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423.反則だろぉ!?

 一匹だけ、レウスの広範囲の攻撃魔術に耐え切ったドラゴン。

 この狭い通路の中にどうやって入って来たのかも分からないのだが、明らかに敵意剥き出しで唸り声を上げるその姿に一行は武器を構える。

 だが、そのドラゴンの違和感に最初に気が付いたのはソランジュとティーナだった。


「な、何だあいつ?」

「透けていませんか? 身体……」


 今まで自分達が見て来たドラゴンとは、まるで違う。

 通路の両側に等間隔に吊るされている、魔力を使って青白く通路を照らしているランプの光がそのドラゴンの体を照らし出しているのだが、明らかにそのドラゴンの身体の向こうが透けて見えているのだ。

 それを彼女達に指摘されて他のメンバーも気が付いた。


「このドラゴン……普通じゃないわよ!?」

「くそ……こ、ここは一旦引き返して、さっきの道の別のルートから地上に向かうぞ!! だけど背中は向けるな。逃げ出そうとしたらこいつが一気に襲い掛かって来る可能性があるからな……!」


 ドリスの一言で我に返ったサィードが、違う道を知っているのでそちらの方に全員を案内するべく後ずさりをする。

 下手に背中を見せて逃げる意思を見せてしまったら、それだけで襲われる可能性がある以上迂闊な行動は取れない。今まで対処をした経験がある魔物だったらこの八人掛かりでさっさと倒す所なのだが、相手がドラゴンでしかも通路の向こう側が透けて見えている時点で普通では無い。

 なので、ここは退避するのが最善だろうと判断したサィードが少しずつ後ずさりを始めて、他のメンバーもそれに従ってドラゴンから距離を取る。

 そしてある程度距離を取った所で一気に駆け出しつつ、さっきのドアを閉めてしまえばこの狭い通路で満足に動けないドラゴンは追って来られないだろうと考えていたのだが、その認識が大きな間違いだったと気付かされるのはすぐの事だった。


「カウントゼロで走り始めるぞ、良いな?」

「う……うん」

「そして全員俺の後に着いて来い。最後の奴はドアを閉めてくれ」

「じゃあそれは俺がやろう」


 不安そうなアレットは足が余り速くないので、いざとなれば自分が抱きかかえてでも一緒に走ろうと考えているレウスが最後尾でドアを閉める役を買って出た。

 その様子を振り返って見て、サィードの声でカウントダウンが開始される。


「行くぞ。五、四、三、二、一……良し、走れっ!」

「行け行け行けっ!!」


 カウントダウンが終わると同時にサィード先頭で全員が駆け出し、レウスが急げと促しつつ自分も最後尾からその走り出した一行を追い掛け始める。

 それと同時に後ろからドシンドシンと重苦しい足音が聞こえ始めたので、得体の知れないドラゴンが自分達を追い掛け始めたのは振り返らなくても気配と音で分かった。

 だが、それも目の前に見えるドアの向こう側へと飛び込んでしまえば終わりだ。

 そう思っていたのに、後ろから追いかけて来る黒いドラゴンはその予想を覆して来たのだ。


「こっちだ、走れっ!!」

「閉めるぞ!!」


 自分が最後に出たのを確認し、レウスがバタンとドアを閉めてサィード達の後に続いて再び走る。

 しかし、そのレウスが振り返って見たものは信じられない光景だった。


「なななななななななっ!?」

「えっ、何です?」

「あああいつ、すり抜けて来たぞぉ!?」

「え……うわああああああああっ!?」


 レウスの前、つまり集団の最後尾から一つ手前を走っていたティーナがレウスの焦った声を聞いて、その焦りの内容に半信半疑ながらも振り返ってみる。

 するとドアを閉めた筈のあの通路からドラゴンが、何とドアをすり抜けて追いかけて来ようとしているではないか!!

 ありえない。ドアをすり抜けて来る事が出来るなんて、そんな事がある訳が無い!!


「あ、あれはバケモンだ!! うわっ、壁まですり抜けているぞ!!」

「ええええええっ!?」


 パーティーメンバーの中で、普段は冷静なタイプに属しているレウスの余りにもパニック状態に陥っているその声を聞き、一層走るスピードを上げる一行。

 幸いにもドラゴンのスピードがそこまで速くないので距離は開いているものの、ドアに留まらず壁まですり抜けて来るその異様さは、今の自分達が到底敵う相手では無さそうだと確信。

 目標の後を追い掛けて来る性質のせいか、一直線に壁をすり抜けてまで追いかけて来ないのもこれまた不幸中の幸いだった。


「はぁ、はぁ、はぁ……あんなの反則だろぉ!?」

「無駄口叩いてないで走りなさいよ!!」


 ソランジュをサイカが叱り付けたその時、サィードが希望の一言を先頭で口に出した。


「お前等、もうちょっとで出口だから頑張れっ!!」

「後どれ位なの!?」

「この突き当たりを右に曲がって、それから二つ目の角を左に曲がった先に階段がある! その階段の上にベリザッコ城の中庭に続くドアがあるんだよ!!」

「そっ、そうか!!」


 その道案内に一行は最後の力を振り絞って、息を切らせつつ走り回る。

 あのドラゴンが何者なのかは無事に脱出してからじっくりと考えれば良いだろうから、まずこの地下通路を脱出すれば何とかなる!!

 そう考えていた一行の思惑は、予想と違った形で裏切られる結果になってしまうのだった。

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