442.思い出した事
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レウスの提案した三人ずつに分けての奪還作戦により、まずは魔術研究所へと向かうのがイレイン、アレット、そしてエルザのグループ。セキュリティシステムの管理と操作を行なっている建物に向かうのがサィード、ソランジュ、サイカの三人で、残ったレウス、ドリス、ティーナの三人が武器と防具の製造工場に向かう。
だが、何処もかしこも入るのに一苦労しそうな場所ばかりであるのだとイレインとサィードが忠告する。
「魔術研究所はあのカシュラーゼの息が掛かった場所ですから、それだけ向こうも守りを固めて来るでしょう。それから工場もカシュラーゼのビジネスの拠点ですから、敵の抵抗も激しくなる事が予想されます」
「そうだな。それからセキュリティシステムのある建物だけど、俺がこの国を脱出する十年前でも最高の警備レベルだったんだ。それが十年経って、ますます守りが固くなっているのは間違い無いだろう」
イレインとサィードはこのヴァーンイレスの内部を見た事があるものの、それ以外のメンバー……特にマウデル騎士学院の三人にとっては初めての光景ばかりである。
「なぁ、そっちの四人は冒険者としてこの国に来た事は無いのか?」
「あるにはあるけど……王都のイレイデンには私も姉様も立ち寄らなかったわね。カシュラーゼに占拠されていて治安が悪いって話を聞いていたから、それ以外の場所を回って仕事を受けていたわ」
「私も貴女達と一緒で、なるべく王都には近づかない方が良いって言われていたわ。それにさっきのその工場っぽい話は聞いた事があったわね。麻薬が蔓延っているって噂が流れていたのを今思い出したんだけど……失踪の事については聞いた覚えは無かったわ」
ヒルトン姉妹とサイカはそう証言したが、その横でソランジュが顎に手を当てて考えながら、怖い顔つきになっているのにレウスが気が付いた。
「……」
「おい、どうしたソランジュ?」
「私……ふと思い出した事があるんだ。麻薬の話じゃなくて、もっと恐ろしい話……」
「何がだ?」
「その失踪した国民が、解剖されているって噂があるって」
「解剖……?」
解剖と聞いてレウスの頭の中によぎるのは、かつてカシュラーゼで捕まった時にあのディルク達に縛り付けられていた、自分の惨めな姿だった。
だとしたら、失踪したと言う人間や獣人を魔術の実験台にするべく、ディルクが主導して次々に解剖をしているのかも知れない。
それだと失踪して帰って来なくなるのも分かる、とレウスが言うものの、話を横で聞いていたアレットが疑問を覚えた。
「えっ、それって変よ?」
「何が?」
「だって、失踪しているのは圧倒的に人間の方が多いんでしょ。魔術の実験台にするんだったら獣人の方が良いと思うのよ。少なくとも私がカシュラーゼの立場だったらそうするわ。それに合法的な魔術の人体実験だったら、被験者として人間よりも獣人の方が魔術が効きやすいってデータがあるのよ」
「って事は、魔術の実験で解剖されている訳じゃ無いって事なのか?」
「その可能性はあるだろうけど……でも、今こうやってここで考えても分からないわ」
確かにアレットの言う通り、自分達九人がこの廃屋の中で考えたって答えの出る話では無い。
だったらその三つの重要拠点に乗り込んで、奪還して何をしているのかを暴けば良いだけの話である。
「とにかくまずは重要拠点を奪い返しに行くぞ。で……あんたの言っていたその仲間達とは何処で合流すれば良いんだ?」
「あ、それでしたら今から連絡を入れます。決行は日が沈んで真夜中になったらにしましょう。カシュラーゼの事ですから何をするか分かりませんし……」
「分かった。それまでに俺達がそれぞれ向かう場所の大きさとか、出入り口とかを分かる範囲で教えてくれ。今の内に仕入れられるだけの情報が欲しいんだ」
「分かりました」
敵を先に知っておく事で、少しでも不安要素を無くして戦況を把握するのは戦術の基本の一つである。
レウスは前世でもそれを実践し、最終的にそうやってエヴィル・ワンを打ち倒した。
今回も出来るだけ多くの情報を得ておく事で、より自分達に有利になる様に戦いを進めようと考えていた。
(カシュラーゼ……これ以上お前達の好きにさせてたまるか!!)
奴等にとって、この世界の住人の命なんてそこ等に落ちている石ころと変わらないらしい。
そんな連中なんてこの世に居るだけで害悪極まりないので、さっさとご退場願いたいのがレウスの気持ちである。
しかし、この時レウス達よりも先にカシュラーゼが動き始めていたのには気が付いていなかったのは、一行にとって大きなミスだったと言えよう。
それもこれも、全てはこのイレイデンがカシュラーゼの支配下に置かれてしまっているからこその話。
そしてソランジュの話していた「国民の解剖」と言う話についても、レウス達一行が思っている以上に残虐な事実がこのイレイデンを始めとするヴァーンイレスの各所にあるのを、この先の旅路で知る事になろうとはこの中の誰も思っていなかったのだ……。




