトン姉妹に一度勝っているメイベルにとっては負け犬の遠吠えにしか聞こえないのも事実だった。
「何とでも言いなさい。貴女達が私に負けたのは事実なんだから。それに私に辿り着く前に、この大勢の敵を乗り越えて来られるのかしら?」
「くっ……!!」
「それじゃ後は任せたわよ。私は下で作業の続きをしているから、その三人の始末が終わったら全員持ち場に戻る様に!!」
恐らく彼女もまた、あのディルクからの連絡でここで自分達を待ち伏せる様に言われたのだろうとレウス達三人は簡単に予想出来た。
その証拠にこの工場の中には元々作業をしていた作業員だけでなく、メイベルと同じくワイバーンに乗ってやって来た彼女の部下達が居る事も察した。
「そこに……工場の外に繋がれている多数のワイバーンから見て、あの女の部下がかなり居る筈だ。気を抜くなよ」
「勿論です」
「じゃあ行きましょう。あの女に負けっ放しじゃ終われないのよっ!!」
ドリスはそう言うと、自分達と対峙している大勢の敵の内の一人に向かって自分からハルバードで斬り掛かった。
メイベルへの悔しさがあるせいなのか、一度に何人掛かって来てもそのハルバードのリーチと攻撃力を活かした戦い方で全く潰される気配が無い。
それを見たレウスとティーナも、工場の奥にある階段から地下に向かって行ったメイベルを追い掛けるべく戦い始めた。
「どけどけ!! どかないなら死にたい奴から俺に向かって掛かって来いってんだ!!」
「不本意ですが仕方ありませんわね。命を無駄にしたくなければ素直に道を開けるのです!!」
二人は大勢の敵をドリスと一緒に蹴散らしながら、確実に工場の奥に向かって進んで行く。
その道中でこの工場の実態が何となく掴めて来た三人だったが、それはこの工場に来る前に考えていた内容よりも遥かに残酷なものであった。
何故なら地下の階段近くまで来た時に、壁に貼ってある紙に目をやった事でその実態を一気に把握する流れになったからだ。
「これは……今週の目標、材料千人……? 材料と調味料、それから毛を剃る為の刃物の手入れや交換は常に心掛けておく事……!?」
材料と言う表現、それから調味料や刃物が必要な作業。まさかとは思いたくない。
しかしここにこうして紙が貼ってある以上、その残酷な事実が容赦無くレウスに向かって襲い掛かって来る。
胃の中の物が口に向かってこみ上げて来そうな感覚を踏ん張って抑え込みながら、レウスはメイベルが消えて行った階段に目を向ける。
(まさか……まさかこの工場の中で行なわれている作業って!!)
流石に五百年前に過酷な旅を終わらせた自分でも、吐き気を催してしまう程の残酷な作業。
その実態を調べたい気持ちと調べたくない気持ちがぶつかり合い、足がすくんでしまいそうになりながらも、レウスはヒルトン姉妹と一緒に地下へ向かって階段を下りるしか無かった。