445.忠告
そう思い始めたレアナは、何にせよレウス達に忠告しなければならないと考えてエンヴィルークに彼等の居場所を探って貰う。
「あの……エンヴィルーク様、レウス様達の今の居場所はお分かりになりますか?」
『ん~? ああ、ちょっと待っていろ』
その返答からおよそ十秒の間を置いて、レアナの要望にエンヴィルークが答え始める。
『む……奴等は今、どうやらイレイデンの奪還に向けて動き出したらしい』
「えっ、そ……そうなるとあの方達がカシュラーゼの待ち伏せに遭うのでは!?」
『その可能性は高い。忠告しておくか?』
「そうですね、それが良いと思います!」
カシュラーゼが何も策を無しに、ただ潰される為に待っている訳が無い。
必ず何か手を打って来る筈だと考えるレアナが、ディルク達の行動パターンを考えて導き出した答えがあった。
「あっ……そうですわ、監視カメラ!!」
『監視カメラぁ?』
「そうですわ。最先端の魔術テクノロジーで、その場に置いてある物体を映像として記録出来るんです。それから動いている物も映像として記録出来ます」
『あー、そういや風の噂でそんな画期的な物が開発されたって聞いた事があったが、まさか連中はそれをヴァーンイレスにも取り付けたって話か?』
「その可能性は高いですわ。筆頭魔術師のディルク様があの戦争の指揮を執り、そしてヴァーンイレスの占領後の統治指示をも出していたのなら尚更です!」
それを聞き、そうだとしたらこのままあの連中を行かせるのはまずいだろうと考えたエンヴィルークはそこでレアナとのテレパシーを終了する。
そして後は、レウス達にレアナから連絡が行く様に頼んでから。
(確かレウス様達がいらっしゃるのは、ヴァーンイレスの王都イレイデンだって話でしたね)
そこにテレパシーを飛ばす為に意識を集中する。ただでさえ遠いのに日が暮れて暗くなっていると相手の居場所がなかなか掴み切れない場合が多いからである。
壁に貼られている世界地図を指差して、極限まで意識を集中してレウスの波動を感じ取る。
(あの方は周りの方々よりも魔力が多い……となれば、魔力の多い場所を特定すれば行ける筈ですわ!)
前にアークトゥルスの墓に居た一行の居場所もそうやって探ったので、今回もその方法で上手く行く筈だと信じてテレパシーで伝えたい言葉を思い浮かべる。
すると地図の上に置いた手のひらが、じんわりと熱くなり始めたのを感じたレアナは確信する。
(ここですわ!)
レアナはその瞬間、頭の中の意識を地図の中に流し込むイメージで言葉を思い浮かべた。
「レウスさん、レウスさん、聞こえますか?」
『おっとぉ!? なっ……何だ!?』
「私です、カシュラーゼのレアナです。前にテレパシーを使ってお話ししたと思いますが覚えていらっしゃいますか?」
その時の事を忘れ去られていたら嫌なので一応確認してみるが、どうやらそんな心配は無用だったらしい。
『あっ……ああ、覚えてるさ。しかしいきなり話し掛けるのは心臓に良くないな』
「申し訳ございません。ですが私が貴方と連絡を取る手段はこの方法しか無いのです。そこをどうかご了承下さい」
『まぁ、それならそれで良いけど……どうしたんだ? 俺達はこれからヴァーンイレスの本拠地に殴り込みを掛けに行くんだぞ?』
「その殴り込みとやらの件でお話がありまして……」
『えっ?』
レアナはテレパシーで、エンヴィルークと話し合って懸念している事をそのままレウスに伝えた。
すると、彼の方からも納得した様な声が返って来たのだ。
『……ははあ、なるほどな』
「レウス様?」
『イレイデンに来てから何だか見張られている様な気がしていたのは気のせいじゃなかったって事か。つつまり、俺達の計画がそっちのディルクとかに筒抜けって可能性もあるんだな?』
「はい。ですからここは一旦殴り込みを駆けるのは止めて作戦を練り直すべきかと思い……」
『いいや、俺達はここで殴り込む!』
レアナの言葉を遮ったレウスがそう力強く宣言するのを頭の中に直接聞いたレアナは、彼の無鉄砲さに頭が痛くなるのを感じた。
「あの……失礼ですが、レウス様は考えて行動される、と言う事をなさらないのでしょうか?」
『だからだよ、考えた上での決断さ。ここで俺達が作戦を練って立て直す為に引き下がってモタモタしたら、それだけ敵に準備の時間を与えてしまうだろう。だからこそ俺達はこれから殴り込みを掛ける。予定の日没後にはちょっと早いが、既に見つかっている事を前提として行動するのならなるべく早い方が良い』
敵に見つかっていると仮定するのなら、敵が作戦を立てたり迎撃の準備を整える前に一気に叩き潰すだけである。
と言うかそうしなければ、相手が強大な戦力を持っていた場合にそれを使われでもしたら厄介だからだ。
なのでここはレアナの忠告を無視する形で、レウス達は一気に殴り込みを掛けて制圧する作戦を取ると宣言した。
それで終了してしまったテレパシーの内容を振り返って、レアナはハアーッと溜め息を吐いた。
「勇者アークトゥルスの生まれ変わりともあろうお方がこの調子だと……大丈夫ですかね……?」