416.帰還、そして……
このレアナのテレパシーによって、自分達が次に目指すべき場所が分かった。
カシュラーゼに入れないのなら、ヴァーンイレスを狙っていると言うそのカシュラーゼの連中より先回りをして、地下通路で波動を感じるとディルクが言っていた情報を頼りにエヴィル・ワンの身体の欠片を見つけて回収するのだ。
だが、その前にまずはユディソスのフィランダー城に居るジェラルドの元へと帰還して、自分達がアークトゥルスの墓で何をしていたのか、そしてこれから何処で何をするのかを伝えに行かなければならない。
そうと決まれば、あの赤毛の二人を始めとするカシュラーゼの連中が動き出さない内にヴァーンイレス王国に向かうべきだと考えた一行は、さっさとユディソスに帰還する事にしたのである。
◇
「そうか、お前達はカシュラーゼに向かう準備の為にヴァーンイレスに行くのか」
「ああ。カシュラーゼの連中も本格的に動いている様だから、俺達しか止められないらしい」
フィランダー城のジェラルドの目の前でアークトゥルスの墓で起こった話や、レアナのテレパシーの話と言った一連の流れを話したレウス達は、いよいよヴァーンイレスに向かうべく動き出そうとしていたのだが、ここでまさかの要請……いや、命令がジェラルドからあるとは思ってもみなかった。
「それは分かった。だったらヴァーンイレスに向かう為に通行証を発行しよう。それから国境近くの町まで転送陣も用意するから、急いで向かえ」
「ああ、助かるよ。前に一度、俺達がヴァーンイレスの地下らしき場所に転移した時があったんだけど……その時にそれらしい地下通路に出たんだ。そこであの魔術師のディルクと出会った。ディルクはそこで何かをしようとしていたみたいだったけど、そうか……あいつはエヴィル・ワンの身体の欠片をそこで探していたんだな」
「だと思う。だがあいつはその時にそれを見つけられなかった。恐らくその時は壁画がどーのこーのって言ってたから、その謎でも解いたのかと思う。何にせよ、俺達はその地下通路を見つけて身体の欠片を回収しに行かなければならないんだが……ジェラルドは何か知らないか?」
自分の仇の子孫でもある現在のエスヴァリークの皇帝なら、何か知っているかも知れない。
そう考えたレウスだったが、ジェラルドは首を横に振った。
「いいや、俺は知らねえな。エスヴァリークがヴァーンイレスに攻め込もうと思っていた矢先にそのカシュラーゼによって潰されちまった時も、そんな地下通路の話は送り込んでいた密偵から聞いた事も無かったから、真面目に何も知らねえよ」
「そうか……分かった。それじゃ俺達はもうヴァーンイレスに行かなきゃならねえから、これで失礼するよ。ここに戻って来た時に見せた、エレインの手紙に書いてあった通りに……あんたの先祖のガラハッドの奴が企んでいたのと同じ、エヴィル・ワンの復活をさせる訳にはいかないからな」
そのガラハッドのかつての仲間であるレウスからそう言われ、ガラハッドの子孫であるジェラルドは気まずい表情になる。
「ああ。それについては俺も自分の先祖ながら情けねえって思ってるよ。エレインに暴力をふるったり、身体の欠片を見つけられて口封じの為だか逆切れだかで殺そうとしたり、人としてやっちゃいけねえ事をやってたんだからよ。しかも俺にその血が流れてるって思うと、本当におかしくなっちまいそうになるぜ」
だが、レウス達がヴァーンイレスに向かうにあたってそのジェラルドから一つだけ命令があるのだと言う。一体それは何なのかと首を捻るレウス達だが、それは驚くべき内容だった。
「命令って何だよ?」
「俺からの命令ってのはな……セバクターだけここに残って俺に仕えろって事だよ」
「……は?」
執務室のデスクに右肘で頬杖を突いたまま、真顔で命令を下すジェラルドにレウス達の表情が固まる。
特に、指名されたセバクターの表情は一層強く固まっていた。
だがその命令の意味をジェラルドから直接聞かなければ納得出来ないセバクターは、固まったままなかなか元に戻ろうとしない表情のまま、レウスの斜め前に出てジェラルドに問い掛ける。
「何故……とお聞きしてもよろしいでしょうか、陛下」
「それは単純だよ。潜入捜査とは言え、お前もカシュラーゼと関わりがあった人間だからだ。それにここはお前の地元でもあるからな。色々と地元の事を知っている人間で、しかも傭兵として世界中で戦って来た上に城下町で仲間も大勢居るんだから、俺に仕えて色々と復興作業を手伝ってくれや。そもそも、お前が魔晶石を大量にアイクアルから輸入さえしなけりゃあ、こんな事にはならなかったんだからな」
椅子から立ち上がり、執務室の後ろにある窓の外を覗くジェラルド。
そして、彼は若干寂しそうに言う。
「俺の先祖が……そこに居るアークトゥルスの仲間だったガラハッドの奴がクズだったってのは、良ーく分かった。でもよ、そんな奴でも一国の皇帝としてここまで国を大きくしたんだ。そして代々、この国を俺が守って来た。だから俺も今の皇帝として、この国を守る義務があるんだ」
「陛下……」
「それにな、アークトゥルス。俺達は城下町と城の復興がある程度まで進んだら軍を編成して、カシュラーゼに殴り込みを掛ける。セバクターが原因の一つでもあるんだが、ここまで爆破した張本人はそのカシュラーゼの関係者連中ばっかだからよ。だから俺は、こいつをここで監視しつつ復興作業を手伝って貰う。そう決めたんだ」
どうやら、この皇帝の命令は断れないらしい。
セバクターがこうしてレウス達のパーティーから抜ける事になり、残った六人でヴァーンイレスへと向かう事が決定した瞬間だった。
七章 完
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感謝感謝です。
第七章も終わり、折り返し地点を過ぎて次回からは八章突入です。
これからもどうぞよろしくお願い致します。