409.見なかった事にしよう
「……えっ?」
「って事はもしかして、この袋の中にアークトゥルスの骨が入ってるって事!?」
「どうやらそうらしいですわね」
言葉を無くすサイカと、袋を指差して驚くドリスに同調するティーナの構図を尻目に、一枚目の手紙を読み終わったアークトゥルス本人はその袋をガサゴソと開け始めようとした……ものの、この暗い地下の中では中身が良く見えない。
そもそも手紙も地上に出てから読めば良かったんじゃないかと考えたのだが、ここに入る前に探査魔術で探知したあの不審な気配の主に手紙を読んでいる内に襲われない様にするべく、こうやって地下で読んでいるのだ。
なのでここは他のメンバーに箱の中身を取り出して貰いながら、アークトゥルスとアレットがそれぞれの光の魔術で地下室をもっと明るく照らし、一緒に中身を確認する事にした。
「ええっと……うっ……酷い臭いね……」
「中身は……うえっ、こんなのが五百年以上も良くここで保存されていたな……」
「こっちの二つは確かにドラゴンの……エヴィル・ワンの身体の欠片で、こっちのが角と尻尾の欠片と……アークトゥルスの骨か!!」
その臭いに顔をしかめるドリスとソランジュの傍らで、エルザが袋の中身を確かめて分析する。
どうやらエレインの書き残した手紙の内容は本当だったらしいのだが、当のアークトゥルス本人からしてみればどうリアクションすれば良いのか分からない。
燃やし尽くされて骨だけになった自分が、こうやってエヴィル・ワンの身体の一部と一緒に埋葬されていたなんて。
「俺……俺は結局生死不明となったままって訳か……ガラハッドのせいで!!」
「でも、それよりも気になる事があるわ。ほら、ガラハッドはエレインを殺してここに埋めたって話だった様な気がするけど、それと矛盾していないかしら?」
「そうだよな。それと話が噛み合わないよな?」
何で話が噛み合わないのだろうと思いながらも、二枚目の手紙に書かれている残りの文章をアークトゥルスは読み進める。
『ここにアークトゥルスの骨を埋めましたが、私が狙われている事実は変わりません。ですから私はワイバーンで他の国に向かいます。そうだな……アークトゥルスの墓の中で死ぬのも悪くないと思いましたけど、でもまだ私は生きていたい。私が生き続ける事が、アークトゥルスに対してのせめてもの罪滅ぼしだと思うから。そう……ガラハッドによって殺されるのを見ているだけしか出来なかった、私のせめてもの償い……』
「意味分からん。そもそも償いもクソもあるかあの女!」
アークトゥルスはエレインの手紙の内容を一蹴する。
そもそも生き続ける事が別に償いになる訳でも無いし、自分が殺された真実を知ってしまった以上あのエヴィル・ワンとともに全員纏めて死んだ方が良かった気がすると吐き捨てる。
そして、手紙の最後には彼女からこう綴られていた。
『私は西の方に行きます。そうですね……西にあるヴァーンイレス王国に行って、それから先の事はそれから考えますよ。その前に、何時かこの墓の下に埋めたアークトゥルスの骨に気が付いて貰える様に仕掛けを施しておきます。墓石の裏にアークトゥルスの手と同じ大きさの手形を掘っておきますので、もしアークトゥルスの魔力がまだこの世界の何処かにあるのなら、その魔力を手形にかざせばこの墓石が開きます。それでは、さようなら』
「すっごく……すっっっっっごく時間の掛かる仕掛けを施したものね。宝探しやってるんじゃないのよこっちは!!」
かなり苛立ちが募っている口調を隠そうともしないドリスが憎々し気に吐き捨てるものの、彼女の姉のティーナはポジティブに考える。
「まあまあ……そのおかげで、こうやってエヴィル・ワンの身体の一部が見つかったんですもの。そのガラハッドの部屋から持ち出してここに隠したんですから、何処にあるか分かって良かったですわ。後はここにそっとしておきましょうよ」
「そ、そうね。これを持ち出しちゃったらエヴィル・ワンを復活させる事になっちゃうかも知れないんだし、ここはその骨と手紙も一緒に置いて行きましょう」
「そうだな。ここは見なかった事にして、アークトゥルスの墓には何も無かったと伝えるんだ。どうやらこの墓はレウスでしか開けられないみたいだから、閉めてしまえば完全にロックが掛かるから盗まれる心配も無いだろう」
ヒルトン姉妹の話にセバクターも乗っかり、全てを纏めて出て行こうとする一行。
もし、あのガラハッドの子孫であるジェラルドにこれを見つけられでもしたらどんな展開になるか分かったものでは無いし、ただでさえ軍事力に力を入れている国なので今回の発見に乗じてガラハッドと同じくジェラルドまでエヴィル・ワンの復活をしよう、となったらそれこそ世界が破滅してしまうだろう。
だが、アークトゥルスだけは違った。
「いいや、手紙だけは持って行かせてくれないか」
「何で?」
「エレインが俺に対して残したメッセージだからな。どうやらあいつはヴァーンイレス王国に行ったみたいだし、そこで何かまた見つかるかも知れない。だからここで見つかった物を忘れないようにする為にも、手紙だけは持って行っていいか?」
「手紙だけなら……まぁ、大丈夫かな」
アレットを始め、他のメンバーからは特に何も反論は無かったのでその手紙だけを懐にしまい込んで、アークトゥルス……いや、レウスは地上に出る。
だがその彼の目の前に、多数の人影が姿を現わしたのはその時だった。




