438.サィードの知り合い
「よーし、開いたぜ!」
「何か凄い音がしていたみたいだけど、大丈夫……?」
「ああ、何も問題無いぜ。それじゃ外に出てイレイデンの中に居る俺の知り合いに会いに行こう」
「知り合い?」
「ああ、前に話しただろう。俺の知り合いが色々とこのヴァーンイレスの実情を調べて報告してくれていたって。そいつに会いに行くんだよ」
それを聞いて、レウスを始めとする一行はああ……と思い出した。
「そんな話を聞いた気がするわ。それって昔からの知り合いの人だっけ?」
「ああ。この国を脱出した俺が、マウデル騎士学院を卒業して傭兵として活動して来た今まで……いや、もっと前だな。俺があいつに対抗するだけの力をつけるべく、縁もゆかりも無いリーフォセリアのマウデル騎士学院に入学するって決めた時から、ずーっとな」
「となるとかなり前の話だな。貴様はそうやって逐一情報を手に入れて、力をつけてこの国を取り戻す為の機会を虎視眈々と狙っていた訳だな」
「そうさ。とりあえず歩きながら話そう。この通路はかなり長いからな」
サィードに促され、サイカやエルザ達は彼の後に続いて倉庫の中に現われた、人一人が屈んで通り抜けられるだけのスペースしか無い通路の中に入って行く。
「十年前の俺は無力だったよ。俺が継ぐって決まっていたこの国に対して、あいつは有無を言わせずにその力を持って侵略しに来たんだからな」
「あれっ? でも確か私が聞いた話だと、あの戦争になる前って……ええっと確か十五年前から、カシュラーゼとヴァーンイレスの二国で色々とやり取りをしていたって聞いたんだけど……」
アレットの指摘に対して、サィードは声のトーンを落として返答する。
「最初はカシュラーゼの方から領土の拡大について話を持ち掛けられてさ。でもそんなのは俺の国としても呑める訳が無いって親父が言ってたんだ。そりゃー当たり前だよな。カシュラーゼと自分の王国が組んで国力を拡大すれば、どの国にも負けない最強の王国が出来上がるぞって言われても、一方的に言い寄られてはいそうですか、なんて言えねーし」
「一方的に?」
「ああ。カシュラーゼは魔術に秀でた国だって言われてっけど、このヴァーンイレスは元々は軍事力よりも畜産や農耕が盛んな国だったから、多分そこが目当てだったんだろうな。俺達は別に魔術の技術をそこまで欲していた訳じゃなかったし、カシュラーゼからの魔術の技術を買うんだったら何時も俺達の方から言っていたから、それは嫌だって断ったんだよ」
しかし、カシュラーゼは諦めなかったらしい。
世間で言う所のストーカーの様な存在になり、段々と脅迫めいた要求の仕方もする様になって来たのにうんざりしたヴァーンイレスは、必要最低限の取り引き以外は一切停止したのだと言う。
「だけど、それが向こうにとってはムカつく原因になったんだろうな。元々の原因は向こうだってのに、それが分からないってのはかわいそうに思えるぜ」
「確かにそれはあるわね。それで私が暮らしていたソルイール帝国や、ソランジュの地元のイーディクトと組んで力業で潰しに来た……いわゆる逆恨みって所かしら?」
「そうだよ。全く迷惑な話だぜ。こっちがやんわりと断ったり、時には無視しているのにそれを察しようともしないなんて全く鈍い国だなーって思ってたけど、それがまさかあんな形で来るなんてな」
通路の中を進む声のトーンからも、サィードがカシュラーゼに対してうんざりしていたのが分かる。
五年間のうっぷんを逆恨みと言う形で一気に発散され、強引に国を占領されてしまった事でサィードは国を追われる事になった挙句、家族も臣下も失ってしまったのだと話した。
そして、サィードからこれからの行動について詳しく説明がされる。
「さてと、これから先の話だが……イクバルトの町に行く前にこのイレイデンを取り戻す。ベリザッコ城を既に取り返したからな。俺の知り合いがイレイデンの外れで待ち合わせ場所を指定して来たから、そいつと合流して作戦を立てるぞ」
「昔からの知り合いって言っても、もうちょっと詳しく教えてくれても良いんじゃないか? お主の知り合いがどんな人物なのか分からなければ、警戒心は薄れないぞ」
ソランジュの希望に対し、サィードは前を向いたままその人物についても話し始める。
「その男の名前はイレインって言ってな、元々このヴァーンイレス王国の騎士団員の一人だったんだ」
「イレイデン?」
「違う違う、イレインだ。まあ、名前が似ているから聞き間違えるのも分かる。俺だってややこしいって思うしな。で……そいつが王国騎士団が壊滅した後に傭兵として活動し、俺に情報をくれていた。さっき俺がこの通路を開けた時に連絡を取ったんだ」
「それは分かった。それで作戦を立てるって言っていたけど、現時点でお主やそのイレインって言う男が考えているプランはあったりするのか?」
「まぁ、多少はある。だがこの人数でイレイデンを奪還するにはもっともっと煮詰めなきゃならねえわな」
全てはそのイレインと言う男に会ってからになりそうだ。
そう考える一行の目の前には、ようやく隠し通路の出口が見えて来ていた。