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38.空からの襲撃者

 そのドラゴンはスピードを緩める事無く、三人の上空を通過して一気に学院へと突っ込んで来た。

 ドラゴンの体当たりの一撃で学院の建物に、文字通りの衝撃が走る。

 レウスはそれを見て、あの襲撃事件以降ずっと護身用や緊急用として持ち歩いている例の笛を取り出して咥え、力一杯息を吹き込んだ。

 休日の昼下がりで賑やかさが消えていたマウデル騎士学院に、緊急事態を知らせる笛の音が再び響き渡る。

 しかし、今回は事情が違う。

 休日だからこそ、対応出来る人数に限りがある上に城下町に出てしまっている生徒も多いので、何事かと部屋の窓から顔を出す生徒は少ない。

 ドラゴンが襲撃して来た事については、今の体当たりで建物が揺れた事で気づいた人間の方が多いだろう。


「くそっ、俺の学院に何て事しやがる!!」

「叔父さん、落ち着いて!」

「これが落ち着いていられるかってんだよ!!」


 額に青筋を浮かべながらドラゴンに向かって駆け出そうとするエドガーをエルザが止める一方で、レウスは別の訓練用の槍を持ち出して駆け出した。


「エドガーさんの言う通りだ。今は落ち着くよりも先にこの学院の関係者達を避難させつつ、あいつを止めるぞ!」

「わ……分かった!」

「俺はドラゴンを止める為に屋上へ行ってあいつを引き付けるから、エルザとエドガーさんは寮の生徒達とか職員の人達とかを学院の安全な場所へ移動させてくれ! なるべく学院から大きく離れて、ドラゴンのターゲットにならない様にするんだ!!」


 そう言い残してレウスは屋上へと向かい、口に笛を咥えつつ自分の必殺技を駆使してあのドラゴンを止める事に専念する。

 普通は走ってはいけない廊下を、全力疾走で駆け抜けながら時折り笛を鳴らして、廊下の曲がり角を曲がって階段に差し掛かってからもまた吹き鳴らす。

 そしてまた上の階に上がってから吹き鳴らし、非常事態になっている事を知らせつつ屋上へと走り続けた。

 一体何故、ドラゴンがこの学院に突っ込んで来たのだろうか?


(野生のドラゴンなのか? それともドラゴンを移動手段の一つとして飼っている牧場から逃げ出して来たとか? そもそもどうしてこの学院にやって来たんだ? それこそこのカルヴィスの騎士団員達は何をやっているんだ? この学院のセキュリティはどうなってるんだ? ギルベルト騎士団長は動いているのか?)


 色々な疑問が次々に頭の中に浮かんでは消えて行く中で、レウスの身体をまた衝撃が襲う。

 しかし前の様に何か攻撃を受けたのでは無く、この学院の建物が揺れている。

 それと同時にガラスが割れる音や、ガラガラと壁だか地面だかが抉れたり削れたりした様な音が聞こえて来たので、ドラゴンが再び体当たりをかましたのが直感で分かった。

 まさかこの学院を狙って襲撃して来たのか? と思いつつ、レウスは笛を口から離してポケットにしまい込み、自分の目の前に見える屋上へのドアを半ば体当たりする様に開けた。


(何処だ……何処に居る!?)


 学院は直方体型の建物なので、屋上も平坦な屋根で迎え撃ちやすいと言えば迎え撃ちやすい。

 だが遮蔽物になりそうな壁等が一切無いので、ドラゴンが突っ込んで来たらしっかり避けなければ自分がドラゴンに体当たりされる可能性がある。

 しかも落下防止用の柵も見当たらないとなれば、ドラゴンの攻撃を回避した先が空中だったのでそのまま勢い余って落下……等の結末も考えられる。

 とにかくこの場から落ちる事だけは絶対に避けたいと考えつつ、レウスは屋上から学院の敷地中を見渡してあのドラゴンの姿を探す。


「レウス、あそこだ!」

「え?」


 だが、先にドラゴンを見つけたのはレウスでは無かった。

 声のする方を見てみると、そこには先程訓練場で学院のみんなに避難指示を出す様に自分が指示を出して別れた筈の、エルザの姿があったのだ。


「おい、何故ここに居るんだ!?」

「エドガー叔父さんから頼まれたんだ……貴様をサポートしてくれって! 今エドガーさんは魔術防壁を展開しに向かって、その後にみんなを避難させるって言っていた!」

「だったらあんたも早く逃げろ!」

「おい、来たぞ!!」


 自分の叫び声のすぐ後に、エルザが自分の後ろを指差して叫んだので半ば反射的にレウスはその指の方向を見る。

 そこには、明らかに自分に向かって突っ込んで来る黒いドラゴンの姿があったのだ。


「うわっ!?」


 考えるよりも先に身体が反応したレウスは、横っ飛びから屋上を転がってドラゴンの体当たりを回避する。

 ターゲットを仕留め損ねたドラゴンはそのまま屋上を横切り、空中で大きく旋回してまたレウスの方に向かって来た。

 人間は見た物に向かって行く習性があり、動き回る目標物があればそれに注目しやすいのだが、それはドラゴンでも同じなのかも知れない。

 だがこのまま学院の建物を破壊して行くのを見て、何もしないのは仮にも学院の生徒としては見過ごせない。

 訓練用の武器しか持って来ていないのでその点だけが不安なレウスだが、とにかくこのまま屋上で自分とエルザの二人でドラゴンを迎え撃つ事に決めた。

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