440.合流
男は緑色の髪の毛をしており、柔らかそうな表情が特徴的だ。腰には二本の短剣がぶら下がっており、旅人の格好をしている。いかにもセバクターの同業者、と言う出で立ちだ。
しかしそんな自分の柔らかそうな顔つきを見ても、サィード以外のメンバーがまだまだ警戒を解かない雰囲気を察した男は自分から話し掛けた。
「サィード王子のお知り合いの方々ですね。初めまして。僕はイレインと言いまして、ヴァーンイレス王国の騎士団員だった者です。今では傭兵をしておりまして、その関係で王子と連絡を取らせて頂いておりました」
「あー、どうも初めまして。あんたがイレインか……俺はレウス。それからこっちから順番にアレット、エルザ、ソランジュ、サイカ、ドリス、ティーナの六人だ。女ばっかりの偏ったパーティーだろ?」
まさかこんなに男女比率が極端なパーティーになるとは思ってもいなかったレウスが、苦笑いを浮かべながらイレインにそれぞれ自己紹介をする。
それに対して柔らかい笑みを浮かべるイレインだったが、次の瞬間すぐに彼の顔が引き締まったものになった。
「はい、王子からの連絡で存じております。……それはそうと、王子達はベリザッコ城を取り戻されたそうで……」
「ああ。だから次はこの王都イレイデンだ。もうすぐで日が沈むから夜になったら奪還しに向かうぞ」
「ちょちょちょ、それって早い早い」
「早い?」
イレイデンを取り戻しに向かうべくやる気に満ち溢れているサィードだが、余りにも早急過ぎるそのスケジュールにレウスから突っ込みが入る。
「早いだろう、それは幾ら何でも……。だって俺達、このイレインって奴に出会ってまだ数分ってレベルだし、そもそも取り戻しに行くに当たって作戦を立てる為にここにこうやって集まったんだろう? それなのに今日の夜に作戦を決行するなんて、かなり急ぎ過ぎだぞ。ここはもっと慎重に行動しよう」
「そうだな。私は余り実戦経験が無いが、それでもレウスの言う通りだと思う。作戦を決行する為の人員が必要で私達を呼んだだけだったら、それはちょっとないがしろにされ過ぎだぞ」
レウス、そしてエルザにそう突っ込まれるサィードだが、それに対して答えたのはイレインの方だった。
「まあまあ皆さん、その作戦は大体こちらで立てております。それを皆さんに見て貰いまして、粗が無いかを指摘していただけたらと」
「作戦ねえ……作戦を立てるのは良いけど……このイレイデンはかなり広いわよ。それを一晩で制圧するなんて、どうやるのよ?」
「いえ、あの……誰も一人でやるとは言っておりません。それに僕や王子や皆さん以外にも、協力してくれる仲間を待機させております」
イレインの説明を聞いたサィードが、彼に対してにいっと笑みを浮かべた。
「もしかして、仲間達にも声を掛けたのか?」
「勿論です王子。この少人数ではイレイデンの早期奪還は無理ですからね。ですから僕が王子と連絡を取り合う一方で、ヴァーンイレスから脱出して各国に散らばっていた仲間達を呼び戻しました」
「そうか……だったら俺達の勝利は見えたも同然だな!!」
こりゃーイレイデンの奪還もすぐに出来るだろうと楽観的な姿勢を見せるサィードだが、イレインの表情がサィードと同じく楽観的なものにはならなかった。
「いえ、その……王子、それがですね……」
「何だよ?」
「ちょっと気になる噂を耳にしたんです。それも……とても一筋縄では行かない様な、かなり気になる話なんです」
「だから何なんだよ?」
「それは中に入ってからお話しします。こんな所で立ち話もなんですので、どうぞ中へ」
出入り口付近で固まって話していたら、何時か敵に見つかる可能性もあるのでイレインはサィード達を中に招き入れた。
そして、その気になる噂とやらの本題に入る。
「で、噂って?」
「それが……前に少しお話したかと思うのですが、このヴァーンイレス王国内で麻薬が流通していると言う噂がありましたよね?」
「あー、あったね。それが今回の奪還作戦と何か関係があるのか?」
関係無いんだったらそんな話題を振るのは後にしてくれ、と考えるサィードだがイレインの目は本気である。
「いえ、関係があるようなのです。僕が調べを進めた所、麻薬が出回り始めた時期と同時にこのイレイデン……いえ、ヴァーンイレス王国の国民達が少しずつ姿を消している様なのです」
「国民が失踪しているって事なのか?」
「はい。それも失踪した国民はその九割以上が見つかっていないらしいのです。残った一割は麻薬漬けになってしまい、ろくに意思疎通も取れないまま全員が麻薬中毒で亡くなりました」
「ぜ……全員なの?」
何で全員死んでいるんだ? とドリスが驚きの声を上げれば、イレインが神妙な顔つきで頷いた。
「はい。麻薬の解析を進めた結果、医療用の合法の麻薬にどうも特殊な加工をされた麻薬を使用されたらしいものを投与されたらしく、強い中毒症状に加えて内臓の機能を低下させてゆっくりと死に至らしめる麻薬らしいのです」
「そうなるとそんな恐ろしい物を投与された方が、沢山居る……と言う事になりますね?」
ティーナの確認にイレインは更に深刻な表情になり、頷いてから麻薬に関する話を続ける。