447.いざ、魔術研究所へ
イレイン、アレット、そしてエルザのグループは東の魔術研究所へと向かう。
北にあるベリザッコ城からやって来て噴水の左にある道に向かって駆け出した三人は、向かって来る敵達を退けながらゴール地点へ向かう。
勿論、アレットとエルザはこのヴァーンイレス王国に来るのが初めてなので、この国の人間であるイレインに先導して貰いながら進んでいた。
「次の角を左です!」
「はい!」
四か国の連合軍が襲い掛かって来るが、戦って無駄なエネルギーを消費しない様にレウスの魔術防壁を掛けて、事前にある程度の攻撃をブロック出来る様にしているのだ。
おかげで物理攻撃も魔術攻撃も防ぎながら駆け抜けて行けるのだが、魔術防壁の耐久度も持続時間も限界があるので魔術研究所に辿り着くのを最優先にイレインに道案内を頼んでいる。
そのイレインは二本のショートソードを使ってスピード重視のスタイルで戦うのが特徴で、こうして走り抜けながらも的確に敵を斬り裂いて行くのは彼にとって得意なシチュエーションらしい。
「もう少しですよ、頑張って!!」
「分かった!」
それに何より、こうして時折り励ましの言葉を掛けてくれるので無意識の内に頑張ろうと思えるのがアレットもエルザもありがたかった。
そんな駆け抜ける三人の目の前には、徐々にではあるがヴァーンイレス王国の元々のトレードカラーであった青に塗られた外壁が特徴的な建物が姿を見せていた。
こうして目的地が見えて来るのは、自分達が目指すべき場所が分かるだけあってテンションも上がる。
「良し、あそこだアレット!」
「そうね! あ、でも……ちょっと待って!!」
「ど……どうしました?」
アレットの静止の言葉に、一緒に走り抜けていたエルザのみならず三人の先頭を進んでいたイレインも足を止めた。
ここで立ち止まっている訳にはいかない。まだ後ろからは追っ手も迫って来ていると言うのにどうして立ち止まる様に言ったのかだが、それはアレット自身が一番良く分かっていた。
「あの研究所の周囲に、強大な魔力の流れを感じるわ」
「それはそうだろう。だってあそこは魔術研究……」
「違うわ! あそこの周りに何かモヤみたいなものが掛かっているのが分かるのよ」
「モヤですか? えっ、それってもしかして侵入者撃退用のトラップだったりしますか?」
「え……分かるの?」
お互いに顔を見合わせるアレットとイレインだが、エルザがそんな二人に先を促す。
「待て、今ここで考えても分からないだろう。もっと近くまで行かなければならないと思うが?」
「そ……そうね」
「とりあえず走りながらで良いから、そのトラップとやらを説明してくれないか?」
「分かりました。もうすぐですからその方法で向かいましょう!」
研究所までの残り少ない道のりを再び駆け抜け始めながら、イレインがその侵入者撃退用のトラップについて説明を開始する。
「名前の通り、研究所を囲む様に仕掛けられているトラップです。僕が調べた所によりますと、どうやらあの魔術師のディルクと呼ばれている人間が主導で作ったらしくて、部外者を中に入れない為のものらしいです」
「ああ、そう言われてみればそれは分かる。と言う事は許可を持った者でなければ入れないと言う事か?」
「そうなりますね。僕も内部を調べてみようと思いまして研究所の中に入れないか交渉してみたんですが、傭兵と言う立場であってもカシュラーゼと少しでも関わりが無い者は一切の立ち入りを禁じているらしく、許可証が無いと無理だそうで。そのトラップを一時的に解除する為の、許可証が……」
「許可証?」
「ええ。小さいカードを見せられたんですよ。これ位の……黄色いカードを」
それがあればトラップを解除出来るらしいのだが、許可証となる黄色いカードを持っているのは勿論その魔術研究所の関係者に限られている。
だったらその関係者から奪い取ってでも中に入れて貰うしか無いと考えていたエルザだったが、敵はどうやら奪い取る為に最高のシチュエーションを用意してくれたらしい。
「おい……」
「ええ、絶対に私達を中に入れる気は無い様ね」
「それはそうでしょうね。僕達が来るって事はさっきのライオンの襲撃で連絡が入っていたでしょうし」
ブツブツと言っているイレインの目の前には、さっきの白いライオンの仲間と思われる武装した集団が魔術研究所の出入り口を固める様に立っているのだ。
そしてその後ろには、妙な緑の太いラインが研究所を囲む様に地面に引かれている。
イレイン曰くそのラインこそがトラップらしく、許可が無い者がその緑のラインを踏んだ場合に電撃が浴びせられ、身体中に物凄い痺れが走って動けなくなるらしい。
事実、その実態を調べていた時にタチの悪い酔っ払いがそのラインを踏んでしまい、目の前で電撃によって地面に倒れてしまったのを見てしまったらしいのだ。
「その酔っ払い……どうなったんだ?」
「生きてはいたみたいですけど、あれは治るまで数か月は掛かるかも知れませんね。身体の至る所から煙が上がっていましたし、人間の肉が焦げる臭いは強烈でした」
「うへえ……それはそうなりたくないわね」
「そうだな。だからこそ、この連中の誰かからカードを奪って中に突入するぞ!!」