454.いざ、謎の工場へ
「さぁてと……部下はこの通り全滅だしお前も怪我で動けねえし、俺の国に入り込んで色々荒らしてくれた分はたっぷり何もかも喋って貰わねえとな?」
うずくまるクロヴィスに対してハルバードの先端を突き付けながら、サィードが邪悪な笑みを浮かべて追及の姿勢に入る。
何も事情を知らない第三者がこの状況を見たら、どっちが悪者なのか分からないだろう。
しかし次の瞬間、クロヴィスはサィードの後ろの方に目をやって不敵に笑った。
「ふふ……王子様も甘いなあ」
「何だと? ってか、何で俺の事をお前が王子だって知ってんだよ?」
「ディルク様が調べてくれたのさ。でも、王子になるには器が足りねえ。だってほら……まだ後ろに敵が居るってのによぉ?」
「はっ!?」
その不敵な言葉に思わず後ろを振り向いてしまうサィード。しかしその瞬間、物凄い衝撃が走って身体が宙に浮く感覚に襲われた。
「ぐえっ!?」
「はっは! こんなガキの騙しに引っ掛かるなんてバッカじゃねえの!! ついでにこれもやるよ!!」
「なっ……!?」
自分がクロヴィスにタックルをされて吹っ飛んだと言う事を知った瞬間、目の前に何かが飛んで来た。
それは桃色に輝く結晶石。その結晶石を見た瞬間、サィードはタックルの痛みも忘れてあたふたを通り越したパニック状態に陥ってしまった。
「わ、わ、わ、わわわわわわっ!?」
「じゃあな、あーばよっと!!」
「……っのやろおおお!!」
反射的に手で受け取ってしまったその結晶石を、コントロールルームの出入り口になっているドアから素早く外に去って行くクロヴィスに投げ返すサィード。
だが、それはクロヴィスに閉められてしまったドアに当たって跳ね返って来てしまったので、ますますパニック状態になる。
「ひっ、う、うわあっ!!」
泣き声交じりの悲鳴を上げながら、とにかく少しでも離れるべくコントロールルームの設備の陰に一目散に駆け込んで、出来る限り身を屈めて爆発から身体を守ろうとする。
そのまま一秒……五秒……十秒経過……するものの、部屋の中には静けさと先程の戦いで生み出された敵の死体から漂う血の臭いだけが残されたままだ。
「……あれ?」
爆発しない。
全然爆発の気配も予感もしないこの状況に、自分でも情けないと思える程に丸まった身体を伸ばしながらサィードはキョトンとした顔つきになる。
一体何がどうなっているのか分からないが、何時まで経っても爆発しない結晶石に対してゆっくりと設備の陰から顔を出し、じっとその石を見る。
もしかしたらこれは……と疑問を持ちつつ、四つん這いでゆっくりとその結晶石に近付いて手に取ってみる。
「あっ……あのやろおおおおおおっ!!」
「何だ、どうした!?」
「ね、ねえ……何があったの!?」
結晶石の正体に気が付いて悔しさの余り雄叫びを上げるサィードの元に、東西のコントロールルームにスイッチを操作しに向かっていたソランジュとサイカが合流した。
サィードは彼女達にあの白ライオンの獣人クロヴィスが俺との勝負に負けて逃げて行った事、その際にこうして投げ付けられた結晶石の爆弾が魔力が抜かれたイミテーションだった事を告げ、力任せにその結晶石を床に叩き付けた。
「ちっきしょう! あの野郎を絶対にとっ捕まえるぞ!!」
「捕まえるって何処に向かうんだ?」
「外に逃げて行ったのは確実なんだよ!! と言うかお前ら、今まで何処で何をしていた!?」
「ど、何処でって……左右のコントロールルームに行っていたに決まっているでしょ。そこでロックを解除した後に敵の増援が現われて、その対処をしていたのよ」
「私もサイカと同じだ。それよりもその白ライオンを追い掛けるならさっさと行こう」
しかし、敵が居なくなってさっぱりしたセキュリティシステム管理センターから出た三人は完全にあのクロヴィスを見失ってしまい、行方が掴めなくなってしまったのだった。
◇
時は少しさかのぼり、レウスとドリスとティーナの三人は爆発とともにクロヴィスが飛び出して来た噴水を背にして、イレイデンの南へと向かって駆けていた。
と言ってもその工場が出来たのは十年前にサィードが国を去ってからである為、王子の彼も場所を知らないのでイレインからルートを教えて貰ったのだ。
「確かずっと南に向かえば、その工場があるって話だったな」
「ええ。ですが敵も簡単に私達を向かわせる気は無いみたいですよ!」
ティーナのセリフを聞きながら前を見てみれば、そこにはバラバラと道を塞ぐ為に躍り出て来る沢山の敵の姿が。
それを見た三人もそれぞれ武器を構えながら、邪魔する敵を各自で薙ぎ払って行く。
「ねえレウス、魔術も使えば良いんじゃないかしら?」
「言われなくても分かってるさ! そらっ!!」
走りながら手の中に生み出したエネルギーボールに爆発エネルギーを溜め込み、敵の集団に向かって投げ付ける。
そのエネルギーボールの直撃を受けた敵の中で爆発が起こり、後に残るは屍ばかりだ。
このイレイデンに住んでいる一般人は、どうやら先程のクロヴィスが引き起こした噴水の爆発によって危機を察して家の中に引っ込んだか、被害が受けない別の場所に避難したらしいので気兼ね無く魔術を放ち、武器で攻撃が出来る三人。
「死にたくなければ道を開けろっ!! 邪魔する奴にはこっちも容赦しないぞ!!」
その気迫と強力な魔術をメインの武器に、レウス達の進軍は南の工場まで止まらなかった。