415.警告
そう言えば何処となく小声で喋っている様な気がするレアナの声に、一行は注意深く耳を傾ける。
すると彼女は、一行がこれから向かおうとしているカシュラーゼの計画を暴露し始めたのだ!
「分かりました。それでは手早くお願いします」
『はい。まず皆さんはこれからどちらに向かわれる予定ですか?』
「俺達はカシュラーゼに向かいます。あの赤毛の二人が、茶髪で背の高い女と一緒にアークトゥルスの墓の下から見つけたエヴィル・ワンの身体の欠片を持って、ワイバーンで逃げてしまったんです。ですから俺達はそれを追おうと決めたんです」
『……そうですか、ちょっと遅かったですか……』
「え?」
この質問に対しての返答にしては何だか不自然である。
その意味はどう言う事なのかを尋ねようとしたレウスだったが、先にレアナの方から喋り始めた。
『ディルク様達は……エヴィル・ワンの復活を企んでいる様なのです。このエンヴィルーク・アンフェレイアの世界中の何処かに分けて保管されている、その身体の欠片を集めて。そこにセバクター様もいらっしゃるのなら分かるかと思いますが、その計画は着々と進んでいます』
「……はい、確かに進んでいます」
『いらっしゃいましたか。それで……その欠片を集める担当者が、先程レウス様の報告にありました赤毛の傭兵コンビなんです。カシュラーゼでレウス様を捕らえた時、その二人は貴方達がどれだけその欠片のありかを知っているつもりだったのかを聞き出すつもりでいたそうです。ですが……』
「それを俺達が知らなかったから、再び探す旅に出た……と?」
『そうなります。その二人は恐らく、今回アークトゥルスの墓の下から回収した物をカシュラーゼに届ける為に一度戻ってから、ヴァーンイレス王国に向かうものかと思われます』
「ヴァーンイレスですって!?」
まさか、自分の故郷の名前が出て来るとは思っていなかったサィードが声を上げる。
あの赤毛の連中の次の狙いが自分の故郷だと言うのは、これでディルクに続いてカシュラーゼの奴が狙う事になるので二度目である。
ディルクの侵略過程における虐殺行為によって、多数の命が奪われた事はまだまだ記憶に新しいので当然サィードは冷静でいられない。
『はい。ディルク様がそこの何処かにある地下通路の奥に、エヴィル・ワンの波動を感じたってわざわざ私に報告して来たので良く覚えています』
「報告?」
『ええ……あの方は心底、エヴィル・ワンの復活を楽しみにしている様でした。ですが前に一度ヴァーンイレスの地下通路に向かった時にはそれを見つける事が出来ず、一度カシュラーゼに戻ってエヴィル・ワンの研究と波動の解析を進めていたらしいのです』
「あの野郎……わざわざそれを報告して来るなんて、どんな神経の持ち主なんだよっ!!」
憎々しげに地面をブーツで蹴りつけるサィードを横目に、セバクターがディルクの心理について考えてみる。
「あの男は……エヴィル・ワンの復活によって世界が破滅して行く様を見届けたいのだろうな。心の底から腐っている……いや、頭がおかしいとしか思えない男だ。人が死ぬのを見ないと興奮しない。命の火が目の前で消える瞬間こそ、生き物の最後に一番ふさわしい場面だから、それを見届けるのが僕の使命なんだ。僕はそれを自分で作り出して、そして興奮するんだよ……とかって言ってた」
「いかれてるわね」
「ああ。余りにも頭がおかしすぎて、聞いていた俺の方がどうにかなりそうだった。その楽しそうな声とセリフが、いまだに頭の中に焼き付いているんだ」
「そんな興奮の為に、俺の国は……俺の国は壊滅させられたってのかよっ!? ざっけんなぁ!!」
セバクターの回想を聞いて、地面に膝をついて四つん這いになった状態のサィードが悔しそうに地面に両方の拳を叩き付ける。
しかも、レアナもそれと似た様な事を言われていたらしい。
『私も……あの方が私の様子を見に来た時にそんな話を嬉しそうにしておりましたわ。エヴィル・ワンの復活が実現すれば、この世界はあっと言う間に地獄の業火に包まれる。だからそれを邪魔する奴等は容赦なく殺してやる。だけどただ殺すんじゃ面白くないから、ある程度は見逃して泳がせた上で僕達に敵わないと分からせてから、じわじわとなぶり殺しにしてやりたい、と。そしてそれを僕と一緒に見届けてほしいんだって……』
「本当に、死んだ方が良い人間って世の中に居るのよね」
ドリスの一言に他のメンバーも頷く。
こうした人間は早めに始末しなければ、こちらがやられてしまう危険性が高いからだ。それが、エヴィル・ワンの復活を企んでいる者だとすれば尚更だ。
『あの方は何としても止めなければなりません。しかし残念ながら、私にはその力がありません。だから皆さんが頼りなんです』
「は、はい……それで俺達は、カシュラーゼに向かうよりもまずヴァーンイレスに向かえと?」
『そうです。今カシュラーゼに来られても、ディルク様の手によって部外者以外は国の敷地内に入る事も出る事も出来ない様に、強力な魔術防壁が張り巡らされています。ですから皆様はカシュラーゼに入る事は出来ません』
「だから先に、俺達がヴァーンイレスに向かってそのエヴィル・ワンの身体の欠片を回収しろって事ですね?」
『はい。まずは地下通路を探して下さい。連絡は一旦これで終わりですので、また改めて連絡させて頂きます。それでは失礼致します』