421.見覚えありの地下通路
ハルバードを構え、気合いを入れてドアの前に立った彼は自分の武器に魔力を込める。
そしてある程度まで攻撃力を高め、ドアに向かってハルバードを振り下ろした。
「ふぅぅぅぅぅ……はああああっ!!」
「うっ……!?」
叫び声とともに振り下ろされたハルバードが風を切り裂き、ドアに向かって叩き付けられた。
彼が狙ったのはドアの付け根の金属部分。ドアノブがだめならその逆側のドアの開閉を担っている部分を壊せば良いじゃないかと言う結論に達した彼は、そうしてドアを破って先へ進む道を文字通り切り開いた。
「ほーら、これで通れるぜ」
「あー、逆転の発想だな」
(果たしてそうなのか……?)
満足げに微笑むサィードとその結果に感心するエルザに対し、レウスはちょっと違うんじゃないかと首を捻るしか無かった。
しかし、結果は何にしてもこうして先に進める様になったのだから良いじゃないかと自分を納得させたレウスは、再び一行を率いてドアの先へと足を進める。
……筈だったのだが、ここでサィードがまたレウス達の前に出て来た。
「よっしゃ、それじゃあここから先は俺が案内するぜ」
「出来るのか?」
「ああ、ここに来る前も言っただろ? 俺はその地下通路に心当たりがあるって。そしてそれはここの地下通路を一目見て確信したぜ。ここは間違いねえ……ヴァーンイレスの王都イレイデンの地下にある通路だ」
迷い無くそう言い切るサィードだが、何故それが分かるのかをもっと突っ込んで説明して貰わなければレウスやエルザ達としては納得出来ないのが実情だ。
「何処でそれが分かったんだ?」
「え? そりゃあほら、さっきの壁画の部屋だよ。俺、あそこに見覚えがあるからさ」
「ここに来た事があるのか?」
「ああ、あるぜー。そもそもここはこのイレイデンに住んでいるガキ共の遊び場になっていたからな。だけど魔物や盗賊が地下を根城にする様になってからは遊び場として使えなくなっちまってよ」
「……あれ? サィードってここの出身なの?」
「ああ、そうだ。俺は王都イレイデンの出身だよ」
となれば、その被害はかなり甚大だった事が伺える。
何しろ彼は以前、イーディクト帝国のシャロットを含む自分達に対してこんな事を言っていたからだとアレットは思い出していた。
『俺の親父から聞いたんですよ。俺のお袋とか親戚とか、友達とか……国が滅んだのは、カシュラーゼに加担していた黒い長髪の若い魔術師のせいだってね。そいつは幾つかは知らないですけど、かなり若い奴だって言ってました。王国騎士団に所属していた親父は、戦場でそいつの姿を見た事があるらしいんです。限界まで近づけた時に見たその顔つきからすると、恐らく十代後半から二十代前半だったって話ですけどね』
王都出身の家族が全員滅んだとなれば、命からがら逃げだした彼の苦しみと悲しみは相当なものだったに違いない。
それでも飄々と振舞っているのは、恐らくその辛い過去を隠して生きようとする彼の決意の表れなのかも知れない。
(でも、だからと言って風呂場を覗こうとするのはどうかと思うけどね……)
セバクターの屋敷で下着や持ち物を漁ったり、風呂場を覗こうとしていた彼の悪行を未だに根に持っているアレットは、その彼に対して完全に同情する気にはなれなかった。
その彼がこう言う形で生まれ故郷に戻って来たのであれば、彼の為にもこのヴァーンイレスを取り戻す為に協力するべきなのかも知れないと考えているアレット。
どうせカシュラーゼとは完全に敵対関係になってしまっているのだし、こっちからカシュラーゼに攻撃を仕掛ける立場になっても別に状況は変わらないと思っている。
口には出さないものの、心の中で新たな戦いに向けての覚悟をしているアレットを始めとする他のメンバーに向かってサィードが手招きをする。
「だから着いて来いよ。ここから先は俺が案内すっからさ」
「セバクターと同じ様なセリフだな」
「それしか言えねえよ。ほら、無駄話してる時間なんか無えぞ。さっさと行くぜ」
ソランジュに突っ込まれてそう返答するサィードを先頭に、地下通路の進軍が始まる。
彼が自分で言っていた通り、この地下通路には魔物や盗賊が住み着いてしまっているらしいので用心しながら進まなければならない。
以前、ソルイール帝国の帝都ランダリルでも地下通路を通って逃げ出した事があったのを思い出すレウスだが、その時は水路を通って何とか脱出に成功した。
(けど、今回は水路じゃなくてまるで迷路だな……)
一体何の為にこんな地下通路を造ったんだと思いつつ、それを率直に目の前の背中しか見えない状態のサィードに尋ねてみる。
すると、予想だにしなかった答えが返って来たのだ。
「ここか? ここは元々古代の遺跡として発掘された場所なんだよ」
「遺跡だと?」
「ああ。この遺跡が発掘されたのはそれこそ三百年前。だけど未だに解明出来ていない謎が多くてさ。あの壁画だって誰が何の為に描いたのかすら分からねえし。……ってか、五百年以上前の記憶があるんだったらお前の方が何か知ってんじゃねえのか、アークトゥルスさんよぉ?」




