426.スイスイ
「え?」
「ですから、何故貴方がこの広いお城の構造を知っている様な動きが出来るのかが、私には不思議で仕方が無いのですよ」
ティーナのその指摘に、そう言えば……とレウスも続く。
「それは確かに変だな。だってほら、前にもジェラルド陛下との会話でサィードの情報網に俺とニーヴァスとジェラルドとフォンの全員で首を傾げてたからさ」
そう言うレウスの頭の中には、ジェラルドの目の前で繰り広げられたサィードへの不信感の会話が思い出されていた。
『それは……サィードから気になる話を聞いたからだ』
『サィード?』
『私が陛下の代わりに説明しよう。サィードが話した情報によれば、その昔この陛下の先祖であるガラハッド様がエレイン様を殺して、南のアークトゥルスの墓に埋めたって話を前に聞いた事があるらしい』
『え……それって前に何か似た様な話を聞いた事があるんだけど、俺……』
『そうか、サィードがな……』
『あんなにムキになるなんて何だか変だなって思ったんだけど、その時はドラゴン討伐の事で頭が一杯だったから気にする余裕が無かったんだ。だけど今こうして改めて考えてみると、ただの一端の傭兵であるあいつが何で、今さっきジェラルドが話していたそんな事を知っているのか……かなり不思議じゃないか?』
『そうだな……不思議と言うよりも、不自然だな』
『それってジェラルドは誰から聞いたんだ?』
『俺は……誰からって訳じゃねえ。今回の爆発は城の地下の書物庫までやられたんだが、そこの後始末をしている時に隠し書庫みたいなのが壁が崩れて出て来て、その中で新しく見つけた歴史書の中に書いてあったんだよ。死ぬ間際にガラハッドが残した告白本ってタイトルで出て来たんだが、国民に発表するには余りにもショッキング過ぎてどうするか迷ってんだよ。でも、その内容を何であいつが知っているのか俺だって知りてえ』
その回想を思い出したレウスが、サィードの目をジッと見つめて口を開いた。
「サィード」
「な……何だよ?」
「俺の墓の下にエレインが殺されて埋められたと言う噂とか、それからこうやってスイスイ城の中を歩き回ったりとか、色々と妙だと思うんだよなぁ……お前の行動がさ」
だが、サィードは落ち着いて返答する。
「別におかしくねえだろ。だってさぁ、俺は城で働いていたんだぜ? その俺がどうして怪しいんだよ?」
「城で働いていたのか?」
「そうだよ。ほら……前にも言ったろ。俺の親父は騎士団員であの黒髪の魔術師ディルクの顔を見た事があるって。騎士団員ってのは少なからず城に出入りするから、俺もその関係で城の中を見物させて貰った事があったんだよ」
「ふぅん……」
「な、何だよその目は?」
「別に。それなら城の中を知っていても不自然では無いと思うんだが、それにしては知り過ぎていやしないか?」
まだ追及の手を緩めようとしないレウスが、ジッとサィードの顔を見つめながらそう問えば、段々サィードの目が泳ぎ始めた。
「知り過ぎているって?」
「ああ。さっき俺達がドラゴンに追い回されていた地下通路の道を選んだのはお前だった。それも迷わず中庭まで誘導していた。王都中にあの地下通路が張り巡らされているのは分かるとしても、普通は警備の人間や獣人が立っていないとおかしいだろう」
「それは……」
「それにだ。幾らあの地下通路が子供の遊び場だったとしても、セキュリティ上の問題で中庭に繋がる道が封鎖されていない方が不自然だ。お前はさっき自分で言っていたじゃないか。この地下通路に魔物や盗賊が住み着く様になって、出入りが制限される様になったって。それだったら尚の事、こんな城の中に続く様な道を詳しく知っている筈が無い。幾らそれが騎士団の関係者だったとしても、ホイホイ外部の人間や獣人を城の中庭に入れるなんて、それこそ自分からどうぞ侵入して下さいって言っている様なものだからな」
レウスの長台詞での追及に対し、サィードは気まずそうな顔をした後に踵を返した。
そのまま足を進ませ始めるサィードの背中に、レウスは棘のある声を掛ける。
「どうした、何かやましい事でもあるのか?」
「そんなんじゃねえ。とりあえず今は先に進むぞ。いずれ分かる事だからよ」
「……?」
サィードの考えがやっぱり良く掴めない。
子供の遊び場で地下通路の構造を知っているのは分かるし、騎士団員達の訓練場の場所を知っているのは見学で見に来たかも知れない。謁見の間の場所を知っているのは何時か彼が騎士団に入ると想定して同じく見学の時に見せられたから知っているのだろうか。
しかしその理由は分かるとしても、流石に騎士団員の子供だからと言って、国王の執務室の場所まで知っているのは不自然である。国王は騎士団員が忠誠を誓う存在だからこそ、身の回りを警護する為に居るのだから自分の子供でも迂闊に近づけられない。
(国王に近づける時って言ったら、それこそ戦いに勝利した上での凱旋パレードの時に目の前を通るのを見るとか、何かの催し物の際に招かれるとか位だからな。この城が一般公開されているならそれは分かるが、サィードはそんな事は一言も言っていなかった。だから普通の国民が内部構造をそこまで詳しく知っている訳が無いんだ……)