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450.所長室でのバトル

「ふん、ようやく来たみたいだな」

「……貴様は?」


 所長室は今までこの研究所の中で見て来たどの部屋よりも広かった。研究室よりも、事務室よりもである。

 そしてその所長室の奥にあるデスクの椅子で、膝を組んでキザな格好で座っている黒い狼獣人の男が一人居るのを見つけたエルザが声を掛けるが、彼が答えるよりも先にイレインが反応した。


「あっ……貴様はもしかして、あのダウランド盗賊団の副団長の一人……エドワルド!?」

「知っているの?」

「ええ。あの男はエドワルド・メルクブルーク。ダウランド盗賊団と言う大きな盗賊団の副団長を務めている、狼獣人の男です。確かワイバーンに乗って移動している所を、僕の仲間に何度か目撃されていますね」

「ワイバーン? それってもしかして……」


 アレットは思い出した。

 この研究所のトラップを解除して玄関まで行く時に、ふと見上げた屋根の上に居たあのワイバーンの事を。

 その彼女のセリフに気が付いたエドワルドが、組んでいた足を解いて立ち上がる。


「いかにも。あれは私のワイバーンだ」

「……と言う事は、最初からここで私達を待ち伏せしていたの?」

「ああ。カシュラーゼの占領下にあるイレイデンが狙われていると連絡を受けたんだ、メイベル団長からな」

「め、メイベル!?」

「そうか、メイベル・ダウランドって言うのがあの女のフルネームですね……」


 驚くアレットと事情を察したイレインの様子を見たエドワルドは、唐突に遠吠えを始めた。

 かなりの大きさの遠吠えに顔をしかめて耳を塞ぐ三人だったが、その瞬間所長室の外からバタバタと慌ただしい足音が聞こえて来た。


「なっ……!?」

「ふん、私一人じゃ退屈だろう?」

「貴様、仲間を呼んだのか!!」


 今の遠吠えは警笛代わりだったらしい。

 どんどん所長室に向かって近づいて来る複数の足音に対してどうするかもたつく三人に向かって、エドワルドは狼の身体能力を活かして跳躍し、肉薄する。


「さぁ、お前達もここで終わりだ!」

「くっ……!」


 自分に向かってショートソードの二刀流で斬り掛かって来たエドワルドの猛攻を受け流して、バトルアックスで反撃に出るエルザ。

 その後ろでは所長室の外からやって来た増援に対し、イレインとアレットが対処を始めていた。


「まさか、貴様が俺達のスパイとして潜り込んだとはな!」


 そんなエルザの反撃を持っているショートソードで受け止めるエドワルド。この二人の戦いは全くの互角である。

 まさに死闘。邪魔者は一切居ないタイマン勝負。技と技のぶつかり合いだ。

 二本のバトルアックスを武器とするエルザに対し、二本のショートソードで応戦するエドワルド。

 バトルアックスの方がリーチが無い分、距離を詰める事が出来ればエルザが有利になるのだが、エドワルドも盗賊団の副団長として名を馳せているだけあって簡単に距離を詰めさせてくれる筈が無い。

 エドワルドは左手で盾の代わりにショートソードを振り回してバトルアックスの攻撃を弾き、右手のショートソードで攻撃する二刀流のスタイルを取る。

 だが、それでも冷静にエルザは対処。金属が打ち合わさる音が所長室の中に響き渡り、戦いが繰り広げられる。

 そのまましばらく打ち合いが続いていたが、良い加減息もあがって来たのでケリをつけたいと言うのは両者共に同じ考えだ。


「そらっ!!」


 ショートソードで攻撃を弾き、今まで以上のスピードでエルザの懐へ飛び込むエドワルドだが、その懐に飛び込んで来た所でエルザは身体を捻って攻撃をかわし、彼の顔面に頭突きをする。


「ごあっ!」


 エドワルドが怯んだ隙に、エルザは彼が持っている左手のショートソードをバトルアックスで弾き飛ばす。


「く、くそっ!」


 残ったショートソードで必死にエドワルドは立ち向かうが、頭部に衝撃を受けた事で一瞬意識が遠のいてしまう。

 それをエルザは見逃さずに、左足で右手を蹴り上げてショートソードも弾き飛ばした。

 更に間髪入れずに右の回し蹴りも繰り出せば、その足はエドワルドの側頭部にヒットする。


「ぐはっ!!」


 これでもう片方のショートソードも吹っ飛ばされたエドワルドは、隠し持っていた懐のナイフを素早く取り出してそれを素早くエルザに向かって投げた。

 だがエルザは避けようとはせずに、何とそのナイフをバトルアックスで打ち返した。


「な、何……うっ!?」


 その矢はエドワルドの右肩にヒットして、見事に彼の動きを止める。それを見たエルザはそのままダッシュして、渾身の飛び蹴りをエドワルドの顔面へと喰らわせる。


「がはっ……」


 クリーンヒットした前蹴りは、エドワルドを戦闘続行不能状態にさせるには十分であった。


「はっ、はっ、はっ……さあ、色々と話を聞かせて貰うぞ」


 所長室の外でも戦いが終わりそうなので問題無いと判断し、エルザはそう言いながらエドワルドを強引に立たせて壁に押さえつける。

 しかし、その一瞬の油断がエドワルドにチャンスを生む。


「ガアアアッ!!」

「っ!?」

「はっ!」


 狼の顔つきで威嚇した自分にエルザが一瞬首をすくめて怯んだ隙に、彼女のスネを蹴ってダメージを与える。


「ぐは!?」

「おらっ!!」

「がはああっ!!」


 更に頭を掴んで顔面に全力の膝蹴りをかまされ、鼻血を噴き出して仰向けに倒れたエルザを尻目に右肩のナイフを抜き、ショートソードを二本とも回収。

 そして左手で指笛を吹いてワイバーンを呼び寄せたエドワルドは、窓を体当たりで破ってワイバーンに飛び乗り、大空へと舞い上がって行った。

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