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40.感謝の気持ち

 レウスとエルザは中庭に墜落したドラゴンを見に行こうとしたのだが、そこには既にレウスの吹き鳴らした警笛の音と、ドラゴンによって体当たりされた学院への衝撃で外に出てきた学生達や職員の姿が沢山あった。

 そしてそのドラゴンの死骸は、セバクターによって呼び出された王国騎士団員達の集団によってテキパキと回収され、騎士団の本部に併設されている魔術研究所へと運び込まれて解剖されるとの事だった。

 この一連のドラゴン襲撃の展開を経て、既に夕方になってしまった王都カルヴィスでは、人々が段々と家路につき始める。


 だが、レウスとエルザがつく事になったのは家路では無く、医務室への道のりであった。

 あの大きなドラゴンと戦った上に、レウスはエルザをかばって背中に傷まで負っているので医務室での治療が必要だ、とアレットを始めとする魔術が得意な生徒や学院の教官達に判断され、大人しくその指示に従って治療を受けさせて貰う流れになったのだ。



 ◇



「……特に何とも無いわ。ここまで綺麗に傷跡も無くなっちゃう様な回復魔術なんて、それこそ王国魔術師のかなりのベテランの方とかしか知らないわね……」


 レウスの背中がドラゴンの爪に抉られたと聞いたアレットが、医務室で彼の背中を見て驚きの声を上げていた。

 彼にとっては前世で習得した魔術を使ったに過ぎないのだが、それ程までに高いレベルだったとは思いもよらなかった。

 ドラゴン討伐の為にレウス……いや、アークトゥルス達は過酷な旅路を乗り越え、その度にそれぞれが技を磨いてレベルアップして来たのだ。

 アークトゥルス時代の事を再び回想しながら、とりあえずの応急処置として薬を塗って貰っている。

 その感心しながら関心を寄せているアレットの横で、同じく医務室で念の為に検査を受けているエルザがこんな質問を。


「そう言えば噂で聞いたんだが、貴様は余り魔術が使えないって自分で言っていたらしいな。だが……あの訓練場で見た数々の魔術と、それから屋上でドラゴンを仕留める為に使ったあの魔術を見る限り、とても魔術が使えないとは思えない。正直、貴様の言う事は信用ならん。それ程までの魔術が使えるのは、貴様は普通の人間だとは考えられないぞ、レウス?」


 鋭い目つきでそう言うエルザに対し、アークトゥルス……いやレウスは何処か遠くを見つめる眼差しで呟いた。


「俺は嘘は言ってない……周りの人間からしてみれば、俺は使えない部類の人間だったのさ」

「どう言う意味だ、それは?」

「そのままの意味だよ。俺の身の回りには、もっと高度な魔術を使える奴が何人も居たんだそれを考えれば、俺は使えない側の人間だった。それはそうとエルザの怪我はどうなんだ?」

「私は特に問題無い。……まさか、貴様に守られるとは思っていなかったがな」

「え、それって何の話?」


 エルザが呟いたセリフに、耳ざとくアレットが反応した。

 そんな彼女の反応を見て、エルザは情けないやら恥ずかしいやら嬉しいやらでグチャグチャになった感情を吐き出す。


「どっ、ドラゴンから守ってくれたんだよ……この男が私をドラゴンの体当たりから庇ってくれて、そしてその時に背中に傷を受けたんだ!!」

「それで背中をやたら気にしていたのね。でもそれならそうと早く言ってくれれば良かったのに」

「言えなかったんだよ……仮にも学院主席の私が、編入生の、しかも年下の男に守られたなんて言えるかっ!!」


 着込んでいるコートと同じ位に顔を真っ赤にして、心底恥ずかしそうにエルザが自分の心情を吐露する。

 それでも感謝の気持ちは忘れていなかったらしく、恥ずかしさはそのままに彼女は礼を述べた。


「た、助けてくれて……ありがとう……」

「……何か、凄く嫌々言ってないか?」

「は、恥ずかしいんだと言っているだろうがっ……気付け馬鹿っ!!」


 医務室の中に響いたエルザのその声に呼応するかの様に、その時ガチャリと出入り口の扉が開いた。


「何騒いでんだよお前等よぉ……」

「あ、エドガー叔父さん!!」

「学院長、どうしてここに!?」

「いや、学院のトップなんだからここに居るのは当たり前だろ。……ってそうじゃねえ。お前達に大事な話を伝えに来たんだよ」

「大事な話ですか?」


 アレットが尋ねると、エドガーは真剣な顔つきで頷いた。


「そうだ。この学院に侵入したあのドラゴンは、ドラゴンじゃなかったんだ」

「……はい?」


 医務室の中の空気が固まったのが、レウスを始めとした全員に分かった。

 明らかに矛盾した発言である。


「いや、あの、ちょっと何言ってるか分からないです」

「だから、ドラゴンの姿をしてはいるけど、その中身はドラゴンじゃなかったんだっつの。そのままの意味だよ」

「んー……もっと詳しく教えてくれるかしら、叔父さん?」

「ああ、俺はそのつもりでお前達を呼びに来たんだ。回復は終わったのか?」

「ええ。俺もエルザももう大丈夫です」

「そうか。だったら俺と一緒に騎士団の本部に来てくれ。そこでギルベルト騎士団長と一緒に詳しく説明するから」

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