435.行方とセキュリティシステム
「待ってくださいレウスさん、確かライオネル様は、私達が生まれ育ったアイクアル王国の更に西にあるエレデラム公国で生涯を終えられた筈ですよ?」
「えっ、そうなのか?」
「そうよ。姉様の言う通りでライオネルのお墓がそっちにもあるわよ。でも貴方の墓みたいに地下の通路があったりとかはしなかった筈よ」
「ライオネルがエレインと出会った後の足取りは分かるか?」
もしかしたらその事も知っているかも、とアークトゥルスは足取りを辿ってみようとしたものの、ヒルトン姉妹は首を横に振った。
「いいえ、私達はエレデラム公国でお見掛けしたそのお墓に描かれていた事しか分かりませんわ。五百年前の伝説の勇者の一人、ライオネルがここに眠る……と」
「そうそう、だからエレインの名前は書いていなかったわよ。だからもしかしたらエレインはライオネルと出会った後にまた一人旅をし始めてどっかに行っちゃったのか、あるいはライオネルがそこで死ぬまで一緒に居て、それから何処かにまた向かったのか……いずれにしてもその後の足取りは不明なのよ。歴史書にも載っていないしね」
「ふーむ、そうか……」
とりあえず現時点ではエレインの足取りは分からないので、アークトゥルスはサィードに向き直って尋ねてみる。
「なぁサィード、イクバルトの町って何処だ?」
「イクバルトだったら、このイレイデンからずーっと北西に向かった場所がそうだ。五百年以上前からずーっとある町だけど、お前は生まれ変わる前に行った事は無かったのか?」
「俺は無い。五百年前の行軍の時も立ち寄ったりしなかったし、そもそも存在すら知らなかった。今の時代に生まれ変わってからはリーフォセリアから出た事無かったんで、やっぱり来た事が無い」
「そうか……じゃあそのイクバルトの町の話だけど、このヴァーンイレスと西の隣国のアイクアルとの国境に一番近い町だ。二番目に西から出るのに近いのは南の方にある別の町なんだけど、そこからアイクアルに入るには砂漠を通らなきゃならねえんだよ。だからアイクアルに向かう予定だったらイクバルトの町を拠点に動いた方が良さそうだぜ」
サィードからのアドバイスもあり、今後はこのイレイデンでは無くそのイクバルトの町を拠点にする事に決めた一行。
しかし、その前にまずはこのイレイデンを完全に取り戻さなければならない。
その為の最大の関門と言えばやはり、イレイデンの下に迷路の様に入り組んで造られているあの地下通路に出没する、透けるドラゴンを倒さなければならないだろう。
「分かった。それじゃ凄く長くなったけど、まずはこの城の守りを固めるんだろう?」
「ああ。ここにあるシステムは親父曰く、他の二つのシステムよりも権限が強くなっているらしい。だから他のシステムよりも優先的に使用出来る様になっているんだ」
「よーし、それならまた役割分担をしよう。ここで誰か一人が残ってシステムを操作して、俺達がそのセキュリティシステムがきちんと作動しているかを見て来るんだ。ただし地下までは面倒見切れないぞ。あのドラゴンにまた襲われでもしたら対処法が無いんだからな」
「そりゃー勿論。地下にもセキュリティがあるにはあるけど、それは確認しなくて良い。あくまでもこのベリザッコ城にあるセキュリティが全て作動していれば、地下からの侵入も防げる筈だからな」
自分達がこうやって地下から城の中に侵入出来たのは、今まで倒して来たあいつ等が自由に出入り出来る様に一旦システムを無効にしておいたからだろう。
だから今こうやってセキュリティを有効にしてしまえば、イレイデンの城下町からの侵入は防げる筈だと考えたアークトゥルス達はさっさと動き出す。
この城の内部事情を一番良く知っているサィードをセキュリティシステムの起動役にしておき、彼から渡されたぐちゃぐちゃの見取り図を手にしながら、各地に分散して行く。
残されたサィードは、セキュリティシステムを起動しながらふとこんな事を考えていた。
(そういや、地下で見かけたあの壁画って一体何だったんだ?)
自分を含めた一行で、イーディクト帝国の旧ウェイスの町の中にある転送陣からここまで一気に移動して来た時に、最初に出た部屋があそこだった。
しかし、自分が子供の頃に遊んでいた時にはあんな壁画なんて見当たらなかったのだ。
(あそこに何かの秘密があるって事なのか? 親父は特にそれらしい事は言っていなかったけど、地下が古代遺跡になっているこの城の成り立ちを考えれば絶対に何かある筈だぜ……)
いずれ、それを調べる時が来るだろう。
実際にカシュラーゼのディルクが探りを入れていたらしいので、調べてみる価値は十分にありそうなのだが、その為にはあのドラゴンの処理を含めた色々な事を終わらせないといけない。
もしかしたらあのドラゴンは、カシュラーゼの連中が部外者に古代遺跡の調査をさせない様にする為のトラップとしてあそこに仕掛けているのかも知れない……とサィードは思っていた。
(まぁ、どっちにしてもどうにかして倒さなきゃならねえ存在だぜ。俺の国を荒らし回る奴は許さねえ。誰であっても、何であってもな!!)