411.逃がしたくない!!
「なっ、お前等!?」
「それじゃ、目的の物は頂いたから私達はこれで失礼するわよー!」
「くそっ、逃がすか!!」
元気一杯の表情と身振りで大手を振って逃走しようとしているヨハンナと、黙ったまま無言で逃げ去ろうとしているヴェラルのコンビに対してサィードが斬り掛かろうとするが、それは何処からか飛んで来たウィンドアローで阻止される。
「うおっ!?」
「貴方達の相手は私でも師匠でも無いわ。そっちのメイベル達よ! じゃあねえー!!」
「くそっ、待てっ……うおあっ!!」
続けて二度、三度とウィンドアローを飛ばして来ているのは何とメイベル。
それを見て、セバクターは過去にも同じ事があったな……とピンと来るものがあった。
「おい、まさか俺達があのドラゴンと最初に戦った時にウィンドアローを飛ばして、強引にバトルに持ち込ませたのって……」
「ええ、それも私よ」
「くそっ、俺達をその時から尾行していたって事なのかよ!?」
「そうよ。貴方達の様子を探れって言うのも依頼の一つだったからね」
メイベルの邪魔によって逃げおおせてしまった赤毛の二人から、視線をメイベルの方に戻したサィードがそう言うと、彼女はそれもあっさりと認める。
「でも、もうその必要は無いわ。目的の物も手に入れたし、後はみんなに死んで貰うだけ。短い間だったけどこうして話せただけでも楽しかったわ。だけど……さよなら。みんなはここでアークトゥルスの墓の下に埋まって貰うのよ!!」
メイベルがそう言うと同時に、レウス達を取り囲んでいた武装集団が一斉に襲い掛かって来た。
レウスの手によって魔術防壁をドーム状に張られている為、ちょっとやそっとの攻撃では破られる事は無い。
しかし、先程のウィンドアローの様に攻撃の効果が無くても風の刃は衝撃波の一種となって目に見えるので、サィードがそれに驚いてしまうのも無理は無かった。
(くそっ、さっきは油断しちまったぜっ!!)
あの赤毛の二人に気を取られて、目の前に放たれたウィンドアローに思わず驚いてしまったのが悔やまれるサィードだったが、何時迄も悔いていても仕方が無いと諦める。
むしろ諦めたく無いのは、先程のメイベルとの会話ですっかり意識がそちらに集中していた自分達の隙を突いて、まんまと墓の中に残しておいた過去の遺物の数々を奪われてしまった事である。
だからそれを取り戻すべく、さっさとこの集団を全て倒してあの二人を追い掛けなければならないのだが、この連中はやたらと数が多いのだ。
(一人一人は大した事は無いんだが、数の面で不利過ぎる!)
その事に対して、思わず舌打ちをしながら応戦するセバクター。
レウスの張った魔術防壁もじきに効果が切れてしまう上に、メイベルの姿が何時の間にか見えなくなってしまっているのも気になる。
それは彼だけではなく、パーティーメンバーの誰もが気が付いていたのだ。
こんな時こそ、修得したファイナルカイザースラッシャーで一気に敵を蹴散らしたいのだが、あれは自分の身体にも負担が大きい上に発動する為に込める魔力も多くて時間が掛かってしまうので、こうした乱戦状態では繰り出すタイミングが見当たらない。
(こんな状況じゃあ、俺の魔術も全然発動出来ない!!)
それはファイナルカイザースラッシャーのみならず、レウスの強大な魔力から繰り出される範囲魔術もそうだった。今の乱戦状態では、詠唱に時間の掛かる魔術を発動しようとする間に敵に攻撃されて中断させられてしまうのがオチだ。
仕方が無いので手の中にエネルギーボールを生み出して、遠くの敵を攻撃するのが精一杯。
こうやって多くの敵に苦戦している間にも、あのメイベルとか言う茶色い長髪の女は遠くまで逃げてしまうだろう。
あいつだけは絶対に逃がしたくないのだが、目の前に立ちはだかる多数の人間と獣人達がそれを許してくれないのだ。
「くそっ……どけええええええっ!!」
「くっ、邪魔なのよお!!」
ソランジュとサイカは身軽な動きで敵をかく乱しつつお互いの背中をカバーする形で戦い、同じくヒルトン姉妹も血の繋がった関係のコンビネーションを遺憾無く発揮する。
サィードは「戦場の悪魔」の通り名通り、まるで悪魔の様にハルバードのリーチを活かして縦横無尽に敵の中央から攻め込んで、一気に敵を薙ぎ倒す形で攻める。
アレットは魔術で遠くから援護し、その隙を狙われない様にエルザが彼女を守りながら戦っていた。
セバクターとレウスはお互いに、他のメンバーがなかなか攻撃の手が回りそうに無い場所を優先して敵を蹴散らして行く。
「ふうーっ、何とか抜け出せたわねぇ……」
そして、この乱戦状態から隙を見つけて抜け出したメイベルは後を部下に任せて、森の出入り口に停めているワイバーンの所に戻っていた。
後は事前に示し合わせていた通り、一度国外までワイバーンで脱出してからヴェラルとヨハンナの二人と合流してアークトゥルスの墓の下から持ち出したあの物体を、金と引き換えに全て渡して貰ってディルク達の元へと届けるだけである。
だが部下達に任せて来たとは言え、あのパーティーの実力はなかなか侮れない。
なのでここはさっさと合流するべくワイバーンに乗り込んだ彼女の耳に、追いすがる怒声が聞こえて来たのはその時だった。




