402.予想外の事態
本当はジェラルドもフォンもニーヴァスも現地に行きたかったのだが、さっきも自分で言った通り自分達の帝国の首都とこの城を直すのに問題が山積みの為、身動きが取れないのが何よりも悔しいらしい。
なのでこうやって二人とその仲間達に頼むのだが、だからと言って二人の容疑が晴れた訳では無いのだと言う。
「言っておくが、今からのお前等は仮釈放って事になるからよ。それを忘れて逃亡しようもんなら、エスヴァリーク帝国軍を総動員して地の果てまでも追い回して捕まえるからよ。それを忘れんじゃねえぞ」
「分かってるさ。こっちだってドラゴンを倒したのにこうやって元凶扱いされているんだから、その活躍を抜きにされた上にカシュラーゼと繋がりがあるって言われても胸糞悪いままだしな。まぁ……セバクターは確かにそう言われても不思議じゃないけど」
とにかく、自分達が現地に向かってその人影の正体とやらを探れば良いのだろうと開き直るレウス。もしかしたら今回の爆破事件を引き起こした本当の犯人が居るかも知れないし、セバクターが用意した魔晶石を奪い取ったあの赤毛の二人がその人影の正体の可能性もある。
それを突き止めて、ついでに自分の墓に何があるのかを知って身の潔白を証明すればジェラルド達を納得させられるだろう。
そう考えたレウスはジェラルド達に転送陣を用意して貰って、南にある自分の墓とやらにいよいよ向かう事になった。
◇
その頃、帝都ユディソスの出入り口から少し離れた所で一人の茶髪の女が悔しそうな顔つきをしながら、魔晶石で何処かへ通話をしようとしていた。
(くっ……これじゃあ無理ね!)
全くもって予想外の事態になってしまった。
カシュラーゼの王都エルヴァンから、急いでワイバーンでこのユディソスまで飛んで来たは良いものの、どうやらこの後の行動計画を大きく変更せざるを得なくなってしまったらしいとメイベルは歯嚙みする。
本来の計画であれば、混乱が生じて出入国審査もままならないこのユディソスに隙を見て入り込み、そのままあのアークトゥルスの生まれ変わりの一行と合流してアークトゥルスの墓へと向かう様に仕向け、一緒に墓まで向かう筈だった。
(それがこうやってワイバーンで来てみれば……城門自体が閉ざされているって話じゃない。と言う事は……そこまでの被害状況をあの二人は作り出したって事になるのよね?)
自分の部下である副団長の獣人達に「くれぐれもやり過ぎるな」と釘を刺しておくべきだった、と後悔しても今更遅い。
出入り口の警備をしていた騎士団員には、帝都の至る所で爆発が起こってしまったので緊急事態として帝国中から騎士団員が集まっているし、魔術師達も治療や救護活動の為に集結しているので、身分を証明出来る通行証が無ければ中に入れる事は出来ない、と追い返されてしまった。
なのでメイベルは再びドミンゴとの通話を開始してその事を報告するとともに、これからどうすれば良いのか指示を仰ぐ事にしたのだ。
「……はい、ええ、そうなんです。それでユディソスの中に入れないので、そのアークトゥルスの生まれ変わり達とも自然に再会出来ない状態でして……」
『そうか……まあ、ディルク様は研究に没頭されているからそう言う要領の悪さが時々出てしまうんだ』
「どう言う事ですか、それ……」
あんたは一体何を言っているんだ? と思わず突っ込みそうになったメイベルだが、今はそれよりも自分がこの先どうするべきかを聞くのが優先なので、さっさと話を元に戻す。
「まあ良いです。それでですね、私としてはこの後このままアークトゥルスの墓に向かった方が良いかと思うのですが」
『あー……そうだな。私もそれが良いと思うぞ。赤毛の二人からの話では、まだそのアークトゥルスの墓に奴等が現れたと言う情報は無いからな』
「えっ、赤毛の二人が既にそっちに行っているんですか?」
そんな話は初耳だし、それだったら自分がわざわざワイバーンで向かう必要も無いだろうとメイベルは抗議する。
しかしドミンゴは、奴等を油断させる為にメイベルもアークトゥルスの墓に向かうべきだと言うのだ。
『いいや、君にも行って貰う』
「それって手間じゃないです?」
『追加依頼として頼んだ筈だ。それに君は一度そのアークトゥルスの生まれ変わり達と接触しているのだろう? ウィンドアローでドラゴンが目覚める様に仕向けた後に戦う様子を見て、そして二度目の戦いの時に再び尾行して、望遠鏡で様子がおかしいのに気が付いたのを逆に利用して上手く接触したんだって言っていたじゃないか』
彼女にその面識と実績と信頼があるからこそ、奴等を油断させる事が出来るだろうとドミンゴは踏んだのだ。
それに、アークトゥルスの墓はこのエスヴァリークの観光スポットの一つとなっているのもあって、その一行に「旅をしている」と嘘をついているのなら説得力も出るじゃないか、と押し切られてしまった。
(妙に納得出来たのが悔しいわね……)
自分は案外、押しに弱いタイプなのかしら? と自分が分かっていなかった一面に気が付き始めたメイベルは、ドミンゴの「自分の墓があるのならきっとアークトゥルスは来る筈だ」との予想が当たる事を信じて、ワイバーンがなるべく目立たない様に海の方から迂回するルートで南に向かって飛び立った。