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441.麻薬と失踪と

 しかし中毒症状が出る麻薬があるのは分かるにしても、それと大量に国民が失踪する事件と関係があるのだろうか?

 麻薬を売りさばいている人間、もしくは獣人が噛んでいるのは予想がつくのだが、失踪した後の行き先が未だに掴めていないのだ、とイレインは言う。


「その人達が何処に行ったのかって言うのが分からないんじゃあ、その内ひょっこり出て来るんじゃないかしら?」

「それは僕もそう思っていたんです。最初は。しかし調べを進めて行く内に、五年前からその失踪事件がありまして……」

「えっ、それって麻薬の話が出るずっと前からって事になるじゃない?」


 サイカの指摘にイレインは頷く。

 麻薬が出回り始めた時から国民が居なくなった、と最初は情報をそうキャッチしていたイレインだったのだが、それについてもっと詳しく調査を進めて行く内に五年前からちらほらと人間や獣人の失踪事件が出ていたらしいのだ。

 しかも奇妙な事に、失踪する国民は獣人よりも人間の方が圧倒的に比率が多いらしいのである。


「人間の方が圧倒的に居なくなっているってなると、これはその失踪に関して獣人が何かカギを握っている事になりそうだな」


 ソランジュは直感でそう考えてみたが、イレインからはそれを否定するデータがもたらされる。


「いいえ、獣人達が怪しいと言うのも無いらしいです」

「そうなのか?」

「はい。最初は僕も獣人達が怪しいと思いまして調査を進めたんですが、獣人達のあらゆるコミュニティを調べてみても、それから過去にヴァーンイレス王国内で犯罪歴がある獣人達を調べてみても何も出て来ませんでした。獣人達の中には人間に対して差別意識を持っている者も少なくありませんが、それでもその失踪に関わった話はまるで掴めませんでした」

「となると……話はやっぱりカシュラーゼ関係なのか? 五年前って事は、カシュラーゼがヴァーンイレスを占領して丁度五年後になるよな。偶然にしちゃあ、余りにも出来過ぎた話じゃないか?」


 あのディルクが率いるカシュラーゼが絡んでいる可能性が高いだろうと考えるソランジュだが、そこでイレインが更なる話を思い出した。


「ああ……そうそう、そのカシュラーゼがこの王都イレイデンを含むヴァーンイレス王国全土を掌握してからの話なんですが、大きな建物を三か所に建設しているって話があったんです」

「建物?」

「はい。確か武器と防具の製造工場だって話でした。カシュラーゼは魔術に力を入れている国なので、武器の製造をする為に工場を造ったとなれば軍備拡大の為にその話を進めていたって事で辻褄が合うのですが……三年前から何故かその工場の増改築が始まったんですよ」

「ぞ……増改築? 武器とか防具の製造ってそんなにお金になるのかしら?」


 いまいちそうした経済の話に疎いアレットは首を傾げるものの、そこはサィードが詳しく解説する。


「そりゃーなるさ。質の良い武器や防具を安く大量に生産出来れば、それを買い求める客が増えるからな。鍛冶屋の商売も上がったりさ」

「まあ、それはそうだけど……でもそんな工場を増設までするなんて、よっぽど儲かってたのね」


 ただ侵略するのではなく、その先のプランまでしっかり考えていたとなれば敵ながらそれなりに知恵が回るんじゃないかと思うアレットだが、イレインにはその工場の増設とともに失踪事件が増えだしたのだと言うデータがあるらしい。


「いいえ、それがそこまで儲かっていなかったらしいんですよ」

「へっ? そりゃまた何で?」

「武器や防具を大量生産するのは、魔物が多いイーディクトと好戦的なソルイールからの依頼もあって始めたビジネスだったらしいんです。それを同盟国のよしみだと言って、かなり安く買われていたそうですのでカシュラーゼ側にも不満が溜まっていたそうです」

「仲間割れって事?」

「そうなりますかね。でも、その増改築を進めたのにはその麻薬の話が関わっているらしいんです」

「えっ、と言う事はその工場の増改築をしたのってまさか……麻薬の製造をする為なのかしら!?」


 イレインは頷く。


「アレットさんのおっしゃる通り、その線が濃厚ですね。そして失踪した人間や獣人達は、麻薬の製造の為にその工場で強制的に働かされ続けていると言うのであれば辻褄が合います。事実、このイレイデンにもその工場の一つがあるんですよ」

「人間の方が失踪する確率が高いのも、麻薬の実験台として使われているからって事なのか?」

「そうなりますかね。この世界では人間の方が獣人よりも多く生存していますから、実験台として使うにはそれこそ大量のサンプルが必要になるんだと思います」


 それを聞いて一行は身震いする。

 まだ憶測の段階でしか無いものの、人の命を軽く見過ぎているカシュラーゼの恐ろしさを痛烈に実感したからだ。


「流石にもう良い加減許せませんわ……カシュラーゼの連中は人間の命を何だと思っているのでしょう!?」

「それは私だって同じよ、姉様。だからこそ今からイレイデンを取り戻しに行くんでしょう?」

「そうです。重要拠点は全部で三か所。一つはその工場、一つはセキュリティシステムを管轄する建物、最後の一つが魔術研究所です」

「分かった。それじゃこっちは全部で九人居るから、三人ずつにメンバーを分けよう」

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