406.墓の秘密
メイベルの存在に気が付く事が無いレウス。
探査魔術を使用したままだと、その墓から流れて来る自分の魔力の流れが分からなくなってしまうので今は切ってしまっているのだ。それに、アレットと共にセバクターに回復魔術を掛け続けていた事もあって魔力の消費に対して無意識に危機感を抱いてしまっていた。
その二つの理由から探査魔術を止めた事でハッキリと自分の魔力の流れが分かる様になり、迷い無く足を進めて森の奥へと進むレウス。
だが、所々にアークトゥルスの墓へと続く道を示す立て札が立っているので別に魔力を辿らなくても墓へ辿り着く事が出来そうだ。
(でも……墓への道しるべになっている以上に俺の魔力が漏れ出してリーフォセリアまで届いたって事の方が気になる。俺自身はそこまで魔力が強いとは思わないんだがなあ?)
魔力の保有量は常人の十倍。しかし、魔力そのものと言う面では特に他の人間と変わらない。
だとしたら何か漏れ出した原因があるのでは無いかと思ったレウスは、自分の魔力がその立て札が示す道とは別の方向に流れているのでは? と推測した。
それがもし別の場所に向かっていたとしたら、探査魔術を使い続けていて見落としてしまう可能性もある。
やっぱり探査魔術を使うのを止めておいて正解だったかも知れないなと思いつつ、自分の魔力を辿って更に先へと進んで行く。
だが、その目的となっている墓は余り時間を置かずに一行の目の前に現われたのだ。
「……おい……まさかこれか? 俺の墓って」
「どうやらそうらしいな。ほら、貴様の名前が書いてあるからな」
所々に苔が生えている、くすんだ灰色の大きな墓。この中で一番背が高いサィードよりも更に頭二つ分の高さがあり、奥行きも人間が十人分縦一列に並べる程のサイズだ。
そしてエルザの言う通りこの墓標に刻まれているのは、確かに「アークトゥルス」の名前であった。
しかし、それよりも更に気になるものを墓の後ろに回り込んでいたそのサィードが見つけたのだ。
「あれっ……おい、何だこれ?」
「どうした?」
「ほらこれこれ。これって誰かの手を置く場所なんじゃねえのかな?」
サィードの声に導かれた他のメンバーが墓の裏に回ってみると、そこには確かに墓標に不自然に刻まれた手形があったのだ。
誰かのいたずらにしては不自然だし、これはひょっとすると……とサィードが自分の手をその手形の上に置いてみるものの……。
「駄目だ、サイズが合わねえや」
「もうちょっと小さいわよね。それじゃ今度は私が……んん~、駄目か……」
サイカも続けて手を置いてみるものの、彼女の手からするとその手形は大きいのでやっぱり合わない。
ならばと順番に他のメンバーが手を置いて行ってみるも何も変化が無く、最後に残ったのがレウスだったのだ。
その自分の順番が回って来た時、ふとレウスは周りを見渡してみる。
「……」
「おい、どうしたんだよ早く置けよ」
「しっ! 静かに……」
一旦手を置くのを止めたレウスが、先程から止めていた探査魔術を再び展開する。
さっきから、何だか誰かに見られている気がしてどうにも落ち着かないので、ここは一度探査魔術で探ってみて不安を取り除こうとしたのだが逆効果だったらしい。
「……!?」
「どうしたのよ?」
「数人、この近くに息を潜めて俺達の様子を窺っているみたいだ」
「えっ!?」
「待て、動くな……ここは気が付かない振りをするんだ!」
レウスの探査報告に反応して周囲を見渡しかけたパーティーメンバー達を、小さいながらも力強い声でレウスが制止する。恐らく、その見られている気配の主は最近噂になっている人影なのだろう。
だがここで変に反応してしまうと感づかれて逃げられてしまう可能性があるので、ここは気が付かない振りをしながら墓の手形に向かって自分の手を押し付けてみるレウス。
するとその瞬間、今まで他のメンバーが試してみても何も起こらなかったその手形がゴゴゴ……と音を立てて奥に沈んで行く。
「な……何だ?」
「全員離れろ!」
レウスの声によって彼を含むパーティーメンバー全員が墓から離れるその目の前で、墓が何と縦にスライドし始めたのである。
そしてゆっくりと重苦しい音とともにスライドして行く墓の下から、むわっとした臭いが漂って来る地下への階段が現われたのだ。
「これは……?」
「どうやらさっきの手形、貴方だけに反応するらしいわね」
「そうですわね。それにさっきから気になっていたんですけど、この墓の事を「俺の墓」とか「貴様の墓」とかって言っていたの、私達はしっかりと聞きましたわ」
「……まぁ、それは何時か話す時が来るかも知れないな。それよりも今はこの墓の下に何かがあるって事だから、それを調べなきゃな」
迂闊だった。
まだ、このヒルトン姉妹にはレウスがアークトゥルスの生まれ変わりだと言うのは話していないので知られていなかった。
しかし今はそんな事よりも、このいきなり現われた墓の下の階段の先に一体何があるのかを調べるのが先なので、そこは軽く流しながらレウスは一行を先導して階段を下り始めた。




