449.研究所の書類
「連絡ついたのか!?」
「はい、仲間に連絡は入れました! 三か所の場所を教えたのでじきに向かって来る筈です!」
「そう……それなら大丈夫ね!」
上から下りて来た増援を一掃したものの、明らかに数が少ない。
と言う事はまだ上から敵がやって来る可能性が非常に高いので、ここで足止めを食らってしまう前にこっちから先に進んで敵を倒して制圧しに行こうと決めた三人は、外からの増援がまたやって来ない内に階段を上って二階へ向かう。
その二階のフロアでは予想通り、武装した警備兵とここを守るべく立ちはだかる研究員の魔術師達が待っていた。
当然そんな事は三人とも予想済みだったので、囲まれない様に注意しながら少しずつ、しかし確実に立ちはだかる敵を倒して三階に続く階段を目指して進んで行く。
「中の様子からすると、どうやらここに残っているのは騎士団員ではなくてただの警備兵と研究員だけらしいな」
「ええ。ですがそれでも警備兵は強力な魔術を放って来ていますし、研究員は研究員で硫酸とか塩酸とかの危ない薬品も投げ付けて来ていますから立派な抵抗ですよ」
「そうねえ。さっき硫酸少し掛かっちゃって……ほらこれ、ちょっと焼けちゃってるし」
アレットがそう言いながら、マウデル騎士学院の制服である黒いコートをつまんでその部分を二人に見せてみる。
そこは確かに彼女の言う通り、若干の白煙を上げながら穴が開いてしまっていた。
「でも身体に掛からなかっただけ良かったじゃないか」
「それもそうね。さて……この二階はもう終わったから後は三階だけよね。三階って何があるフロアなの?」
「ええと……僕がこの国に居た時と内部事情が変わっていなければ、そこには幾つかの研究室と事務室、そして研究所の所長室がありますね」
イレインの案内に従って、アレットとエルザはいよいよ三階のフロアに到達する。
そこには確かに幾つかの研究室、そして廊下の突き当たりに所長室が存在していたので、ここでもワラワラと湧いて出て来る研究員や警備兵達を退けながら探索する三人。
何かカシュラーゼに繋がる資料みたいな物は無いかを探していると、アレットが事務室で気になる書類の束を発見した。
「あら、何かしらこれ……」
「どうした?」
「いや、これ……ちょっと見てみてよ。これってここだけじゃなくて、他の研究所についての報告書みたいなものよ」
アレットが見つけたその書類。
一体何が書かれているのかを確かめるべく手に取ったのだが、その前に所長室の様子を見に行ったイレインの声が出入り口の方から聞こえて来た。
「お二方、ちょっとよろしいでしょうか?」
「え? 何かしら?」
「あの……所長室の中から物音がするんです。それから人の気配もするんです」
「えっ、そうなの?」
「まだ中に誰が居るかって言うのは見ていないのか?」
「はい、それはまだです」
「そうか。だったら先にこれを見てくれないか。アレットが見つけたんだ」
その書類の束を三人でパラパラとめくってみると、とんでもない事実が発覚した。
「……は!?」
「いや、ちょっと待て。これって……」
「こ、これは……頭がおかしいとしか思えない!!」
三人が絶句するのも無理はなかった。
その書類の中には色々と人間や獣人の人体に関しての詳細が書かれている。それだけなら別に問題は無いと思っていた三人だったが、書類をめくって行くにつれて内容が余りにもおかしい事に気が付いたのだ。
「何よこれ……解剖した後の処理の仕方って……」
「しかも、解剖した後に何かの実験用の材料に使うと言うならまだ分かるんだが……これって明らかに食物用の処理の仕方だよな?」
「と言う事はつまり、この内容って人間や獣人を食べる為の手順になるんですかね?」
そうとしか考えられない。
手順の内容としてはまず裸にして、綺麗に体毛を剃ってから皮を剥いで……と見るのも口に出すのも恐ろしい内容が事細かに書かれている。
恐らく、不慣れな研究員達にもすぐに作業に慣れて貰う事が出来る様にこうして分かりやすくマニュアルを作って手順を教えているのだろうが、その分かりやすさが残虐な内容として三人の脳裏に刻み込まれて行く。
「うえ……何だか気持ち悪くなって来たわ……」
「私もだ。だけど……待てよ? この研究所にそんな人間や獣人を解体する為の施設や設備なんてあったか?」
「いや……無い筈ですね。今までこの研究所内をくまなく調べて来ましたけど、そんな場所も設備も見当たらなかったですよ」
口元を押さえて顔を青ざめるアレットとエルザに対して、そう返答するイレイン。
確かにそんな食用に解体をする為の設備が、この研究所内には見当たらないのが不思議だ。
だとしたら何処か別の場所にこの設備があるだろうと踏んだ三人は、書類の束を持って残る所長室へと向かう。
イレイン曰く、中から何か気配がすると言うのでアレットが探査魔術で中の様子を探ってみる。
「……どうだ、アレット?」
「誰か居るわ。数は……一人よ」
「踏み込みますか?」
「それしか無いだろう……それじゃ行くぞ!」
やはり、中に誰かが居るらしい。
それが何者かは分からないが、とにかく踏み込んでみなければ話が進まないのでここは意を決して、エルザが後ろに下がって勢いをつけてから踏み込み、ドアを思いっ切り蹴破って所長室の中に突入した。