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443.設備投資

「じゃあ、後は三つの施設の守りを固めてよね」

『かしこまりました』


 既にレウス達がその三つの施設に襲撃を掛けようとしている。

 それを知ったディルクは先にヴェラルとヨハンナの赤毛のコンビに声を掛け、同時にメイベル達にも声を掛けて拠点を防衛する事をカシュラーゼから指示していた。

 彼が何故、レウス達が防衛拠点を潰しに来ているのかが分かったのかと言えば、それはカシュラーゼがこのヴァーンイレスを占拠している事に起因する。

 裏の世界のカシュラーゼと同じく、ヴァーンイレスの町の至る所に監視カメラを設置しているのである。

 それは魔術通信を通じてカシュラーゼの監視センターへと転送されており、レウス達がヴァーンイレスへと入った事も、それから新しい仲間とともに三か所の重要拠点へ襲撃を掛けようとしている事も既に筒抜けになっていた。


「しかしディルク様、良いんですか?」

「何が?」

「三か所の拠点を防衛するのは良いと思うんですけど、向こうもそれなりに力をつけて来ていますから、それこそガッチリ固めないとまずいんじゃないです?」

「うん……だからそう言っているんだよライマンド。特にあの工場に関してはビジネスで儲ける為に造ったんだから、あそこを潰されたらこっちにとってはかなりの痛手を負ってしまうよ」


 そう、新しいビジネスを始める為には色々と設備投資が必要になる。

 それはあの工場だってそうであり、一番軌道に乗っているビジネスだからこそ潰される訳にはいかない。イレイデンにあのレウス達が現われた事によって被害が大きくなりそうなのは明白なのだが、それ以外の二つの工場も稼働して製造に充てているのでそっちだって潰されると困る。

 しかもこの三つの工場は今でこそこうしてビジネスとして成り立っているものの、元々はディルクの趣味で始めたものが切っ掛けとなっている。


「監視カメラを設置していたからあの連中が地下からやって来た事とかも分かったし、ベリザッコ城が取り返されちゃったのは痛手だけどまだまだ挽回のチャンスはあるんだ。とにかくイレイデンの守備はメイベル達に任せているからね」

「は、はい……それは彼女達も腕が立つので良いかとは思いますが、その趣味って言うのは一体何なんです?」


 実は、ディルクの趣味とやらに関しては今ここに居るライマンドも、それから別の場所で研究に励んでいるドミンゴも、更には塔で幽閉された状態のままになっているレアナも知らないのである。

 なので、ライマンドは今この話の流れで聞いてみようと思ったのだが、聞いた事を後悔する流れになるとは思いもしなかった。


「え、僕の趣味……聞きたい?」

「はい。わざわざ工場を造るレベルの金を掛けた趣味ですよ? 気にならない訳が無いじゃないですか」

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。元々は僕がその趣味があっただけで、それからチラホラと知り合いにそう言った人が居るのを耳にして、気が付いたらお裾分けをくれって言われたからビジネスとしてやり始めたんだよ。それがさ……」


 他人に話したとしても絶対に分かってくれない様な趣味の話を、なるべく聞かれない様にするべくディルクはライマンドの耳元で内緒話の様に内容を打ち明ける。

 だがその話を聞き始めた途端、ライマンドの表情が一気にこわばったのだ。


「え……え? えっと、今……何て言いました?」

「だから僕は……の……して……するのが趣味なの」

「……うっ……」


 一気に気分が悪くなり始め、口元を抑えてしゃがみ込んでしまうライマンドを見下ろしながら、ディルクは不満気な声を漏らす。


「ねえ、僕の趣味の話を聞きたいって言って来たのはそっちの方なのに、何でそんなリアクションされなきゃならない訳?」

「何で……って、あのなあ! こんな筈じゃなかったって思いてえんだよ、俺は!! もっと違う趣味かと思ってたよ!!」

「例えば?」

「た、例えばほら……その工場で魔術の威力を確かめる為に解剖実験を行なうとか……そんなんですよ!!」


 そのライマンドの考えを聞き、ディルクはさわやかな笑みを浮かべる。


「あんまり変わらないじゃないか」

「変わるだろ! すげえ変わるだろ!? ってか、あんたどうしてそんな笑顔なんだよ!?」

「だってほら、幸せじゃないか。趣味は趣味で仕事にしちゃいけないって話もあるけど、僕の場合はその趣味で食べて行けるんだし、そもそも君達に支払う給料の一部だってその工場の儲けから出しているんだからありがたく思ってよね」


 さわやかな笑顔のままでそう語るディルクを見上げ、ライマンドは限界まで目を見開いて勘付いた。


「ま、まさかあんた……あの工場を造らせた本当の理由って……!?」

「ん? なあに?」

「とても俺の口から言えねえぞそんなの!! 口に出すのも恐ろしいですって!!」

「そう? ……それじゃ、僕が直々に君の耳元でささやいてあげるよ」


 そう言いながらライマンドに向かって手をかざせば、彼の身体が動かなくなってしまう。

 その彼の耳元で、ゆっくりと深みのある声で自分の趣味を語ってから動ける様に魔術を解いてやれば、ライマンドは余りのショックで部屋の隅にあるゴミ箱の中に盛大に嘔吐したのだった。

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