418.テレパシーは続くよ
こうしてレウス達がセバクターと別れて隣国ヴァーンイレスに向かう事になったその頃、一行を見送りに来ていたペーテル……いや、エンヴィルークは例のテレパシーで再びレアナと会話を開始した。
このテレパシーは、直接口で声を出さなくても頭の中で思っている事を「伝えたい」と思っただけで、相手にその考えが伝わる便利なものである。
レアナはその特殊能力について、五歳の時からうすうす自分が他の人間や獣人にテレパシーを送れる事に気が付いていた。
しかし、その能力は他の人間には見られない特殊なものであった為に気味悪がられる事が多かった。なので色々と異端な能力であると悟った彼女は、王宮医師や周りの人々の勧めもあってその能力を今まで隠して生きて来た。
なのに現在幽閉されている自分の元に突然、それも「外部の何処かから」送られて来たテレパシーに驚くのは当たり前だったのである。
『あの時はびっくりしましたよ。まさか私以外にもテレパシーが使える方がいらっしゃるなんて……』
「確かにそれはそうだろうな。だが、今はそんな事よりも連絡が先だろう」
『そうですね。それでその……例のアークトゥルスの生まれ変わりの方達はどうなさったのですか?』
「それがちょっとややこしい事になった。まず、セバクターの奴がな……」
エンヴィルークからセバクターがパーティーから抜ける事や、レアナの連絡通りにレウス達がヴァーンイレス王国に向かう事が決定したのをレアナに伝えると、彼女はホッとした声を出した。
『そうですか……それはひとまずヴァーンイレスへ向かわせる事は出来た訳ですね』
「ああ。カシュラーゼの連中に先を越される訳にはいかないからな。エヴィル・ワンが出て来た時には俺様とアンフェレイアが直々に地上に降り立って奴を消し去ろうと思ったのだが、その前にあのアークトゥルス達が奴を討伐したから、結局俺様達の出番は無かったんだ」
『そうだったんですね。ですが、今回はそのエヴィル・ワンの復活を企んでいる人物達が居ると言う事で、もしかしたらエンヴィルーク様達の出番がある可能性も……』
「無きにしも非ず、だな」
五百年前に討伐されたエヴィル・ワンの復活が実現する様な事が、仮にこの先の未来であったとしたら。
その時は本当に自分とアンフェレイアが出動する事態になるのかも知れないが、その事態を回避する為にも今はレウス達が頑張って動いてくれているので、今はその五百年前の勇者の生まれ変わりに任せるしか無いであろう。
そのレウス達が活躍してくれる事を願いながら、エンヴィルークは最初にレアナにテレパシーを送った時の彼女の反応を思い出していた。
最初に描いたあの魔法陣からレアナの位置を割り出し、彼女に向かって最初は優しく問い掛けたのだ。
「レアナ……レアナ」
『っ!?』
「怖がらなくても良い。俺様は今、テレパシーを使ってお前の脳内に直接語り掛けている」
『だ、誰ですか!?』
レアナが魔法陣の向こうであたふたし始めたのが分かったので、まずは彼女を落ち着かせる。
こう言う反応をされるだろうなと言うのはエンヴィルークにとっても想定内の事だったので、彼自身は慌てる事をせずにレアナに話し掛け続ける。
「静かに。そして落ち着くんだ。俺様の名前はエンヴィルーク。このエンヴィルーク・アンフェレイアの神の片割れだ」
『……はい?』
「信じられないかも知れないだろうが、良く聞いてくれ。俺様は今、こうしてお前の頭の中に直接話し掛けている。まずは集中して、俺様の声に耳を傾けるんだ」
『え、あ……ええと……え……こ、こうですか?』
「そうだ。今度は口を動かさずに、頭の中だけで会話をしてみろ。最初は戸惑うかも知れないがすぐに慣れる」
『う……え……こうですかね……』
エンヴィルークには魔法陣の向こうに居るレアナの声だけしか聞こえないので、雰囲気と声のトーンだけを頼りにレアナの様子を探り続ける。
「出来たか?」
『は、はい……何とか。でも貴方がエンヴィルーク様だって言う証拠はありますか? 神の名前を語ってよからぬ事を考えるのは罪に問われる場合もあるのですよ?』
「証拠は無い」
『無いのに私にこうしてテレパシーを送っているのですか?』
証拠なんてある訳が無いとキッパリ言い切ったエンヴィルークに対して、魔法陣の向こう側のレアナが呆れた声を出すのが分かる。
だが、テレパシーを送れる存在なんてこれまで見た事も聞いた事も無いだろうし、レアナのその能力に関してもエンヴィルークはペーテルの姿の時に噂でしか聞いた事が無いレベルだったので、彼にしても半信半疑だったのだ。
そこで証拠になるかどうかは怪しいが、彼女が今何処に居るのかと言う事や、一体彼女がどうしてそんな幽閉状態になってしまったのかを知っているのを伝えた。
その上で、テレパシーが使える存在なんてそれこそお前か神しか居ないだろう? と畳みかけてみれば、彼女はエンヴィルークと同じく半信半疑ながらもその事実を受け入れるしか無かった。
こうして人間と神の繋がりが脳内で出来上がった今では、わざわざ魔法陣を使わずともテレパシーを好きな時に送れる様になったのである。