437.抜け道
「こっちは問題無かったわよ」
「俺の方も問題は無かったぞ」
「そうか、どうも」
八人が見取り図を参考にしてセキュリティシステムの起動を確認し、ここからイレイデンを取り戻しに向かう作戦に出る。
しかし、アークトゥルス……いや、レウス達にはサィードの提案した作戦に不安を覚える。
「でもさぁ、取り戻しに行くのは良いにしても……誰かがここに残らなきゃいけないんじゃないのか?」
「何で?」
「何でって……お主が自分で言っていただろう。セキュリティシステムを作動するとこのベリザッコ城の中には出入りが出来なくなるって。だから外から入れなくなるのは良いにしても、中から出られないってなると奪還しに行くなら不都合だろう?」
ソランジュが指摘した通り、サィードは自分で「セキュリティシステムを起動しちまえば、この城の……いや、イレイデンの外に出る事も出来ないし中に入る事も出来ねえ」と言っていた。
しかし、そこはサィード曰く地上のイレイデンに出る為の抜け道があるのだと言う。
「心配すんなって。この城にはな、そのセキュリティシステムを考えた上で作られた抜け道って言うのがちゃーんとあるんだからよ」
「抜け道? それってまさか、この城の下に広がっている、あの恐ろしいドラゴンが居る地下の通路の何処かって話じゃないでしょうね?」
そうだとしたら最初から作戦が破綻しているじゃない、とサイカが突っ込みを入れるものの、サィードの顔は至って真剣である。
「ちげーよ。あそことはまた別の場所にちゃんとした通路があるから。そこだけはセキュリティシステムを作動させていようがさせていまいが出入り自由なんだよ」
「出入り自由って言う時点で不安しか感じないな」
「だーっ、もううるせえよ!! とにかくそう言う出入り口があんの!! で、俺達王族だけしか知らねえの!!」
「またそれもバレていました、なんて事になったら本当にシャレにならないんだぞ?」
「わーってら。誰かが侵入した形跡が無いかどうかだけはしっかりチェックすっから心配すんなよ」
それが一番心配なんだけどな、とエルザが更に心の中で突っ込みを入れる。
サィードの話によれば、このイレイデンにディルクがやって来て侵略と言う名の虐殺を展開していた時に、少しでも遠くに彼を逃がすべくそこを通って遠くまで逃げ切ったらしいのだ。
「それはこの寝室から出て、ずーっとこっちに向かった先にある……ここだ」
「こ、ここ?」
「ここってただの倉庫じゃないのか?」
「そうだよ。だからこそ隠し通路なんだよ。だけどここはかなりの仕掛けがあるんだよな。えーっと……ちょっと外に出ていてくれないか?」
城の最上階にある、王族が使う様な質の良い備品が多数収められている小さめの倉庫。
そこに隠し通路があるのだとサィードは豪語するのだが、いきなり「外に出ていてくれ」と言われて戸惑う一行。
「な……何で?」
「んん? そりゃードリスちゃん、その隠し通路の開き方は俺達王族しか分からないんだからそうやすやすと他人に教える訳にはいかないんだよ」
「でも、さっきあのセキュリティシステムを作動させる為の部屋に入る時には、壁の仕掛けを私達に見せてくれたじゃない。それと同じじゃないの?」
先程の壁の仕掛けを目の前で解いた光景を思い出してそう突っ込むドリスに、レウスを始めとする他のメンバーもうんうんと頷く。
だが、サィードにはサィードなりの言い分があるらしい。
「確かにさっきのあれはそうだった。だがそれは、お前達にもセキュリティシステムを起動して貰わなければならない時が来るだろうと思ったからだ。だけどこの抜け道に関しては滅多に使う事が無い。それこそ緊急事態の時以外ではな」
「いや、その緊急事態が今なんでしょ!?」
「……いいや、ベリザッコ城を取り戻したからには後は俺達の方が反撃するだけなんだよ。この抜け道の存在が奴等にバレたらそれだけでピンチになる。幾らでも道が作れちまう」
「ちょ、ちょっと待ってよ。それって何? 私達の事も敵になるんじゃないかって疑っているって言いたい訳?」
「そんな事は言ってねえよ。だけどなぁ、これは俺達王族にしか知らない抜け道なんだ。抜け道を通るのは構わねえが、その抜け道を開く方法まで見せる訳にはいかねえんだよ。そもそも、ここを通って外に出ちまえば後はこの抜け道を開く方法を知らない限り、敵は城の内部に入る事は出来ねえんだ。分かったならさっさと外に出ていろ、ほら!」
「あ、ちょ、ちょっと!?」
随分と無茶苦茶な理論を展開された後、追い出される形で倉庫から出されてしまった一行は倉庫の内側から鍵まで掛けられてしまい、本当に中を覗く事も出来ない状況である。
「何だよ、あいつ……そんなに俺達が信用出来ないのか?」
「もしかしたら抜け道を開く方法って言うのは嘘で、敵と内通していたりして……」
「あり得ない話ではありませんわね。妙にムキになっているのがますます怪しいですわ」
何かをガシャガシャと動かしたり、シュイーンとかドッカーンとかのロクでも無さそうな音が聞こえて来る上に、彼は鍵を開けてくれない状態が続く。
こうなったら思い切って一蹴りで扉をブチ破ってやろうかとレウスが少し下がった時、不意にその扉が内側から開かれた。