425.揉めてんの? 揉めてんのか?
「良し、こっちはもう大丈夫ね」
「こっちも片付きましたわ」
サイカとティーナがお互いの担当区画のクリアを確認し、ベリザッコ城の中を確実に進軍して行くレウス達。
やはりこの城の中も占領されてしまっているらしいのだが、サィードからの情報によれば占領している国同士で色々と揉め事が起こっているらしいのだ。
占拠したカシュラーゼが「自分達が筆頭に立っていたのだから、この城は自分達のものだ」と主張し始めたのだが、それにイーディクトやソルイール、それからアイクアルが反発して「その城の一部の所有権は自分達にもある」と主張して対立しているとの報告を受けたらしい。
「ただでさえカシュラーゼの連中はあの魔術師を筆頭として強引に物事を進めているから、このヴァーンイレスに攻め込む時に同盟を組んでいた他の戦争参加国からも、城の占有権を巡って嫌われているらしい」
「それで、今でもこの城の中の戦力にばらつきがあるんだな?」
サィードが冒険者生活の中で仕入れた話を聞き、ソランジュが確認する。
とは言うものの各国はそれぞれ表向きにはその態度を出さない様にしている為、かつてイーディクト帝国でヴァーンイレスの事について話題になった時に、シャロットはそれに対して何も言っていなかったのを思い出すレウス。
「まぁ、結束がバラバラで纏まりが無いんだったら攻め込むこっちとしてはありがたい。纏まりの無い部隊は脆いからな」
「ああ。それも大部隊であればある程、その末端まではなかなか命令が届き難いから上の状況がどうなっているのか分かり難い。まして上が揉めているんだったら尚更だ。この場合は貴様の言う通り纏まりが無い分、上を潰してしまえば下はバラバラになるだろうからな」
マウデル騎士学院で習った知識だけしか無いものの、理論としては合っているエルザ。
上を潰す事によって統率力が無くなれば崩壊までは本当に早くなるのだから、この総本山であるベリザッコ城を制圧してしまえばその可能性は高くなる。
だが、やはり気になるのは地下のあのドラゴンだ。
「あのドラゴンってここの連中は知っているのだろうか?」
「知っていなければおかしいだろう。そもそも最初にイーディクトの旧ウェイスの町からここの地下に来た時にあの魔術師がここに居たんだから、それを知らないと言うのは余りにも変だと思うし」
「それもそうだな」
エルザはレウスの主張に納得するが、それを横で聞いていたドリスがもう一つの可能性を口に出す。
「でもちょっと待ってよ。ここに来るまでに色々と話を聞いていたけど、あの魔術師が率いているカシュラーゼの生み出した生物兵器の内の一匹だって言うのは考えられないかしら?」
「あ……!?」
「だってほら、全部でその生物兵器って十匹居るのよね? それで今まで倒したのがリーフォセリアで一匹、イーディクトで一匹、そしてこの前のエスヴァリークで一匹。そしてどれもこれも生物兵器だから普通のドラゴンと違うってなれば、一番しっくり来る理由だと思うんだけど……」
「そうか……それにここはカシュラーゼが筆頭になって攻め込んだ国だからな!」
ドリスにそう指摘され、自分達の発想力の乏しさに自己嫌悪するレウスとエルザ。
そう考えれば確かにしっくり来るし、あの魔術師の事だからあんな反則級のレベルのドラゴンを生み出すのも分かる。
十匹生み出したのも色々なタイプのドラゴンを生み出して実験をする為だと言えば合点が行くのだが、それを考えるとエスヴァリークで戦った魔術が効かないドラゴンよりも厄介かも知れない。
「ちょっと待ってくれ、そうなるとあのドラゴンは物理攻撃も魔術も効かないのではないか?」
「かもね。実際に攻撃する前にあのドラゴンの異常性に気が付いて逃げたからそれが本当かどうか分からないけど、追い掛け回されている時にドアも壁もすり抜けて来ていたんだから確かにソランジュの言う通りかも知れないわね」
道なりに追い掛けて来ていたとは言え、身体の一部が透けていてドアも壁も意味を成していなかったあのドラゴンの当たり判定は、今でも一行の脳裏に強く焼き付いている。
そのドラゴンへの対処法を何とか見つけられれば勝機はあるのかも知れないが、それがあるとしたらこのベリザッコ城の中しか無いだろう。
「この大きな城の中の何処かにきっと対処法がある筈なんだが……ここを知っているのはサィードしか居ないのか?」
「んあ、俺?」
「そうだよ。だってお前は自分で言っていただろう。ここから先は俺が案内するって。だから俺達はこうしてお前に着いて来たんだよ」
「ああ……そうだな。とにかく先を進もう。何処に誰が居るか分からないが、問題はこの城を占拠している全ての元凶の居場所だな……」
その元凶を倒すべく再び進み始める一行の目の前に、再びわらわらと敵が現われ始める。それを今までの経験と培って来た実力で倒しつつ、城の中を進軍する一行。
「ええっと、次はこっちだな。こっちに行けば謁見の間があって、向こうが国王の執務室で……それから向こうに行けば騎士団員達の訓練場があって……」
ブツブツと呟きながら指差し確認をしてルートを決めるサィードだが、その様子を傍らで見ていたティーナが突っ込みを入れる。
「あの……サィードさん」
「何だ?」
「どうしてそんなにスイスイとこの広いお城の中を回れるのですか? さっきから進む時に足取りに迷いが見られないんですよね」